揺れる想い。
「お願い七世っ!! この通り!!」
「のわぁっ!? いきなりなんなんですか根岸さん!?」
週が明けてすぐ、うちは隣の教室に乗り込んだ。目当ては星花の腕利き情報屋と称される同級生。
「前に一葉に聞いた、七世に頼めば何でも調べてくれるって」
「な、なんでもは無理だよ? 調べられることだけね? 」
「調べられることなら何でもいいんだね?」
ぐいっと詰め寄ると、
「わっ!? か、顔、近い…………」
すぐに横を向かれてしまって目線が合わせられない。
「それでそれで、引き受けてくれるのか?」
「わ、分かったから、まずは顔を遠ざけて……」
「あ、ご、ごめん……」
スっと顔を引くとやっと七世が元通りの姿勢に戻る。
「んもう、どうして顔のいい人達はこう距離感が無自覚なんだろうなぁぶつくさ……それで、調査の依頼だね? 内容は? 」
「ああ、とある人の情報を集めて欲しいんだ」
「ふぅん? 聞こうか」
手を組んでその上に顎を載せる謎ポーズの七世。
「あ、その前に。その顔どうしたの?」
「うっさい聴くな」
……ボールを顔で受けちゃったんだよい……
「いいか、これは内緒にして欲しいんだけど、ある人を調べて欲しいんだ」
耳を寄せる七世にそっと小声で呟いた。
「…………先輩を、和知 清音という先輩のことを調べて欲しいんだ」
一昨日の夕方、うちは先輩に醜態を晒した。
攻め込んだつもりだったのに、逆に攻め込まれて……耳元で囁かれて、とろんとしちゃった。ふにゃふにゃで立てなくなって、それをみんなに見られて、先輩の眼差しにも晒されて……
足に力が戻るのを見計らってノーガードで攻め込んだけど、一向に意に介されなくて、うちの羞恥心だけがどんどん増していって。
帰り道で愚図るうちへの口止めなのか、出来たての二アチキをいきなり口に突っ込んできたり……や、お腹すいてたからもぐもぐ食べたけど。
本当に、先輩は何を考えてるのか分からない。
分からないからこそ、うちもこの気持ちの扱いに困ってるんだ。
帰り道で和知先輩と別れた後は本当に散々で。カプチーノにおかえりのハグもしなかったし、寝てるカプチーノのしっぽを踏んじゃってそれ以降なんか避けられてるし、ベッドで足をばたばたもがいてるとこをお姉に見つかって根掘り葉掘り追求されたし……心機一転、もやもやした気持ちを振り払おうと部活に行ったらミスばっかりで、おまけに顔でボールを受け止めるのも何度か…………それならばと無心でランニングしてたら靴紐が切れてコケるし、本当にもう散々。
うちの、この気持ちを受け止めるべき先輩は、昨日は現れなかったし……お休みなのかな?
とにかくうちは、あの時から先輩に囚われたまま。だけどうちは先輩のことを殆ど知らない。なら、…………なら、もっと知らないと。
うちをこんなにした、先輩のことを。




