手毬を手折る
30分もしただろうか、ようやく小鞠が帰ってくる。
「ぜぇ……はぁ……ぜぃ……も、もって、きました……」
「ご苦労様。それじゃ、これっきり」
傘を受け取るとそのまま悠々と歩いてい……こうとして更に袖口を掴まれる。
「なにを、してるのか、分かってるの?」
ぎぎぎ……と首だけ振り向くと、
「い、いや、ここで会ったのも何かの縁??だし、もうちょっと一緒に」
「嫌よ」
「えー…………」
露骨に嫌がるのは何故?
「何故そんなにも、あたしに拘る?」
「いや、だって……その…………」
何故そんなにモジモジするの?
あぁ、分からない。分からないから、何故。でもどうしてか見覚えのある景色……何故。何故か引っかかる。
「…………仕方ない、これ、持ってて」
「うぇっ!?」
小脇に抱えたビニールバッグを小鞠に押し付ける。
「中、洗濯物。覗いたら、刺す。嗅いだら、八つ裂き」
「罰が重いっ…………や、大丈夫です。汗の匂いなら慣れてるからっ」
「へんな嗜好持ちなのね」
「なんでそうなるの!? と、トレーニングとかで、汗かくの慣れてるから……だから……ひ、人の汗の匂いは……あぅぅ」
「そう、よく分からないけど、よろしく。あ、持ち逃げしたら、剥ぐ」
「ハグ!?」
「剥く」
「む、むむむむむ剥く!?」
いちいち過剰反応する小鞠を放置して、涼しいコンビニへと足を踏み入れる。流れる空気が変わったのを感じると、深呼吸してからどこにも視線を合わさずただ正面を向いて背筋を伸ばし、カツカツと歩いていく。
(この姿勢もだいぶ慣れてきたなぁ…………紫丁香花姉、姿勢には煩いし背中丸めたら蹴りもあったし。夕影草と一緒に何回正座させられたか……)
背筋を伸ばしたら、『華たるもの姿勢は美しく』と教えられた時のことを思い出した。あの時は……うん、思い出さないようにしよう。あれは凄かった、うん。…………と、そういえば外で待たせてるんだった。
ガラス越しにチラリと眺めると、ビニールバッグを両手で抱えてそわそわするのが見える。その抱え方は匂いが……いや、うん……気にしてない訳じゃないけども……積極的に嗅がせる程では無い…………
…………なんかかわいい、な。ようやく『花壇』に上げてもらったキャストの子もこんな反応する子が多いし。最近上がってないけど……
ん、待たすのも悪いかな。手早く買うものを決めて会計して外に出る。
「……待たせた。これ、お駄賃」
小鞠の頭の上にコーヒー飲料を載せると、
「んじゃ、そういうことで」
「え、えぇ……はい……」
「…………て言うと、思った?」
「ほぇ……?」
「…………着いてきたいなら、来る? 洗濯機回す間、ヒマだから」
3秒だけ固まった後、ヘッドバンキングする勢いで小鞠が首を振り下ろした。




