第五話「開戦の魔法少女」
会議室は静かだった。計三十一名の魔法少女たちは、喋るタイミングを見計らうかのように視線だけが飛び交う。
もちろん、私も例外ではない。強制的に招集されたのは気に喰わない。けど、この『ドールマスター討伐作戦』が終われば解放されるのだ。そう思えば、少しだけ気が楽になる。
「会議を始めるぞ」
時間ぴったりに司令官とエチュードさんと元気が有り余ってるアリア先輩が来た。何故先輩が司令官と一緒にいるのかは知らないが、これで全員揃った。
「エチュード、説明を」
「はい」
会議室のモニターに、例の臓器のようなものが映し出される。
「調査の結果、この臓器はドールマスターの魔法そのものの断片であることが分かりました」
そこでエチュードさんが口を閉じる。暫くの沈黙の末、司令官が苛立ったような声で指示を出す。
「続けろ」
少し躊躇うような素振りを見せたが、すぐに正面を向き直して説明を再開する。
「……この断片を解析したところ、ドールマスター本体の位置を特定しました」
空気が揺れた。静かだった会議室が一瞬にしてざわめきで満ちる。
今まで全く居場所が掴めなかったのに、ついに存在が確認された。これでやっとドールマスターを倒すことができる。そうしたら私も、家に帰れるのかな。
「場所は、臓器が発見された五橋市の地下巨大空間です」
エチュードさんが、重々しく告げる。
五橋市。本部からは少し遠い場所にある市だ。衝撃の事実に対し、騒然とする魔法少女たち。
「静かにしろ。まだ説明は終わってないぞ」
騒がしくなった会議室に、司令官の冷たい声が響く。その声ですぐに静かな会議室へと戻った。
「はい、一つ問題が確認されたんですが……その巨大空間にはドールを生成し続ける魔法が充満しているんです。なので、このまま突入すると魔法同士の接触抵抗による消耗で戦闘可能時間が限られます」
また、会議室が音に侵食される。
「……何それ、無理ゲーじゃん」
誰かがぽつりと零した、一滴の音。その音はやがて会議室に染み渡る。吐き捨てるように放たれた声は、魔法少女たちの心の内を代弁するように広がっていく。
「そうですね、長時間の戦闘は不可能です。接触抵抗が普段より激しいので、魔法力が尽きればその時点で戦闘不能になるでしょう」
そんなの、もう負けが確定してるじゃん。相手は世界を巻き込むほどの大災害を起こしたバケモノ。ハンデありで勝てるような相手じゃない。
「……だから、短期決戦に持ち込みます」
世界から、音が消えた。時計の針さえ止まったような気がした。
「支部も含めた全戦力を投入し、とにかく数で押し切ります」
……この人本気で言ってるの? それじゃあただの消耗戦だよ。
「何、言ってんの? あんた正気?」
どうやら私と同じ考えの人も居たようだ。少し安心する。
「……これしか、ないんです」
珍しくエチュードさんが弱音を吐いた。弱音と言っていいのか分からないけど、こんなことを言うのは初めてじゃないだろうか。
「ナンバー06、私語は慎め。他に案はあるのか?」
重たい沈黙が答えだった。
「ないな。ではこの作戦で……」
「えー、みんなと戦えるの? やったぁ! ドールもドールマスターもぶっ飛ばせば良いんでしょ?」
会議室に似使わない、恐ろしく能天気な声が静寂を破る。ぴょんぴょん跳ね回る先輩は、まるで小学生のように幼く見えた。どこか懐かしさを感じるのは何故だろうか。……考えても仕方ないか。
「起立」
長い長い会議が終わり、やっと号令がかかる。先輩以外の魔法少女が一斉に立ち上がる。
「――では、ドールマスター討伐作戦を開始する」
司令官の声が、開戦の合図だった。
「死んでもドールマスターを殺せ」
私は静かに敬礼をし、すぐに会議室を後にした。ようやく死ねる。ずっと待ち望んでいたことが叶うのだ。これほど嬉しかったことはない。
あの惨劇の幕が上がり、絶望に満ちた人生は静かに終わろうとしていた。
――ナンバー08 魔法少女フェルマータ




