扉の向こうに
あたしが保険医&二アマート店員による謎のコンビ攻撃を受けていると、
「すいません今戻りましたっ…………って、あれ?」
救いの手が差し伸べられる。
「おう、根岸じゃないか」
「げっ、やがみんじゃん」
「こら、やがみん言うな」
ていっと縦チョップが入る。
「……やがみん」
「なんだお前もか」
縦チョップを寸前回避。
「暴力反対。てか、やがみんて名前なのか」
「違う違う……ところで根岸、もしかして和知と知り合いか?」
「え、ええまぁ……」
む、小鞠サイドからアプローチをかける気かな?
「なら和知が普段何食べてるか教えてくれるか?いやなに、保健医としては知っとかないといけないんだが教えてくれなくてな」
「ちょっと、なんで小鞠に聞くの?」
「じゃあ自己申告してくれるか? ん?」
「…………出来合いのものが多い。でもちゃんと三食食べてるから」
「やはりな。人のことを言えた義理じゃあ無いが出来合いのものばかりでは栄養が偏る。特に緑黄色野菜が不足すると皮膚の再生にも影響が」
「余計なお世話」
無視して通り抜けようとして、
「小鞠、何してんの行くよ」
袖口を掴んで連れていこうとする。
「おう和知……検査だけはちゃんと受けろよ」
適当に片手を挙げて答える。
「あと根岸、ケガしたとこはちゃんと手当てしろよ。唾つけとけば治るなんて強がるのも程々にしとかないと」
「ちょっ、やがみんそれは言いっこなしだってー」
両手をぶんぶん振って抗議する小鞠。
「ふふっ、あっそうだ小鞠ちゃん、さっき二アチキ揚がったとこだけど」
「ほんとですか? なら……」
と、ここで何故かあたしの方を見て
「いや、今日はいいかなぁ……」
「そーお? またお腹空いたらお願いね」
「はーい。じゃ、行きましょっか和知先輩」
一人で先に自動ドアをくぐる小鞠。バッグに付いたチャームがちゃらちゃらと揺れるのを目で追いつつあたしも自動ドアの向こうへ。
「小鞠、欲しいもの選んでていいよ」
「あっいえ……うちは特にこれ欲しいってモノはなくて……だから、先輩に付いてていいっすか?」
「ん、それは構わないけど」
買い物かごに腕を通して、ノータイムで入口近くの菓子箱をカゴに投げ込む。さて次は、と視線を戻すと小鞠のそれとぶつかって、
「…………なに?」
「や、なんでも…………」
「…………小鞠、もしかしてだけどあの保健医のスパイじゃないだろうね?」
「ち、ちちち違いますって」
あたふたわたわた。うん、この反応は本当に違うんだろな。
「冗談。小鞠も好きな物入れていいよ」
「ええっ、いや悪いですって」
「や、買うとは、言ってない。抱えるの大変だろうから、カゴの中入れといていいよ、と」
「あ、さいですか……」
このテンションの上がり下がりを見てるのが面白くて、つい小鞠をからかって遊んでしまう。この前知り合ったばかりなのになんだか楽しくなって、ついイタズラしたくなるのはなんでだろう。
「あっ、新しいやつ並んでるっ」
話題を変えるように美容品のコーナーに駆け寄る小鞠。
「あ、ほんと、だ」
プチプラものがまた増えてる。けど、んー……良さそうなもの無いなぁ。
そんな中、食い入るように一点を眺める小鞠。その先の瓶を摘むと視線もつられて動いて、
「マニキュア……およそ、コンビニにあるような、ものじゃないような」
軽く振るとさららとラメが動いて朱と混ざり合う。ふむ……黒と合わすには少し派手かな。少し背伸びをしてるような子なら似合うかも……
背伸び……ね…………
なんだ、横にいるじゃない。
「小鞠、こういうの好きなの?」
「い、いやいやいや!! 指先使う部活なんでマニキュアはちょっと……それに、うちなんか絶対似合わないし…………」
「そう? 背伸びをしてる小鞠にはお似合いだと思う」
「背伸び? しなくても身長同じぐらいですよ?」
きょとんとする小鞠をよそに、そっとカゴに小瓶を落とす。
「ふふっ、ならそういうことにしておこうか」




