一拍空けて。
「おーい、小鞠……?」
「ふへ、ふへへ……」
ダメだ、完全に心がおそらに飛んでっちゃってる……
「こまり〜」
どうやって正気に返そうか。
軽く頬をぺしぺし。ダメか。
なら両側に引っ張ってびよーん。余計にだらしない顔になっちゃった。
耳元でふーっと。
「はにゃにゃにゃにゃ……」
ぞわわわわと震えて小鞠の顔が元に戻る。
「あ、帰ってきた」
「え、えと、せんぱい……? 」
遠ざかるあたしの顔を見て、またぼふっと顔を赤らめる小鞠。なるほど、耳が弱いっと。
「……言われた通りに、あたしの印、付けたけど」
「あ、そ、そっすね」
首筋を撫でて確認する小鞠。あ、また顔がだらしなくなってきた。
「小鞠その顔禁止、なんかアホっぽい」
「あ、あほ?? ……うぅ、確かにうちはそんな頭よくないっすけど、なんか面と向かって言われると傷つくっす……」
「そんな締まりのない顔してるから」
「そ、それはせんぱいのせいで……」
「小鞠からシて欲しいって切り出したのに?」
「あうっ…」
「……はぁ」
なんだかなー……小鞠ってほんと直情径行というかなんというか。前しか見えてないというか、ストッパーが壊れてるというか。
……なんであたし、こんな小鞠に心盗られちゃったんだろう?
「……ほら、さっさと顔戻して。もう出るよ」
小鞠に背を向けて立ち上がると、急に目の前が白くなって。足の力が抜けて、浴槽のフチに手をついて身体を支える。
「だ、大丈夫っすかせんぱい!?」
「いや、大丈夫っ………」
戻りゆく視界とは裏腹に足は震えたまんまで。これが……逆上せ……
「いや大丈夫じゃないっすよね? ほら、落ち着いて一旦座りましょうよ」
「…………」
ままならない足に何も言えず、小鞠の言う通りその場にかがみ込む。
「ごめん、落ち着かせるから、先に出てて」
「ダメっすよ、風邪ひくかぶっ倒れちゃいますって」
「じゃあどうしろっての?」
半ばヤケクソに言い返すと、
「しょうがないっすね……」
と、あたしの首の後ろに腕を差し入れて、
「ちょ、いや待って待って」
「だってこうするしかないし…」
「それは分かるけど……」
そ、それは恥ずいって……
「大丈夫っす、鍛えてるからせんぱいの1人ぐらい軽いっすよ!! それじゃ上げますからね」
いつの間にか両足の下にも小鞠の腕がいて。あたしの視界が空を向いて勢いよく上がっていって、急に止まる。そしてそのまま動かなくなって。
「……どうしたの? まさか腰やっちゃった?」
「……せんぱい、そんな、」
困惑する小鞠の顔を見て、その理由を思い出す。
「……ああ、そっか。でもさ小鞠」
眼差しには眼差しで応えようか。
「『せんぱいの1人ぐらい軽い』って言ったのは、小鞠の方だよ?」




