仕返し。
あー…………うー…………どうしてこうなっちゃったんだろう…………
脱いだ練習着を畳んでバックの上に置くと、改めて自分の身体を眺めてみる。…………じ、地味だー…………どうせ汗かくからって可愛くないスポブラにするんじゃなかった……せ、せんぱいとのお風呂なのに…………
ん、とスポブラを引っこ抜けば、あとは最後のショーツ……なんだけど……
(…………や、やっぱり恥ずかしい……)
さっき見えたせんぱいの身体は、ムダ毛の無い白い身体で……大事なトコもちゃんとお手入れされてた。それに引き換えうちは……もじゃもじゃのまんま…………うぅ、お姉に聞いとけばよかった…………
ちら、と先輩の方を見ると、約束通り後ろを向いててくれて。白い背中と肩甲骨のラインが時折動いてて、少し見とれちゃう。
……………もうここまで来たら焦っても仕方ない、覚悟を決めろ小鞠。気合を入れてショーツから足を抜く。
「あの……お待たせしたっす」
「もう、遅い……よ」
ゆっくりと振り向いた先輩の動きが止まる。じぃっとうちの上から下まで目線が動いて、恥ずかしくなって顔を逸らしちゃう。
「あの、あんま見ないでほしいっす……」
せ、せめて大事なトコだけ隠しとこ、と慌てて手を動かした瞬間、
ーーー先輩が、うちに触れた。
「ひゃうっ、んっ!? あ、やっ、せんぱ、いっ」
まずは首筋にそっと触れられて、それからすすっと鎖骨を撫ぜて、二の腕をさわさわと。そっとお腹を触られたかと思えば肋骨をすすっとなぞられて、あっ、こえでちゃった、くすぐったい。
あたまのなかがふわふわするけど、同時に自分は今何をされてるんだろうって、ぞくぞくもわいてきて、目線を落とすと、つんってなったうちの胸に先輩の指先が伸びてるのが見えて、
ーーーがたんっ
「怖い」が走り抜けて、気がつくと渾身の力で先輩の肩を突いてロッカーへと押し付けていた。
「いいっ、かげんに、してくださいよっ、せんぱい…………」
頭が重い、息が整わない、強化練で何千メートルも走らされたあとだってこんなにならないのに。
肩から手を離すと、先輩はロッカーに沿ってずるずるとへたり込んだ。うちが先輩に覆い被さるみたいな形になってて、今どんな顔してるのかも全部見える。久しぶりだな、先輩のことを見下ろすの。……あの時とは、全然違うけど。
見開いたまんま戸惑っていた先輩の顔がくしゃっと崩れて、今にも泣きだしそうな、悲しそうな顔になる。
「…………なんでですか、先輩。なんでそんな顔、してるんですかっ……」
ふざけないでよ、うちのことをこんなに、こんな格好にして、こんな気持ちにして、やり返されたら怯えて、なんで……なんでそんな、勝手なんですか…………
「ごめん、ごめんね、小鞠…………あたし……」
ふるふると震える先輩を見て、うちの中でよこしまな考えがにゅっと出てくる。今なら…………今なら、うちがこれまでにされたハズカシイ思いを全部仕返しして、先輩に言うことを聞かせられるかも…………?
次の瞬間、うちは自分のほっぺたを力いっぱい叩いてた。
「…………え、こまり……?」
困惑した様子の先輩の、その顔がいちばんよく見えるように、うちもしゃがみこむ。
「先輩…………その、とりあえずお風呂入りませんか…………?言いたいことも聞きたいこともたくさんあるっスけど……2人ではだかんぼだとカゼひいちゃいますし」
手を引いて立ち上がらせると、また先輩の方が視線が高くなる。
「…………そ、それにこのカッコだとなんだか落ち着かない、から……早く、行きましょ」
腕を引くとなんの抵抗もなくこっちに寄って来て、自然と腕が絡まる。押し当てられた柔らかさにドキドキしながら自分のも押し付けてみると、先輩は一瞬立ち止まる。先輩のはうちよりもちっちゃいみたいで、ちょっと優越感。負けずに寄せてくる先輩を軽く押し返しつつ、うちは浴場へのドアに手をかけた。




