第四話「憧れた魔法少女」
画面の中のきらきらに憧れていた。魔法少女アリアという存在が、わたしにとっての魔法だった。アリアが活躍することがわたしの生きる理由だった。
「魔法適性ありですね」
学校での一斉検査の時、そう診断された。最初は夢でも見ているのかと思った。でも、施設に来たときにようやく現実だと理解した。
憧れの人と同じ仕事ができるなんて、思ってもみなかった。わたしはいつの間にか、きらきらする側になっていた。
「は、初めまして……かっ、カノンと言いっ……申します」
最初の挨拶で、早速ドジしてしまった。人前に出るとあがってしまうわたしが、魔法少女になれるわけないと分かっていたのに。
「わ、新入りちゃんだー! あたしは魔法少女アリア! これからよろしくね〜!」
テレビの中の存在が、目の前にいる。ずっと会ってみたかった。ねぇ、わたしすごく幸せだったんだよ。魔法少女になって良かったって、心の底から思えたんだよ。そう言えたら良かったのにな。
「わ、わたしアリア様のファンで……! あ、握手してくださいっ!」
「握手なんてお安い御用! なんならサインもどっかにしてあげるよー!」
アリア様の手が、暖かい。ちゃんと生きてるって実感する。
「カノン、早速試験場に向かえ。能力試験を開始する」
司令官さんの声で、現実に引き戻された。そうだった、わたしはもう一人前の魔法少女なんだった。
頬を叩き、覚悟を決める。今日も訓練が始まる。
あれから一ヶ月。今日は後期の成績が発表される日。この日はお仕事も訓練もしなくて良いとエチュードさんから教わった。
「成績を発表する。皆静かに」
司令官さんがバンとホワイトボードを叩く。さっきまでザワザワしていたホールが静まり返った。
「表は貼っておく。明日からこのナンバーになるため、各自チェックしておくように」
その瞬間、ホワイトボードの周りにどっと人が集まる。順位が上がって喜ぶ声、嘆く声、笑い声。全てがホールに反響して、どんな声か分からなくなった。
わたしの総合順位は、下から二番目。こうなることは薄々分かっていた。わたしはアリア様みたいなカリスマ性はないし、頭は良くないし、運動もイマイチ。そんなに上手くいくわけない。
ふと、『一位』の文字が目に入った。みると、『魔法上限 一位』と書かれていた。
わたしが一位。ほんとうに? 悪い夢でも見ているのではないだろうか。
「くそー! 魔法上限一位取れなかったー! カノンちゃん強いねー!」
アリア様の悔しそうな声で、やっと現実だと飲み込めた。
「……えっ? わ、わたしが?」
「そうだよ! 自信持ってよカノンちゃん!」
眩しいくらいのきらきらな笑顔で、手を握ってくれた。一位を取れたことよりも、アリア様の手に触れられたことのほうが何倍も嬉しかった。
どうしてこうなっちゃったんだろう。わたしの何がダメだったのかな。終わりたくなかったな。
『ナンバー31の処分を開始しろ』
地下室のスピーカー越しに聞こえた、司令官さんの声。指示に従って動き始める施設の職員さんたち。その中には優しかったはずの先輩魔法少女、エチュードさんもいた。
「……言い遺すことはありますか」
わたしの知ってるエチュードさんじゃなかった。どうしてわたしをそんな目で見るの? ねぇ、教えてよ先輩。
「……幸せだったな。あは、は……」
そうだ。きっと幸せ過ぎたんだ。幸福な一ヶ月間だったから、その分の不幸が今なんだ。
例え成績が基準に満ちていなくとも、幸せな人生だった。それだけで、もう十分。
元ナンバー31の記録書が燃えて塵となった。彼女の部屋は空室となった。少女の存在は魔法のように消えた。魔法少女の数が一人減った。
世界は何ら変わらない。魔法少女も変わらない。ただ、ゴミがゴミ箱に捨てられただけ。
少女は憧れてしまった。それが呪いだと知らぬまま。
――憧れた少女




