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早足の咎

「ん、そろそろ出ないとかな」

「そ、そうだな、もうこんな時間だしな」

壁に掛けられた時計をチラリと見上げて呟くと、居心地悪そうにしていた番紅花姉(サフランねぇ)がここぞとばかりに立ち上がる。

「じゃ、また次」

「おうよっ」

「テスト勉強を忘れずに」

「お、思い出させるなよー……」

テンションが乱高下する番紅花姉(サフランねぇ)。そんなに落ち込むことかなぁ、とか思いつつも遠ざかる背中をじっと見つめていると、

「あ、代金貰ってないや」

さては会計を押し付けて逃げたな?次シフトかぶった時にきっちり回収しなきゃ……

「あっ、そうだうちも会計」

「や、小鞠の分も番紅花姉(サフランにぇー)から後で貰うから」

「そ、それはちょっと……」

そそくさもじもじする小鞠。いつの間にか財布も取りだしていて、伝票を眺めては指で何かを数えている。

「あれ、ジャージなのにお財布持ってる……あ、買い食い、だっけ」

「そ、そっす……」

「分かった、一旦あたしが払って、後で貰う。あと会計は、3では割れない」

「うぇっ? 」

チラリと見えた数字を足したら8だった。余りの2は番紅花姉(サフランねぇ)に押し付けとこう。これも年長者の役目だし諦めてもらおう。

「ん、これで」

電子マネーカードを差し出して決済すると、やや怪訝な顔をされつつも支払処理を済まして店を出る。

「ほら小鞠、行くよ」

「あ、待ってくださいっ」

ととととっと駆け足で追いつく小鞠。その視線はさっき仕舞ったあたしの財布へと向けられていて、

「先輩、なんでクレカ持ってるんですか……?」

「これ、紛らわしいけど、カード差し込んで使う電子マネー。デザインも似てて、勘違いされやすい」

「あっ、そうでしたか……」

「でも、もう少ししたら、家族カード貰えるから、少し便利になる」

「へー…………」

でも使いすぎないようにしないと。大変だし……お父さんも。

「それで、小鞠。どうする? 帰る?」

「あ、その前に荷物とか取りに行かないと。トレーニング中なので」

「…………もしかして、サボってる?」

「……へ、へへへっ」

「悪い子だ」

こつん、とゲンコツを軽く落とすと、にへへと笑って小鞠が照れる。

「あたしも付いてく。二アマート、寄りたい」

「そ、それじゃ一緒に行きましょっか」

とっとっとっ、と今にも駆けていきそうなテンポの小鞠の後をてくてくと追っていく。歩幅が違うからか置いてかれそうになる度小鞠が振り返って待ってくれるのが申し訳ない。

「いいよ、先行っても」

「い、いや、待ちますって……」

普段からせっかちさんなのか、そう言いつつも足はそわそわしてて、

「じゃあ、あたしも少し走る」

いつもより早足になって小鞠のことを追い抜こうとする……する……するん、だけど……

「むぅ……」

「せ、先輩…………? 無理しないで……」

小鞠がはるか先を小走りしている。うぅ、体力がまた落ちてる…………

「……へにょん」

「わー!? 和知先輩が溶けたーっ!?」


「や、やっと、着いた……」

ぜぇはぁと変な息をつきながらも、何とか校門までたどり着く。

「先輩、顔が死にそうな色になってますよ……?」

「大丈夫、これ生まれつき…………」

「えぇ……」

小鞠の支えを振り切ると、よろよろと二アマート方面へ歩いていく。

「本当に大丈夫なんですか…………? うちは荷物取ってきたらそっち行きますんで……」

軽く手を振ると、もう限界に近い身体を引きずって二アマートへと歩いていく。何故か小鞠の前だと格好つけたくなるんだよね……

ぐるりと回って二アマートの灯りを見つけると、入口の前にしゃがみこむ人影が2つ……げ、あの顔は……

「よーしよしよしいい子だぞー」

「わぁっ、マリリンちゃん懐いてますね」

「むむ、ダイアナの香りに惹かれたのか?」

二アマートの店員と、うぇぇ保険医……

どうしようか、気付かれずに店内には入れないぞ……

「おや、和知じゃないか。休日になぜ制服を? さては部活に入っているのか?」

「えーっ、それは知らなかったです」

「いや、あの、違くて」

どう弁明したものかと考えていると、2人の足元にいた猫がこちらに気づいてとてててと歩いてきて、じーっと見つめた挙句にふしゃーっと背をいからせて威嚇してくる。

「ふぅん……? 」

頂から見下すような視線を向けると、

「どうしたんでしょうねマリリンちゃん、いつもは人懐っこいのに。ほら、あっち行こう」

店員がひょいっと猫の胴体を持って持ち上げると途端に大人しくなる。

「ふむ……和知、お前ネコは」

「別になんとも」

「あいわかった、アレルギーとかでは無いのだな?」

ふむふむと1人で納得する保険医。さてこの隙に買い物を……

「待て和知、そういえばお前の身体の件だが」

「プライバシーの欠片も無いのですね、保険医さん」

「違う。検査結果の方はきちっと提出しろという話だ。ちゃんと受けてるのだろうな?」

「さぁ? 」

「あのなぁ…………」

「あ、麗緒先生今戻りました。そして清音ちゃんはお買い物?あのクリームは今品切れしちゃってるよ」

「そう、なの? まだ残ってるけど、欲しいなって、思ってたのに」

なら仕方ない、次登校した時にしよう。

「あと和知、出席日数の方も」

「それプライバシー違反」

じとーっとした眼差しを向けるが一向に意に介さないらしく、

「そうだもみじさん、保険医として知りたいんですが和知はいつもどんな食べ物を買いに来てます? ジャンク系は? 炭水化物に関しても」

「ちょ、それこそプライバシー」

店員はあたしと保険医を見比べたあと、少し困ったように

「プライバシー、です」

とだけ答えた。むむ、なかなか出来る人。

芝井流歌様の14期【女子校保健医さんの百合カルテ】より拝借

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