きれい?
「…………」
「あの、えと、せんぱい??」
「…………」
うちの左腕にがっちりとしがみついたままの清音さん。
「う、動きにくいんですけど……」
「……なら、動かないで」
「そ、そう言われても…」
無意識なのか、それとも確信犯なのか。うちの腕は清音さんの胸の間に挟まれた挙句、手のひらは……その……ちょうど足の間のトコに当たるような角度にされててとても危なっかしい。
「……くしゅん」
ぶるりと震える清音さんの身体。
「先輩だって寒いんじゃないですか、ほら早くお風呂入りましょうよ」
「…………うん」
うちの歩きに合わせて、清音さんも歩いてくれる。相変わらずしがみつかれたままだけど、それでもさっきよりかは動きやすい。
「ん、先に入ります」
もわもわと湯気を立てるお湯につま先を入れると、
「ん、少しぬるいっスね」
そのまま身体をつっこんで湯船に収まる。つられて清音さんもうちの横に身体を収めると、
「……っ」
痺れたように身体を震わせた。
「ど、どうしたんですか……?」
「いや、あったかいなって……」
ほう、とため息をついて曇っていた表情も柔らかくなる。
「…………そうっすね、暖かいです」
お湯じゃなくて、なんて切り出す程の勇気はうちには無くて。
……さて、この後は何を話そうかなぁ……せんぱいに聞きたいことは山ほどあるけど、どれも切り出すにはタイミングが悪いし、それにいざ横に居ると……とさりげなく視線を向けると、天井をぼーっと見つめる横顔が目に入る。こんな距離で見るのにも慣れてきたのか、前までのドキドキはないけども、
(まつ毛長いし、くちびる、プルプルだ……)
こっそり自分の口元も触ってみる。……決めた、帰りにリップ買おう。お姉の使わないやつも今度借りようかな……でもそしたらせんぱいには、うちの味じゃなくてお姉の味になっちゃうかな……よし、やっぱり自分で買おう。
「……ねぇ、小鞠」
「はっはい!?」
妙な決心をしていると、いつの間にかせんぱいがこっちに顔を向けていて、
「……や、呼んだだけ」
「なんですかそれ……」
思わず呆れると、
「ふふっ、でもまたこっち向いてくれた」
ちゃぽ、と距離が詰まる。
「小鞠、こう見るとまつ毛長いね。美人さん」
「びっ!? ……せ、せんぱいだってまつ毛長いじゃないですか……」
「長すぎると大変。泣いた時に瞼に巻き込んで痛い」
「へぇ、せんぱいでも泣く時あるんですか」
クールなのに意外だなぁ、なんて軽い気持ちで聞いたのに。
「あるよ」
間髪置かずに帰ってくる答え。
「家の中で、自分の部屋で、バイト先の更衣室で、学校のトイレで、体育館で、そしてこのお風呂でも」
ざばぁ、と立ち上がってうちに身体を晒す。
「なんでこんなになっちゃったのかなぁ、って」
ほんのりと上気した身体、濡れてるから細かいキズは分からないけどそれよりも目に入るのは、先輩の薄桃色のお腹に走る攣れた跡や内ももに走る何本もの線。
「せんぱい……それっ」
「小鞠はさ、出会い頭にあたしのことを『綺麗な人』って言ったよね?」
「ねぇ小鞠、」
「あたし、きれい?」




