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迷宮の歩き方  作者: Dombom
深淵はかくも無常/無情なりき
14/70

迷宮生活7日目その三

「右良し、左良し、正面、上下良し。」


とりあえず安全確認をした俺は、そっと扉から再び樹海に入った。洞窟より樹海の方が光量がずっと多い。洞窟から覗くと目が眩むほどだが、扉の隙間からチラチラ見ている限りでは安全そうだった。


「待ち伏せされてたら終わりだな。」


俺を執拗に狙ってくる猛獣どもは、俺がこの扉を抜けたことを知っているはずだ。だが、ざっと見回した限りでは待ち伏せは無いようだった。


「何はともあれ食い物と水だな。」


昨日延々と走ったせいで、お腹はペコペコだ。




俺は辺りを警戒しながら進む。道行く中で大団栗の殻は二つ手に入った。片方は半分にして蒸留水を作る用の鍋にしようか?少なくとも一つは割れてしまった水筒用だ。


「肉がくいてぇ・・・」


茂みから覗く俺の目の前では、赤毛の大狼達が金猪の死骸に群がっていた。大猪は昨日巨熊に殺された個体だろうか?とてもじゃないが割り込めないな。


「無理なものは諦めるしかないか。」


今の俺は弓があるとはいえ、ほとんど丸腰だ。あの大狼達を追い払って肉を横取りするほどの実力は無い。しょうがないか。


大狼の群れを素通りしようとした俺だったが、ふと見るとおかしなことに気付いた。なんと、大狼が群がっていない大猪の死骸があるではないか。


「罠くせー。でも一応見に行くだけでも見に行くか。」




森に近い所に一匹の大猪が息絶えている。その胸には巨熊の爪の跡が深々と刻まれ、時間が経って黒くなった血を垂らしている。肉は大丈夫か心配したが、時間的には昨晩息絶えたはずだ。やや酸っぱい臭いがする気がするが、この肉は焼けばまだまだ十分食べられるだろう。・・・たぶん。


「何故に大狼は、こいつだけ避けるんだろうな?」


俺は残った最後の龍爪ナイフで苦戦しつつも金猪の皮を剥ぎ、肉を切り出した。切り取った肉の塊は、大きな葉っぱに包んで蔦で縛った。何が大狼を遠ざけているのかは知らないが、肉を捌くのに夢中になって前みたいに囲まれたくはない。




「この分だと、水も汲めるか?」


辺りを見る限り、大猪の影は無い。あっさりと肉を手にした俺は気が緩んでいた。いや、気が緩んでいるということには気付いているのだが、いまいち気を引き締めることが出来ない。危機感が足りていないのだろうか?


「ま、大丈夫じゃね?」


昨日まで引き締まりっぱなしだった緊張の糸が、ぷっつりと切れていた。俺は糸の切れた凧のように、ふわふわとした気持ちを抑えることが出来ない。当然と言えば当然か。


今まで、この樹海は出口すらわからない未知の環境だった。その樹海が、今や出口が分かっているのだから。しかも、その扉はあの大猪や巨熊、あの山のような龍でさえ超えることが出来ない。どんなに困っても、扉の向こうに逃げ帰りさえすれば安心なのだ。




今までは木の上に登っていたとしても、いつも猛獣どもの影におびえていたからな。やっと解放されたって感じだ。実際は全然解放されていないのだが、そこは大して問題ではない。今では自分の意志でどうにかなるものがある。


「選択できる自由」というのは例えその範囲が僅かでも、今まで完全な不自由にあった俺にとって、非常にありがたいものなのだ。確かに俺にはあの洞窟の湖を超える手段はないし、湖の中にはやはり恐ろしい生き物が住んでいる。状況は樹海にいたころと、あまり差は無いのかもしれない。


「それでも、僅かな陸の上だけは安全地帯っていうのはめちゃくちゃ有難いね。」


例えあの湖が渡れなくても、あれが外へ出る糸口には違いない。何とかしてあの向こうまで行きたいものだな。




「蔦と薪はいくらあってもいいからな。」


あの黒い巨熊は何処へ行ってしまったんだろうか?適当に薪になりそうな枝と、数十メートル分の蔦を背負った俺は小川で水を汲み大団栗に詰めた。改めて考えると、蒸留は面倒なことこの上ない。一度沸かす程度にするか?


「こうもあっさり行くと、何か根本的なところで大ポカをやらかしてるような気がするんだよな。いや、この場合は既にやらかしてしまっているんだろうか?」


一体なんだろうか?と、道々もいだ赤小梨と漢方の葉を水洗いした。道々さくっと痺れる実を使って、大蜂を仕留めた。最早日課だな。俺は背負った持って帰る用の薪とは別に、新たに集めた薪を使って火を起こし、大蜂を焙る。ついでに水も沸かしておく。


昨日にしろ何にしろ、命がいくつあっても足りないような目にばっかり合ってるよな。


「・・・ところがどっこい、生きてるんだよなー。」


天をというか、天井を仰いで大蜂を食べる。


「疲れたな・・・」


土産で食いもんを持って帰るか。俺は、余計にとった大蜂を背負っておく。扉の向こうに帰ったら、肉と一緒に焙っておこう。火を使うと俺の位置を猛獣どもに知らせるようなものだ。長居は禁物。




「ま、こうなるわな。」


俺は肩を落とした。大扉の前には金の大猪が陣取っていた。乙事主こと大猪よりも二回りは大きい親玉が俺をじっと見据えている。


あの大狼どもは影も形もない。汚らしく食い荒らされた死体だけが残されていた。


あのままこちら側に戻ってこないのが、正解だったんだろうな。だが、そうは言っても俺はそこまでサバイバル能力は高くはない。安全だが不毛な洞窟では生きてはいけない。危険を冒してでも、食料は肥沃な樹海に頼らなければならないのだ。




正直なところ、疲れた。死ぬ死ぬ詐欺ばっかりじゃん。もういいし。殺せよー。殺せよー。


いや、まだ無理だわ。元居た所は帰ったところで、何ということも無い世界だ。向こうに居た時は何のありがたみも感じなかったけど、こう訳の分からないところに放り出されると無性に帰りたくなる。それが故郷って奴なのだと、俺は思います。

早間龍彦


称号

「????」「怪獣大進撃」「大蜂殺し」「食わせ物」「大狼殺し」「大番狂わせ」「一撃必殺」「大カブト殺し」「樹海の匠」「おおとり殺し」「魔弓の射手」「必中」「冷静沈着」「影無き追跡者」「悪運」「鉄人」「敵の敵は味方」「喉元過ぎれば」


遭遇生物

「無双の 血塗れた 大紅狼」

「屈強な 金毛の 大猪」

「偉大なる 金剛の 巨猪」


アイテム

大猪の毛皮 大猪の牙 火起こし機 鉤爪ロープ 宝石? 鉱石? 水筒x2 饐えた肉


装備品

龍爪ナイフ 甲殻の鎧+ 革の小手+ 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x5 大羊の兜 毛皮の足袋

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