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父の敏郎が大の野球好きということもあり、週末ともなれば家族揃ってプロ野球を観戦しに球場へ足を運んだ。プロ野球選手の華麗なプレーや豪快なバッティングを目の当たりにした加美由は、おのずと野球に魅了されていった。
テレビでプロ野球や高校野球の試合が放送されればかじりつき、放送が終了するまでテレビの前から離れようとしなかった。
野球に熱中する娘を見た敏郎は、地元のリトルの見学に、加美由を連れていった。
はつらつと練習する選手たちに目が釘づけとなった加美由は、その場でリトルへの加入を決めた。
加美由は、まるで水を得た魚のように、グラウンドを縦横無尽に駆け回った。
上級生の男子たちでも音を上げるほどのハードな練習にも、加美由は脱落することなく、最後まで食らいついていった。練習をつらいと感じたことは、ただの一度もなかった。
野球にのめり込めばのめり込むほど、同級生の女の子とは話が噛み合わなくなっていった。友だちと呼べるのは、幼稚園からの幼馴染である佐織しかいなかったが、加美由は気にもとめなかった。
次第に類まれなバッティングセンスを開花させていった加美由は、六年生の男子を押しのけて、五年生ながら四番に座った。六年生になると主将にも指名され、チームを県大会の決勝にまで導いた。決勝で惜しくも敗れたものの、加美由の名は県内のリトルのあいだで広く知られることとなった。
だが、リトルを引退するのと同時に、加美由はあっさりと野球をやめた。
究極の目標であり、夢でもあった、男子と一緒に高校野球で甲子園へ出場すること。
女子であるがために、それが叶わぬ夢だと悟った加美由は、これ以上野球を続けていく意味を失った。
中学生となった加美由は、陸上部へ入った。陸上でも加美由は抜群の運動神経を存分に発揮し、二百メートル走で県大会の決勝にまで進むなど、野球に負けず劣らずの活躍をみせた。
しかし、いくら陸上の練習に打ち込んでも、大会で好記録を出しても、加美由の心は晴れなかった。トラックを走っていても、すぐそばのグラウンドで練習している野球部員の姿が気になってしまった。
野球に対する未練は、もうない。
必死に自分に言い聞かせたが、野球への想いはむしろ募る一方だった。
ふとした瞬間に、グラウンドで土にまみれて白球を追う自分を想像してしまった。
高校進学に際して、複数の陸上の強豪校から推薦入学の話があったが、加美由はそれをすべて断り、一般入試で陸上部の無い成田東高校へ入学した。
姉の恵理と同じ高校に行きたかった、というのが表向きの理由だったが、高校に進学しても陸上を続けるつもりはなかったので、陸上部の無い高校であればしつこく勧誘されることもないだろう、というのが本音だった。しかも、成田東にも野球部はあるが、部員不足で公式戦にもろくに出場できず、活動休止の状態に追い込まれていた。野球への想いを断ち切るのには、好都合だった。
野球のことは忘れて、いい大学に入れるよう、勉強に打ち込もう。
加美由は、そう心に決めた。




