責め。
「じゃ、じゃあ……………いきますよ?」
「ん、はやく……おねがい……」
イスに座って足を伸ばした先輩が急かす。髪は予め濡らしておいてくれたみたいで、
「い、いきますっ」
手のひらいっぱいに延ばしたシャンプーを、せんぱいの髪で泡立てる。
「痒いところはないですかー?」
「ん、気持ちいい」
しゃかしゃか、がしがし。泡立てて、馴染ませて、指を通してなめらかに。リンスインだからこれで全部仕上げるつもりで、引っかかりのないように丹念に。
「手馴れてるね、小鞠。みんなにも、シてあげてるんだ?」
「ち、違いますよ。姉がいるんで、昔は一緒に入った時に洗いあってたんで……」
「へー、お姉さん……ね?」
急に不機嫌になる先輩。どうやら変なスイッチに触れちゃったようだ。
「そ、それじゃ、流しますね」
シャワーからお湯を出して泡を洗い落としていく。耳の後ろにも残らないように、丹念に、そっと洗い落とす。
「ん」
先輩がぷるぷると頭を振って水滴を飛ばす。
「それじゃあ、次は背中いきますね」
ボディソープを馴染ませたタオルでそっと背中に触れる。
「んっ、……ふぅ」
冷たさに一瞬驚いたような声が上がるけど、無視して首筋から腰まで撫で下ろす。
……………きれいだな、真っ白い背中。でもタオルが通ったあとは少し赤くなってて、
「あの……痛くないですか?」
「大丈夫、慣れてるから。もう少し強くしてもいいよ」
ことも無さげに言ってのける先輩に、少し寂しさを覚えて。
「じゃぁ、これは?」
悪戯心で肩甲骨の間を指で撫でる。
「んふっ………///」
くぐもった声が漏れて、慌ててタオルの往復作業に戻る。
「せ、背中終わりましたよっ」
タオルを押し返そうとすると、
「まだ終わってない…………全部って言った、でしょ?」
くるりと身体ごと振り向いたかと思うと、
「次は足、お願い」
足を開いてうちに向き直る。
「そっ、そこはご自分でお願いしますよぉ!? ぷ、プライベートなとこ、ですし……」
「構わないって言ってるのに」
「うちは構うんですっ!?」
押し問答の末に、本当に大事なとこは先輩に自分で洗ってもらうけどそれ以外のとこはうちが洗うことになった。
な、なんでこんなことに……つま先から丁寧にタオルを滑らせて、ムダ毛のないふくらはぎを眺める。意外と引き締まってるのは立ち仕事だからかな。なんて思いながら、顔を逸らして膝の上。少しでも位置がズレたらせんぱいの……い、いやいや考えるな……大丈夫……って先輩頭の上で変な声上げないでくださいってばぁ!?
あー疲れた……やっとのことで足を洗い終わると、シャワーへと手を伸ばす。
「小鞠、まだ終わってない」
「…………勘弁してくださいよ」
次は上半身を洗わせる気だろうけど、流石にそんな元気は残ってない。いやどちらかと言うと……元気より、自制心の方かも。
「じー…………」
「…………分かりましたよ、もう」
またもタオルを手に取って、腕とお腹周りをさっさと撫でて終わりにしようとする。
「ん、まだ、肝心なところが」
「そこは自分でお願いします」
「…………やだ」
「…………どうなっても、知らないですからね」
念の為ボディソープを足して、背中から腕を回して膨らみへと触れる。…………大丈夫、これは自分にもあるじゃないか。何もやましい事はない……そう言い聞かせて、そっと撫でるように拭っていく。跳ね返ってくる柔らかさも、ツンとした気高さも、何もうちは感じない、感じてない、何も無い……無い…………
「…………こまり」
耳元でぽつりと聞こえた声。それは、何気ない呟きだったのかも。それでも、うちの、ーー根岸小鞠と、和知清音の境界線を崩すには、十分過ぎた。
ぽと、と取り落としたタオルに気づいて首を傾げる清音さんの背中に、上から体重を預ける。
「んもう、小鞠重いって…………っ///」
振り返るその首筋に、そっと甘噛み。流し損ねた石鹸の味がした。
「こ…………まり…………?」
戸惑う声を無視して、無防備に揺れる清音さんの胸の、その先端を摘むと、うちを突き返すような衝動が背中越しに伝わって、それを体格差で押さえ込んで、手のひらで胸を覆うように包み込む。
「…………せんぱいが…………きよねさんが、わるいんだからね…………」
もう一度、今度は少し強めに首筋に牙を立てて、空いたその手を…………どうしようか迷う。その先に何をすればいいのかは分かってる、というかお姉に押し付けられたやつで何度も読んでいる、けど…………い、いくら衝動に任せてもうちはここから先のコトが出来るのかな……なんてぐるぐる考えていると、下に伏せる清音さんが僅かに震えて、慌てて体重をかけ直す。
…………この先はやっぱりやめとこう。誰か来るかもしれないし、それに…………
「こ、こま、り…………」
カタカタと震える清音さんを見てると、嗜虐心よりも罪悪感の方が勝ってしまった。
「…………興が冷めたんで、先に出てます」
清音さんの手首に巻かれたロッカーの鍵を引っこ抜こうと手を伸ばすと、逆にその手首を強い力で掴まれる。し、しまった油断した!? と身構えると、
「…………お願い、行かないで……ひとりにしないで……」
辛うじて聞こえたその声に、うちは動けずにいた。




