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死者との婚約 ~終わらない世界の果てに~  作者: 水辺 京


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3/8

3 密室の愛

 昼食に選んだのは、シーサイドエリアにある海中レストランだった。

 水槽に囲まれた青白い光の中、運ばれてきた料理を見て、俺たちは顔を見合わせた。


「……ぷっ、あはは! なにこれ、ほんとにメニュー通りだ!」

「これは……すごいな。商品開発部のセンスを疑うべきか、称賛すべきか」


 彼女の目の前には、サーモンや甘エビがドレスのように盛り付けられた『マーメイド海鮮盛り』。

 対する俺の前には、深海を思わせる青緑色のスープ『マーメイド煮込み』が鎮座している。


 名前のふざけた響きとは裏腹に、漂ってくるのは本格的な磯の香りだ。

 俺がスプーンを手に取ろうとすると、美咲が「ストップ!」と手をかざした。


「まだダメ! 記念撮影が先です」

「はいはい。冷めないうちにお願いしますよ」


 彼女はスマートフォンを構え、真剣な眼差しで角度を調整する。

 カシャッ、カシャッ。

 楽しかった記憶を、少しも取りこぼしたくない。そんな彼女の几帳面さが、俺は好きだった。


「よし、オッケー! いただきます!」

「いただきます」


 ふざけた名前の料理は、驚くほど美味だった。

 温かいスープが胃に落ちると、朝からの緊張が少しだけ解けていく気がした。

 食後は甘い誘惑に負け、屋台のスイーツを片手に園内を歩いた。


 彼女の笑顔、甘いアイスクリーム、そして繋いだ手の温もり。

 この幸せな時間が永遠に続けばいいのに――。


 そんな陳腐な願いが、ふと脳裏をよぎる。

 だが、それではダメだ。『恋人』という関係の、その先へ進むために今日があるのだから。


「次はどれにしよっかな」

「お、あそこなんてどうだ?」


 あちこちと視線を目まぐるしく移す美咲に、俺が指差したのは、古びた洋館のような建物、お化け屋敷だった。

 美咲の手が、ぎゅっと俺の手を強く握る。


「……もしかして、怖いのか?」

「こ、怖くないし! ただの演出だってわかってるし!」


 強がりとは裏腹に、彼女の手のひらはじっとりと汗ばみ、小刻みに震えている。

 実は俺もこの手の演出は得意ではない。だが、隣で小動物のように怯える彼女を見ると、不思議と『守らなければ』という使命感が恐怖を上書きした。

 それに男を魅せるチャンスでもある。


 暗闇から飛び出す亡霊や、耳元の悲鳴。

 俺は彼女の肩を抱き寄せ、努めて平然と振る舞い続けた。


(よし、いいぞ。頼れる男を演じきれてる……!)


 いくつもの仕掛けをクリアし、ようやく出口の明かりが見えた時だ。

 完全に気が抜けていた。


「ひえっ!」


 出口の扉を開けた瞬間、死角に潜んでいた白い女の幽霊と目が合ったのだ。

 喉から飛び出したのは、自分でも情けなくなるような裏返った悲鳴だった。


「……あははは! 優くん、最後の最後でそれはないよー!」

「わ、笑うなよ。あれは反則だろ……配置がいやらしすぎる」


 外に出た美咲は、恐怖も忘れて腹を抱えて笑っている。

 悔しいが、その屈託のない笑顔が見られたなら、恥をかいた甲斐もあったというものだ。


「さて、そろそろいい時間だね。最後に何に乗る?」

「決まってるでしょ! あそこから沈む夕日を見るの!」


 彼女が見上げた先には、巨大な観覧車が夕焼けに染まっていた。

 ゴンドラがゆっくりと高度を上げていく。

 地上の喧騒が遠ざかり、二人だけの密室が出来上がる。


 窓の外には、燃えるような茜色の空と、水平線に溶けていく太陽。

 最高のシチュエーションだ。ここで指輪を取り出せば、間違いなく絵になるだろう。


 けれど、俺はぐっとポケットの手を止めた。

 プロポーズは、この後のレストランで。完璧なプランを用意しているのだから、焦る必要はない。


「綺麗……。今日、優くんとここに来れて本当によかった」


 窓に張り付いていた美咲が、ふと振り返って俺を見つめた。

 逆光で表情が見えにくいが、その声は震えているように聞こえた。


「私ね、今日のこと一生忘れないと思う」

「大袈裟だな。……いや、俺もだ」


 胸が熱くなり、俺は自然と言葉を紡いでいた。


「死んでも忘れないよ。もし来世があるなら、また君を見つけて、何度だって今日みたいにデートをするんだ」

「ふふ、なにそれ。じゃあ生まれ変わっても、また私を好きになってくれる?」

「ああ、約束する」


 頂上に差し掛かったゴンドラの中で、俺たちは静かに唇を重ねた。

 世界が祝福してくれている。そう確信できるほど、あまりにも完璧な夕暮れだった。

作品を読んでいただきありがとうございます。


幸せの最高潮ですね!皆さんは同じようなシチュエーションでキスを我慢出来ますか?

自分は……誰にも見られてないのならいいのでは!?と思ってしまいますね笑


次回もお楽しみに!

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