結果報告ー小鞠side
本日2話掲載です。
「うぃー、お疲れ様」
「お疲れ様ですー」
練習を終えて荷物を片付けていると、それはうちのスマホに唐突にやってきた。
「んーっとぉ……?」
汗を拭きながら眺めた画面には、
「頼まれてた調査終わったのでこれから報告させて〜 」
とバナナのスタンプと落ち合う場所の地図が送られてきた。七世からか。それにしても今これから……? 何かスクープでもあったのかな?
「多少長くても読むから、このまま送って」
手っ取り早く指先だけ拭いてからそう送ると、間髪おかずに返信が来て、
「ん〜これは直接伝えないとダメなやつだからね〜 それに報酬のこともごにょごにょ」
……せ、先輩の特ダネはそんなに凄いことなんだ……すごいなぁよく調べられたなぁ、流石は七世。
「分かった、これから行く」
素早く打ち返すと、荷物を持って指定された通りに旧校舎へと向かう。えっと、3階に行くには非常階段を通って……それにしてもなんで七世はこんな人の来ない所を……
外の非常階段をこっそりと上って、3階奥の教室ーー元は音楽室だったというその部屋に足を踏み入れる。
「来たよ七世。でもなんでまたこんな回りくどいこと……あれ、七世?」
きょろきょろと辺りを見回してみるけど誰も居ない。なんだよー、人を呼びつけといて自分は遅刻?
仕方なしに窓から外を眺めると、後ろでかちゃり、と音がする。
「遅いよ七世、それで話……は…………」
振り向きながら文句を言うと、そこに居たのは
「……小鞠」
「わ、和知……先輩……」
ど、どうしてここに!? まさか七世が裏切った!? いやどうして!?
色んな疑問が焦りと困惑を巻き添えにして、うちの頭の中でぐるぐる回る。
「小鞠、逃げようったって無駄。入口はあたしの背中側」
緩慢な動作でうちに近づいてくる和知先輩。とっさにもう片方の出口に走って行って扉に手をかけたけど、
「あ、あれ、開かない!?」
「ん、開かないよ」
扉と格闘するうちの背中側から、感情のこもってない声で和知先輩が追いかける。
「ほら暴れないで。音楽室だから音は大丈夫だけど、ドタバタしたら下にバレるから」
何度か格闘したけど扉は開きそうにない。背中には和知先輩。一か八か突き飛ばして逃げる手もありそうだけど…………華奢な先輩にそんなことしたら骨が折れちゃいそう…………
「ほら、何もしないからこっちおいで」
少しだけ躊躇ったあと、扉を背に歩いていく。手招きをしつつも、埃っぽいからか時折咳をする先輩の、その手の鳴る方へ。
「と、もうちょっと前に」
「え、でも」
「いいから」
少し手前で止まったうちを、もっと前に来いと手で示す和知先輩。いやでもこれ以上だと顔が近くて……
「小鞠、そこでお座り」
「お、おすわり??」
「お座り。できるなら、正座」
「わ、分かりました……? 」
言われた通りに床に正座すると、すかさずこつん、とげんこつが落ちる。
「いてて……」
「小鞠、まずあたしにごめんなさい、でしょ?」
「せ、せんぱい??」
「ほら早く」
「ご、ごめんなさい?」
その辺に積まれていた椅子を持ってきて、先輩はうちの前に座る。
「……どうして、あたしが怒ってるのかは、わかるよね? 」
「え、えと、七世に頼んで先輩のこと調べさせた、から……」
「よく出来ました」
ぱちぱちと拍手する和知先輩。でも、それを怒る為だけにここに……?
「でもねぇ小鞠、それだけじゃあ無いんだ」
ぐいっとかがみ込んでうちに顔を近づける。思わず後ずさりすると不服そうに元の体勢に戻って足を組む。今日は制服なのでひらり、と布地が揺れて膝の上まで顕になって。
「なんで直接、あたしの所に来なかったの?」
「そ、それは……」
「正直、あたしのことを調べさせようとしたのは怒ってる。けどそれよりもなんで自分で調べようとしなかったのかが、あたしは気になる」
「そ、それは……その……」
「言えない? 」
「そ、そうじゃないっすけど……」
うちの視線の高さは丁度、和知先輩の膝丈位の所で。足を組みかえる度に揺れるその先に微かに見え隠れしてて、
「ん」
ぴろっと布地が持ち上げられて一瞬だけ視界が開ける。思わず前のめる身体を押し止めると、
「……小鞠、そんなえっちだったんだ」
「え、冤罪ですよっ!?」
「どうだかね?」
慌てて立ち上がろうと足に力を入れたけど、痺れててふにゃっとなって床にへばってしまう。
「でもなぁ、小鞠がそんな子だとは思わなかったなぁ」
「だからそれはっ」
「…………意気地無し」
「…………えっ」
「気になってる事があるのに、自分でするのが怖いから人任せにする。小鞠ってそんな意気地無しだとは思わなかったな」
「………………」
何も言い返せなかった。確かに、うちが自分で和知先輩のことを探らなかったのはダメなことだった。二アマートで出した勇気が、ころっと転がされて、いいようにされて、立てなくさせられて、恥ずかしくなって、顔を合わせらんなくなって、、、、、、、でももっと知りたくて、七世を頼った。
「…………あたしは、誰かに興味を持つことは殆ど無い」
窓の外を向きながら和知先輩が話し始める。
「小鞠の事だってそう。二アマートでぶつかられた時は、なんて失礼な奴って思ったし、30秒位したら存在すら忘れるはずだった」
くるりと向き直ったかと思えば、へたり込むうちに視線を合わせて、
「ねぇ、あの時小鞠はなんて言ったか覚えてる?」
「え、えと……」
「『綺麗な人』って、そう言った。だから、あたしの中に小鞠が残った。いつもなら忘れるはずのものがあたしに引っかかった」
「せんぱい……」
「…………短い間だけど、小鞠と居るとちょっと楽しかったよ」
「え、待って、せんぱ」
「気づいてたよ、小鞠があたしに気があるって。……でもあたしは小鞠の思いに応える資格が無いんだ」
さぁぁ、っと一気に血の気が引く。やだ、そんな、待って、せんぱい、まって、
「……小鞠、こっちのドアなら開くから。小煩いのが居るから見つからないようにね」
またうちに背を向ける和知先輩。
…………嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だこんなのっ……
…………立て、立ってよ、立ってよ!! うちの足っ!!
力が上手く入らずにがくがくする足を、無理やり言うことを聞かせて立ち上がる。もつれながらも、よろめきながらも、和知先輩の方へ歩いていく。
「わち、せんぱ……うちの話を、聞いて」
「だからあたしにはーー」
「資格って、なんなんすか」
動きが止まる。
「和知先輩、余りにも自分勝手過ぎます。何が『思いに応える資格がない』ですか。そんなの誰が決めたんですか、うちはーー」
「あぁもう、聞き分けの無い子だなぁ」
苛ついた声でうちのことを突き飛ばす。
「……いいよ、なら見せたげるよ」
そう吐き捨てて、なんの躊躇もなく制服のスカートに手をかけてーー足元へ落とした。




