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迷宮の歩き方  作者: Dombom
光の射す方へ
29/70

迷宮生活10日目その四

ムカデ注意報。予定より展開が遅れそうです。

「おああああ!止めときゃよかった!止めときゃよかった!アイツらが死ねばよかったんだよおおおおおおお!!」


全速力で洞窟を逆走する俺。だが、起伏の激しい場所では、二脚タイプより多脚タイプの方が圧倒的に有利だということを俺は忘れていた。ましてや向こうは大ムカデだ。俺の50倍近くの足がある。


「くおおお!」


後ろの大ムカデどもが、押し寄せる水の壁の様に、次々と走る俺の背に飛び掛かってくる。一度足を取られてしまえばもう終わりだ。俺の脳裏にペトリャスカの最期がフラッシュバックする。ふと見れば、俺の左腕から肌を破って大ムカデが飛び出してきていた。


「うおあ!」


俺は思いっきり左腕を振り抜く。大ムカデは何の抵抗もなく振り落され、後ろの鉄砲水のような群れの中に消えて行った。左腕のムカデは・・・目の錯覚だったか。だが、俺の目に一瞬見えた光景は。今にも現実になろうとしている。一歩でも足を挫けば、一瞬でムカデの餌だ。




「無理だ!無理だ!」


俺は全身全霊をかけて走っているが、もう追い付かれそうだ。ランナーズハイだろうか?ふと、これまでの死線が走馬灯のように流れてゆく。これまでは一匹一匹が俺の命をサクッと持って行っていくほどの個体だったが、今回は違う。


「全く数は力だね!」


俺が助けたあの一団のことが思い起こされる。俺は功利主義者じゃないが、俺の命一つであのパーティーの全員の命が救われたと思えば安いものだ。俺なんて誇るものもないし、日本にいる時は周りに流されてただ漫然と生きていた。世界全体から見れば俺の命は大した価値もない。今ここに来て初めて生きている感じがするよ。


いや、違うな。日本に居た時だって俺は確かに生きていたんだ。だが、それに気付いてすらいなかった。病気になってから初めて健康に気付く。潜水して初めて空気の大切さに気付く。俺は右半身を溶かされ、どてっぱらを貫かれ、どつかれ殴られ投げられ飛ばされ切られ焼かれ・・・そうやって初めて生きていることに気付いた。


せっかく生きている幸せに気付き、自分の命を守るためにしぶとく生きようと決めたのに・・・他人のために俺の命をかけるなんて止めればよかった。これだけの数、対処できるはずがない。もう駄目だ。




だが、俺は諦めだけは悪いんでね。飲まれたって走ってやるよ。今の俺は気合と勇気と努力と根性の4WDだ!


「あれは?行けるか!いや、行くしかない!」


諦めずに走っていた俺の前に、地面にぽっかりと大口を空いた亀裂が現れた。行きの時は慎重に岩の出っ張りを伝って下りたが、今は・・・飛び越えるしかない!


もう俺の後ろに迫る蟲津波との差は髪の毛一本ほどの余裕もない。一方で目の前に開く亀裂は5メートルもある。


「いやいや無理だろおおおお!!!」


ダメ人間丸出しの絶叫で崖の対岸へ向けて足を踏み出した俺。空中を駆ける俺の背に、大ムカデの群れがまるで黒い巨人の腕のように、俺を捕らえようと迫る。俺の背にバチバチと大ムカデが当たっては取りつき、あるいは振り落される。


「っく!届けええ!!」


だが、距離が、高さが絶望的なまでに足りない。崖の反対側に激突するならまだしも、このままでは亀裂の底へ真っ逆さまだ。やっぱ無理だったか・・・と、背筋が寒くなってきた。




「うぐえぇ!」


不意に俺の首が、何か生暖かい紐状のものに空中で捉えられた。まるで、首に命綱をつけた死ぬ気のバンジーだ。


「うぼぼぼ!」


ヤバい!何がヤバいか分からないけど、とにかくヤバい!首が脱臼する!死ぬ!この首に巻かれた紐は一体!?俺は反射的に俺の首を絞めているその謎の綱を握った。俺は俺の左手に全身全霊の力を込めてぬら付くその何かを思いっきり引いた。


俺の咄嗟の判断が功を奏したのか、俺はひどく不恰好なターザンの様に何とか地の底へと大口を開ける亀裂を渡り切ることが出来た。




亀裂の向こう側へなんっとか降り立った俺は、緊張と息苦しさに思わず膝を付く。ビン!と張ったその謎の紐に、俺は今にも崖へ引き戻されそうだ。この首に巻きつかれたピンク色の綱を外そうと左手に力をかけたその時、背にべちゃりと何とも言いようのない生柔らかい衝撃を受けた。背筋がひやりとする。


「あ゛っくあ・・・」


首が締まって苦しすぎるせいで意識が朦朧としていたが、俺は何とか後ろを振り返った。俺の目には、俺の背に張り付いていた大ムカデが何かピンク色の紐状のものに巻き取られ、空中に引かれてゆくのが見えた。その先には・・・


「くぁえル・・・」


天井にはあの大カエルどもが何匹も張り付き、空中に飛び出していく大ムカデを異様に長い舌を伸ばして次々に捕食していた。カエルたちは本能的に動くモノを舌で捉えてゆくのだろう。その中の一匹の舌が俺の首に巻きついていた。俺を捕らえたカエルは天井に張り付いている。踏ん張りがきかないはずなのに、どうやってそんな力が出るんだと思うほどの力で大ガエルは俺を引いてゆく。


「うぼぼぼ・・・」


俺は指の無い右手に括り付けたナイフで、何とか舌を切ろうと右腕を動かす。だが、悲しいかな・・・ナイフを振えど振るえど白い塊で凝り固まり、可動域の狭い俺の腕では角度的にどうしようもない。今にも空中へ引きずり出されそうだ。


このままだと、カエルの舌で絞首刑・・・


「あ゛ああ゛ああ゛あ゛ぁああ゛あああぁぁ゛あ゛ああ!!」


俺は首を絞められ真っ赤になった顔で、思いっきりクソガエルの舌を掴み、舌を引きちぎる勢いで引っ張り返した。


俺の決死の反撃に、ビチン!と間抜けな音を立てて大ガエルが天井から落ちた。一瞬だが首に巻きついていた舌が緩み、右腕のナイフが届く位置に舌が来た。今この舌を切らねば亀裂へと落ちてゆくカエルに引かれて、俺も崖下へ真っ逆さまだ。チャンスは今しかない。


「っおお!」


下に落ちるカエルに引かれる前、ピンクのぬらつく舌が緩んだその瞬間に、俺は右腕に括り付けたナイフで俺の首とカエルを繋ぐ舌を一閃、切り裂いた。




「はーっ!はーっ!はー・・・」


首に巻きついていた舌を何とか引きはがした俺は四肢を床に付き、崖下を覗いている。俺の首を捕らえていたカエルは、亀裂の底、渦巻く大ムカデの群れに呑まれた。


「ゲッ!ゲゴ・・・」


ニシキヘビも一飲みにするような大ガエルは、見る見るうちに蠢く大ムカデどもに削られて行く。あまりの苦しみに大ガエルは思わず口を開けた。その口にさえ大ムカデの群れは、容赦なく次々になだれ込む。見る見るうちに膨らんでゆく大ガエルの体。


「・・・!」


大ガエルはその口を塞がれ、断末魔を上げることすら許されず破裂した。大ガエルから飛び散った肉片や血は、すぐに大ムカデの渦潮に呑まれて見えなくなってしまった。一歩間違えれば、ああなっていたのは俺だ。




「っく、はぁーはぁー」


一瞬とは言え完全な首つり状態になってしまったのだ。今まで根性で何とかしてきたが、こればかりは立ち直るのに時間がかかる。


あっという間に大ガエルを呑み込んだ大ムカデの群れは、既にこちら側の崖を登り始めていた。要領よく登って来た何匹かの個体が、四肢をごつごつした床面に付く俺の脇を通り抜けてゆく。わしゃわしゃ動く大ムカデの足が、ひどくゆっくりに見える。


「覚悟を決めるしかないか・・・」


俺は古びた剣を背にかけ、体を丸くした。大ムカデの大群は、亀裂の底からまるで重力が逆転しているかと思うほどの勢いで雪崩のように登ってくる。次の瞬間、俺は大ムカデの黒い濁流に呑まれた。


早間龍彦


称号

「????」「怪獣大進撃」「大蜂・大狼・大カブト・鳳・大軍百足殺し」「食わせ物」「大番狂わせ」「樹海の匠」「魔弓の射手」「影無き追跡者」「悪運」「敵の敵は味方」「心眼琉舞」「一難去って」「先手の極意」「不撓不屈」「死神の忌避」「蜘蛛の糸」「鎧抜き」「惻隠の情」「初心」「お人よし」「受け継ぐ者」「死神」「探検家」「必殺仕事人」「隠形」


「命知らず」:首つりバンジーという命知らずで危険な行為をした


遭遇生物

「洗礼の 大挙する 大毒ムカデ」

「忍び寄る 蛇呑みの 大蛙」


アイテム

大猪の牙 火起こし機 水筒 海淵の指輪 意思読みの首飾り 返話の指輪 万能ポシェット(謎の試験管 識別票 その他不明) 古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9 謎液の上澄み)


装備品

錆びた装飾剣 龍爪ナイフ 毛皮のマント 革の小手 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 ひび割れた羊の兜 ぼろの足袋

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