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迷宮の歩き方  作者: Dombom
無様でもいい。生き延びろ。
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迷宮生活6日目その三

出来る限り音を立てないように慎重に金色の大猪の後を追っていく。俺の猪革の足袋はその簡素な造りに反して、結構な距離を歩いてもほとんど擦り切れた様子はない。毛皮を蔦で縫っただけなのにな。


とにかくこの毛皮の足袋は音を立てずに森を移動するには好都合だ。そんな風に俺は音にばかり気を取られ、肝心なことを忘れていたのだった。そう、俺が追っているのは金猪一頭ではなく、神殿に向かう金猪の群れだったということに。


音ばかり気にしていた俺は、右斜め後方から近づいてくる影にギリギリまで気付かなかった。そう、他の金猪が合流してきたのだ。俺は慌てて、だが、出来るだけ目立たないように茂みに身を隠した。急に動くものは逆に目立つからな。


「どうやら・・・気付かれてはいないか。」


まさか追っていた大猪が他の大猪と合流するなんて思ってもみなかった。いや、俺が追っていた個体を含めて、大猪の群れは神殿へと向かっている。合流する可能性は十分想定してしかるべきことだった。


「やっぱり素人芸では駄目だな。」


生兵法は怪我の元。相手は気付いていなかったとはいえ、俺が背後を盗られたと悟った時は、流石に背筋が凍る思いがした。これからは背後にも気を付けなければ。


尾行しているつもりが、逆尾行されていたなんて笑い話にもなりゃしない。今回は偶々運が良かったおかげで助かったが、それまで全く背後に対して注意が向いていなかったことに気付かされたようで戦慄した。まさかこんなところで「俺の後ろに立つな!」の気分を身を持って味わうとは。




「これ以上は無理か。」


合流してくる大猪は次第に増えていた。見つからないように進むだけならまだ余裕はあるが、これ以上進めばもし見つかった時に逃げ切る自信がない。


俺は余裕をもって、さらに少し下がったところにある木に登ることにした。この木の上ならば大猪達に見つかる危険も減るし、何より遠くから神殿の入り口を見ることが出来る。俺はサル顔負けとまではいかないが、なかなかの速度で蔦を伝って大木に上った。


「ホントいい経験だよ。全く。帰ったら自慢したいね。」




「一体何が起こってるんだ?」


勇んで木に登っていた俺だが、ふと違和感を感じた。森が静か過ぎるのだ。


これまでの感じから、あの大猪の群れは俺がここに来た時と同じぐらいの個体が集まっているはずだ。だのにあの大猪達が向かった先には群れの息遣いすら感じられない。ふつふつと湧き上がってくる疑問につられて、言い知れぬ不安が俺の心にすっきりとしない靄のように生じてきた。


だが、そんな疑問は俺が上に立った時すぐに解消された。


「・・・あの龍までいるのか。」


下にいる時には気付かなかったが、木々の上に出た今、その威容がはっきりと見える。


俺が出てきた神殿の巨大な扉も、あの山のような赤い龍の前では普通の扉に見えてしまう。こう言っては何だが、あの森を焼き尽くすような火を吐く巨大な赤龍は、門の前でさながら主人の帰りを待ってまどろむ大型犬のように寝転がっていた。


この原生林に唐突な終わりを強要している巨大な壁も手伝って、赤龍のその姿は奇妙な神秘性を湛えていた。




あの50頭ほどの金色の大猪は、巨大な龍を取り囲むように息をひそめていた。山のような赤龍を見てしまうと、牛よりも大きい大猪も霞んで見えてしまうな。巨大な龍は大猪など眼中にないとばかりに目を閉じている。




ふと、赤龍が目を開け、首をもたげた。その眼は真っ直ぐに森の奥を見ている。龍は直接こちらを見ているわけではなかったが、俺はおもわず身を隠した。龍の目は隠れている俺まで見透かしてしまいそうだった。


大猪の群れが割れ、赤龍に引けを取らない威厳を放つ象より大きい個体が現れた。


「乙事主様キター!」


と、俺は小声で叫ぶ。初日はあの二体に挟まれて本当に生きた心地がしなかったが、傍から見ている今では気楽なものだ。もっとも、あの赤龍の火焔はここまででも余裕で届く。いつでも逃げる用意はしておかねば。




他の金猪は全く相手にしていなかった赤い巨龍は、乙事主を見るなり立ち上がった。戦闘でも始まるのかと俺は身構える。赤い龍はその長い電車みたいな太い尻尾を持ち上げ、神殿に続く大扉に打ち付けた。一度吹き飛ばされたから分かる。俺の位置から見ればひどくスローに見えるその動きも、下手をすれば音速を超えるほどの速度が出ている。


ズンッ!


と、地響きのような鈍い音がする。大気がビリビリと打ち震えるが、神殿の扉はびくともしない。


「威嚇・・・なのか?」


だが、赤い巨龍は謎の行動をした後、金色の巨猪に道を譲った。金猪は赤龍とアイコンタクトを取った後、黙って大扉の方を向く。




赤龍は金猪の長が扉に向かって進んでゆくのを黙って視ている。乙事主様は神殿の扉に数秒頭を押しつけた後、黙って群れへと戻ってゆく。


紅い巨龍は乙事主が扉から離れたのを見ると、すぐに踵を返して樹海側、つまり俺が隠れている方へと歩きだした。


「やっべ!」


俺は急いで木から降り、逃げる用意に入らなければいけない。降りる直前確認した龍の進路は、俺のいるところをやや逸れる形だったが油断は禁物だ。


あの龍に見つかれば、今度こそあの火炎で蒸発させられてしまうだろうし、たとえ見つからなくてもあの巨体だ。適当に降られたしっぽに当たって昇天してしまうことも十二分にあり得る。


もうここに居ても何の得にもならないし、あの猪軍団にも見つかりたくない。俺はさっさと塒に戻ることにした。




バキバキみしみしと巨大な龍が森を踏み潰してゆく音が聞こえる。俺が音からなるだけ離れようと駆け出した瞬間、


ブオオオオオオオ!!!


と、一度耳にしたら忘れられない咆哮が樹海に響き渡った。間違いない。あの巨大な金の大猪だ。どうやら本格的にここに居ては不味そうだ。


俺は森の中を一目散に駆け抜けた。




焼け跡を抜けた俺は、水筒から一杯の水を飲む。傍らの炊き火の回りには、食い終わった大蜂の殻が無造作に転がっている。


「なんだかんだ言って今日は飯を食ってなかったしな。」


小川で漢方味の葉っぱを洗い、ちょっと火で焙って食べた。こうするとやや苦味がましになるような気がする。




ざっざ!と焚火を消した俺は、小川に沿って塒を目指す。どれだけ疲れていても、塒に帰ることが出来れば言い知れぬ安心感がある。先ほどの偵察であの龍と金猪の間でどのような意思疎通が図られたのかは不明だが、何か俺にとって都合の良くないことが起こりそうな気がしてた。




大蜂や大狼に気を付けて小川の側を進む俺の前に、流木にしては奇妙な物体が流れてきた。


「これは?大カブトの角?」


一体なぜこんなものが流れてきたんだ?この角の形は確かに先日俺が仕留めた個体のものに違いない。しかもよく見れば、真ん中あたりでへし折られたようになっている。


嫌な胸騒ぎがしていた。


俺は慎重に慎重を重ねて森を進む。


早間龍彦


称号

「????」「理不尽の代償」「怪獣大進撃」「大蜂殺し」「食わせ物」「大狼殺し」「大番狂わせ」「一撃必殺」「大カブト殺し」「樹海の匠」「泥だらけの勇気」「おおとり殺し」「ど根性」「魔弓の射手」「必中」「冷静沈着」


「影無き追跡者」:相手に気付かれることなく、それでいて自分の安全を確保して追跡を行った


遭遇生物

「屈強な 金毛の 大猪」

「比類なき 紅焔の 大赤龍」

「偉大なる 金剛の 巨猪」


アイテム

大猪の毛皮 火起こし機 鉤爪ロープ 大蜂の針 大鷲の嘴 大鷲の爪 大狼の牙 大狼の爪


装備品

龍鱗盾+ 龍爪ナイフx2 甲殻の鎧+ 革の小手+ 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x5 大羊の兜 龍鱗剣 猪牙槍+ 毛皮の足袋

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