満天星
「お疲れ様〜」
「ん、お疲れ」
ロッカールームに入ってくる夕影草を横目に捉えて、ヘッドカチューシャを外しながら応える。
「うぇーいお疲れ様っ」
そこに番紅花姉が両手のグローブを外しながら入ってくる。
「よっと」
「ちょっ、こっちに投げないでくださるかしら!?」
「うるさいよ紫丁香花」
「あら夕影草、久々に折檻されたいのかしら???」
「ひぇっ、それだけは勘弁〜」
「ったく…………それに番紅花、あなたガサツが過ぎるわよ。折角の華組なんだからきちっと自覚を」
「『華』って言ってもあたしサフランだぞ??色付けて諸共食われろってことか???」
「あら、あなたのお肌は番紅花より鬱金に近いじゃない?」
「仕方ねーだろ、外部活なんだからよ。紫丁香花みたいに白くてもちもちできる程余裕無いの」
「もちもち!? なんで体重のことあなたが知ってるの!?」
「紫丁香花姉、それ自爆」
「え、マジで太ったの?」
「みんな忘れなさい…………」
全く、番紅花姉と紫丁香花姉はいつも仲良いなぁ。
「あれ、君影草は制服なの?」
「ん、今日は補講受けてる名目、だから」
「ふぅん、大変だね」
「夕影草だって。そろそろ前期試験て言ってなかった?」
「そ、そうだった…………仕送り止められる……」
途端に真っ青になる夕影草。学生て大変だなーと、自分のことを棚に上げて遠い目をする。
「試験……そういやそんなものあったな……」
あ、番紅花姉も流れ弾食らってる。ぎぎぎ……と首が回って
「なぁ君影」
「却下」
「なんでよ!?」
「…………学校違うし、そもそも番紅花姉の方が上でしょ」
「そこをなんとか」
「無理なものは、無理。そもそもやってない範囲だし」
「おねげぇします君影のダンナぁ」
「自業自得。…………支配人に聞けば?」
「えぇー……でもまぁ確かにそれもいいな。灯台躑躅姉なら先生目指してた」
「番紅花」
紫丁香花姉の声色が変わる。
「そこまで。お互いのプライベートに過度に足を踏み入れないのが規則でしょう?」
「う、あぅ……」
「ほら、君影草も」
「なんであたしまで…………」
仕方ないか、紫丁香花姉、その辺にうるさいし。
「…………仕方無いわね、私が教えてあげる」
「うぇ、紫丁香花が?」
「失礼ね、これでも元教育大生よ? 手取り足取り教えてあげるから覚悟なさい?」
「紫丁香花姉が言うとなんか……」
「響きがエロい」
「アヤシイ」
「仮面とムチ、要る?」
「なんでそうなるのよ!? …………って、支配人!?」
「ん、お疲れ」
ロッカールームにしれっと混ざってきた支配人ー灯台躑躅様が片手を挙げる。
「ど、どこから聞いて……」
「んー、紫丁香花がもちもちなとこから」
「っ!?」
顔を覆ってしゃがみこむ紫丁香花姉。あ、耳まで真っ赤っ赤。
「ほらほら、囀りもいいけどもうそろそろ夜番の時間だよ。紫丁香花と夕影草は表に戻って、私もすぐに出るから」
つ、躑躅様が出られる……
「おっと、君影草はダメだよ。朝からぶっ通しで夜遅くまで補講する程に星花は熱心でも無いよ、余程危ない点でも無ければ、ね?」
うぐ、全部聞かれてたか。
「さぁさぁ、解散解散!! 今日も咲き誇ろうか、この美しき花壇で!!」
はっはっはっはと大仰に手を広げて出ていく灯台躑躅姉。あ、あたしも混ざりた……
「君影ー帰るぞー」
「うぇぇー……番紅花姉のいじわるー……」
仕方ない、帰るか…………