二十年後のヒロイン
【乙女ゲームのヒロイン】である超絶美少女モモちゃんは、悪役令嬢アリシア・ペンドレートに勝利した。
攻略対象である王太子から始まる、全ての攻略対象達は学園でモモちゃんに出会うなり、彼女に一生分の恋をして、それぞれの婚約者や恋人に一方的に婚約破棄を突きつけた。
更に彼らが全面的にモモちゃんの味方をしたことで、意地悪ばかりしてくる悪役令嬢アリシアや元・婚約者達は国外追放されたのだ。
勿論、多少は王国の秩序の乱れはあったけれど、ヒロインのモモちゃんは悪役令嬢アリシアに決定的に勝ったのだ。
モモちゃんは今でも愉悦たっぷりに思い出すことが出来る――華やかな卒業記念のパーティで、王太子が彼女を優しく抱きしめながら、悪役令嬢アリシア達に婚約破棄と国外追放を突きつけた、あの劇的な瞬間を!
「ぴゃ~ん!難しくってモモちゃん分かんないよぉ~!うぇ~ん!」
それからモモちゃんは王太子の婚約者になって、王宮に迎え入れられた。
そこでは王太子妃――未来の王妃としての教育が待っていたけれど、モモちゃんが何度も難しくて分からないと泣いて攻略対象達に訴えたら、口煩かった教育係の中年ババアは馘首にされ、攻略対象達が交互に優しく教えてくれるようになった。
モモちゃんは幸せだった。
今でも攻略対象達は彼女に情熱的に愛を囁いてくれるし、彼女は世界一可愛くて素敵な女の子だと褒めてくれる。
イケオジな国王だってモモちゃんにメロメロで、意地悪な王妃を国外に追放してくれた。
「可愛いね」
「素敵だね」
「愛している」
モモちゃんを取り巻く世界は、毎日毎晩、そんな言葉で溢れかえっていた。
だからモモちゃんもこうやって返すのだ。
「え~ん、モモちゃん分かんないよぉ~」
「だってモモちゃん可愛いでしょぉ?きゃぴっ☆」
「モモちゃんこれ食べれないのぉ~。だからこれ嫌ぁ~い」
**********
それから二十年が過ぎた日、モモちゃん達は隣国から呼び出された。
隣国は巨大な帝国である。
その従属国の一つに過ぎない小さな王国の国王が交代したのにも関わらず、数年が過ぎても主君である帝国へ挨拶に来ないことなどの数多の無礼が重なって、帝国の支配層の全員が激怒していた。
しかし帝国と聞いて、モモちゃんは目を輝かせた。
帝国は【乙女ゲーム】の【続編】の舞台だったからだ。
超絶イケメンの若皇帝、影のあるイケオジの騎士団長、麗しの天才剣士、実は皇帝の異母弟の美神官長……。
モモちゃんは一番のおめかしをして、一番可愛いドレスを着て、大粒の宝石が沢山飾られたアクセサリーをありったけ身につけて帝国に行った。
国王となった元・王太子達は緊張しているようだったけれど、モモちゃんは希望と夢で目を輝かせていた。
帝国に到着したモモちゃん達を、帝国の上層部は歓迎なんてしなかった。
この二十年の間に、彼らは既に準備を整えていたのだから。
最初のきっかけは二十年前の悪役令嬢アリシア・ペンドレートや婚約破棄された令嬢達、そしてその一族の相次ぐ亡命である。
亡命は受け入れたものの、帝国はしばらくは王国については静観していた。
王国から上納金が定期的に貢納されるのであれば、彼らは積極的に介入するつもりは無かったのだ。
けれども、皇帝の肝いりで結婚させた王妃が追放されてきたことで、ようやく帝国も重い腰を上げる。
とは言え、帝国にとってはあまりにもその頃は時期が悪かった。
直後に皇帝が突然死し、幼い皇太子相手に野心家の皇帝の叔父が内乱を起こしたのだ。
この内乱において、悪役令嬢アリシア・ペンドレート率いる亡命者達は皇太子側に付いて多大な功績を挙げた。
彼女達は帝国での基盤が何も無かったから、それを得るためにも命がけで戦ったのだ。
足がけ十年にわたった内乱が鎮圧され、叔父も無事に処刑されると、亡命者達の派閥もある程度の帝国での発言権を獲得した。
彼らは口を揃えて提言した。
『あの王国は、急ぎ終わらせるのが帝国のためです』
――その間にも王国からの上納金は毎年のように減っていき、やがては帝国への難民まで相次いだのだ。
皇帝はやって来たモモちゃん達を、小さくて狭い、最も立地の悪い迎賓館に幽閉して、半年は放置した。
その間に彼らはさっさと王国を併合してしまい、何の存在価値も無くなった王国の王侯貴族達を根絶やしにしていった。
何もかもが片付いた後で、皇帝は旧・王国領の初代総督として元・悪役令嬢アリシア・ペンドレートを任命したのだった。
モモちゃんが最期に悪役令嬢アリシア・ペンドレートと再会したのは、医療用のベッドの上である。
既に処置をされたモモちゃんは、少しの臓器の残った胴体と頭だけになって、様々な機器とチューブで繋がれていた。
もう聴覚も視覚も奪われて、可愛い声を出すことも出来なくなったモモちゃんを――ドアの小窓越しに哀れみの目で見下ろして、かつて悪役令嬢と呼ばれたアリシア・ペンドレートは小さく呟く。
「二十年あったのだから、何より貴女自身のために学ぶべきだったわ……」
さて、これはハッピーエンドでしょうか。
それとも、バッドエンドなのでしょうか。




