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おととっと、ホワイトソックス

作者: jima

休日にジムで軽く汗を流し、シャワーを浴びた。

俺はスッキリしてロッカールームで着替えをする。

Tシャツとジーンズを着込んだ後、白い靴下を履こうと片足をあげ、つま先に引っかけた瞬間バランスを崩した。


「おっと」


俺は左足のつま先に靴下を引っかけ、ロッカールームの出口に何歩かケンケンでよろめいた。

両手で靴下の端を持っているため、バランスが元に戻らない。


間の悪いことにその時ロッカールームのドアが開いた。

誰かが外からドアを引っ張ったのだ。


「わっ」


俺はドアで身体を止めることができず、さらにジムの廊下にまろび出た。


「おっとっと」


勢いがついた俺はむしろスピードをあげて、片足でとっとっとと廊下を突き進む。


「わっ、なんだ」

「おっ、危なっ」

「アハハハハ」


廊下を歩く他の客が声をあげて俺を避ける。

誰か止めてくれる人はいないのか。


「おっとっとっと」


やばい、本当に止まらない。

このままでは俺はジムの玄関ドアに結構な勢いで激突することになる。


「誰か止めてくれ。おっとっとっとっと」


だが白いソックスをつま先にひっかけ、片足立ちでピョンピョンと移動するオッサンは誰の目から見てもふざけているようにしか見えないらしい。


「お客さん、困ります」

ジムのトレーナーも迷惑そうに俺を避けた。

だったら止めてくれてもいいじゃないか。


俺は玄関ドアに激突…しそうになったが、その寸前にジムの受付がドアを開け放した。

「ドアが壊れるわ」

ドアの心配かい。


俺はついに街中にそのまま飛び出てしまった。

「おっとっとっとっとっとっと」


道行く人の反応は様々だ。

あからさまに不審者を見る冷たい目で避ける者、通行の邪魔だと怒鳴る爺さん、「眼を合わせちゃいけません」と子供の眼をふさぐ母親、大笑いして俺を指さす女子高生グループ…


「おっとっとっとっとっとっとっと」


国道にさしかかって、俺は焦る。

これはまずい。間違いなく車に轢かれる。

ホワイトソックスを持つ手に汗が滲んだ。


だがもっと危ない婆さんを見つけて俺は緊張した。

歩行者信号がすでに赤くなっている横断歩道をうんしょこらしょと横断中だ。


人のことは言えない。俺もその格好のまま、赤信号の横断歩道に突入した。


「うわあっ、やばい。おっとっとっとっとっとっとっとっと」


ケンケンをスピードアップさせた俺は奇跡的に車の間をすり抜けて道の向かいへ進んでいく。

ついでに婆さんの腕を片手で引っ張って歩道まで連れてくることに成功した。


「あらあら、ご親切に」

婆さんが腕を振りほどいて頭を深く下げた。


「何で手を放す。おっとっとっとっとっとっとっとっと」

婆さんを使って勢いを止めようとしていた俺はさらにバランスを崩して片足で先へと進んでいく。


「あれまあ」

婆さんが後方で眼を丸くし、ケンケンで進む俺を見送り、手を振った。


その後も俺は公園で子供の手から離れた風船をケンケンジャンプ&キャッチしてやったり、踏みきりでは自転車の女子中学生を助けたり、逃げる銀行強盗をケンケンアタックで捕まえたりしながら片足で進んでいく。


「俺はどうなるんだ。止まらん。おっとっとっとっとっとっとっとっと」


ついに数㎞離れた自宅前まで辿り着いた俺は絶叫する。

「おーーい!助けてくれ!妻よ!俺だ!止まらんのだ!」


妻が玄関から顔を覗かせ、眼を丸くした。

「隣町からケンケンで帰ってくる大人がいますか。世間体が悪いわ」


「そんなことを言ってる場合か。さらに隣町まで行ってしまう。助けてくれ」

俺は片手はつま先に引っ掛けたホワイトソックスを強く握りしめ、余った片手を妻に差し出したが妻は手を差し伸べることなくスルーした。


「嫌よ。みっともない」


「薄情者!止まらん!」


自宅を通過してさらにケンケンで遠ざかっていく俺に後ろから妻が声をかける。

「靴下から手を放しなさいよ」


「何を言ってんだ。手を放すって。おっとっとっと…、あれ?」

手を放したら両足が地面につき、勢い余って俺はその場にゴロリと転んだ。

「痛てててて。…でも止まったな」


妻は冷ややかな表情で俺を見下ろした。

「何て残念な夫なの」


「ううう、そう言うなよ。悪かったよ」

俺は転んだとき打った腰をさすりながら立ち上がる。


妻は俺の尻の埃をポンポンと払いながら、ようやく笑って後ろを指さした。

「何かたくさんのお客さんがついてきてるけど」


え…?


「うちのお婆ちゃんが助けてもらったそうで」「ほんに命の恩人で」

交差点で助けた婆さんを連れた中年女性が二人一緒に頭を下げている。


「いやいや、とんでも」

手を振りながら後方を見ると風船を持った親子連れ、その後ろから自転車を引いた女子中学生…、さらにその後方から警察官の二人連れが敬礼をした。


「ケンケンのおじちゃん、風船をとってくれてありがとう」

「踏切で危ないところを助けていただいて」

「逮捕にご協力、感謝します」


俺は呆然として片手のホワイトソックスで額の汗を拭いた。


「汚いわね」

妻が眉をひそめた。


「はっ、大事なことを思い出した」


「何よ」


「靴下のかたっぽ、ジムに忘れてきた」


読んでいただきありがとうございました。

一昨日、ジムで靴下を履こうとしてバランスを崩し、もう一度シャワーブースに突入した体験を基に書いてみたのですが正直自分でも意味不明です。オチは…弱いっちゃあ弱いか。

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