第二話「退屈な魔法少女」
魔法少女はきらきらなお仕事に見えるけど、そうじゃない。一人前になるまでは教育施設から一歩も出られないし、一定の成績がないとすぐに処分される。魔法適性があると診断されたら強制的に連れてこられて、役目を果たすまで帰れない。
「お母さん、生きてるかな……?」
また、お母さんに会いたいな。おいしいご飯が食べたいな。お友達と遊びたいな。好きな絵を描きたいな。お昼休みのドッチボール、またしたいな。遠足行きたかったな。家族みんなで旅行とか行ってみたかったな。みんなといっしょにいたいな。……普通に生きたかったなぁ。
まだまだ叶えたい夢、たくさんあったはずなのに。夢に満ちた私の人生は、魔法少女になったあの日に壊れた。叶えたかった夢は、二度と叶うことはなかった。輝いて見えた魔法は、いつしか錆びて輝きを失った。
処分されていれば、まだ救いはあった。だからわざと『ダメな魔法少女』を演じたのに、まだ生きているなんて。
「……返してよ」
そう言った直後。まるで狙っていたかのようなタイミングで司令官から指示が来た。
『ドールの群れを確認した。場所はお前のバディに伝えてある。直ぐに行け』
感情のない、機械味のある声。私をここに連れてきた声。私はこの声が大嫌いだ。
「……分かりました」
私に拒否権はない。用意された台詞を言うだけ。
魔法の剣を手に取り、服を整える。ありったけの憎しみを込めて、鉄の扉を閉める。
もう、戻って来ませんように。
「やっほー後輩ちゃん! 今日も可愛いね〜!」
これから戦いに行くというのに、相変わらずのんきな先輩。この前も規律違反で反省室にいた気がする。
先輩はたくさんのドールを殺した魔法少女だけど、同時に問題児でもあった。
「今日の場所は〜、なんと五橋市! ちょっと遠いけど飛ばせば大丈夫!」
飛ばせばって簡単に言うけど、私みたいな普通の魔法少女は飛ぶだけでも疲れる。改めて、先輩はすごい人だと思い知らされる。
「ふんふんふ〜ん♪ らららら〜♪」
下手くそな鼻歌を歌いながら飛行する先輩。
いつも思う。どうして先輩は嬉々として魔法少女をしているのだろうか。こんなに楽しそうにドールを殺して魔法を使う魔法少女はきっと、先輩だけだろう。
「……先輩は、この仕事辞めたいって思わないんですか?」
「え〜、何で? 後輩ちゃんは辞めたいの?」
やめたいかと言われたら――
「辞めたいに決まってますよ。早く処分されて……帰りたいです」
「ふーん。あたしは違うけどなぁ。だってドール殺しても怒られないし、むしろ褒められるんだよ? こんな楽しい仕事、他にないよ〜」
私には全く理解できない。楽しい? 魔法少女が? ……頭おかしいんじゃないの。
喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込む。とても言える空気じゃなかった。――言いたくなかった。
ああ、遠いところに行きたいな。どこか遠くへ。管理の及ばないところへ。
「あー、帰ったら報告しないとなー。後輩ちゃんやっといてよ〜」
でも、国内にいる限りそれは叶わない。ドールマスターを見つけて殺せば、役目完了なのにな。
「あれ、なんか温かい……? え、何これ。……臓器?」
私がドールマスターを見つけられるわけないしなぁ。先輩なら見つけられたり。
「まあいいや、司令にあげよーっと。ほら行くよ〜」
「え……あ、はい」
ぼーっとしていて、反応に遅れた。すぐに飛行準備をする。
「ら〜ららんら♪ たらら〜♪」
下手な歌を口ずさんで、ありえない速度で飛ぶ先輩。どうして笑っていられるのだろうか。私は、魔法少女になってから笑えなくなったのに。
あーあ、どこを見ても色が分からないなぁ。このまま空に溶けてしまえたら良いのに。
――ナンバー08 魔法少女フェルマータ




