悲しい華が咲く前に③〜清音
「さて、話を聞かせてもらおうか?」
喫茶店のソファに腰を下ろすと、対面に座る2人へ尋問を始める。
「お待たせしました、伝票こちらです」
「あ、そこの人に、ツケといてください」
「おいぃ!?」
「いいでしょ、番紅花姉は『華』だからもっと貰ってそうだし」
「いやいや君影と変わんねぇって……それにチップとかねぇから……」
「あ、あの、うちの分は自分で払いますから」
「や、そこの人が払ってくれると思うから、大丈夫だと思うよ。ね? さ・は・ら・先輩?」
「あぅ……うぎぎ…………わ、分かった……分かったから……」
交渉成立。ストローでガラスの中の氷をからりと転がしつつ、
「さて、とりあえず小鞠。番紅花……や、この人との関係は?」
「あ、先輩です。中学の時の。高校は別のとこになったって聞きましたけど……」
「なるほどね」
無い話では無い。番紅花姉の家はどこら辺か知らないけれど電車使わずに来るって行ってたし、忘れ物してダッシュで家帰るとこも見たことがある。
「2つ上だから、うちが入って一緒にやれた時間は半年も無いんですけど……」
「同じ部活、だったんだ。なるほどそれで同じ焼け方」
捲った袖口から覗く二の腕が2人とも同じ位のとこで白と茶が区切られていて、首筋もなんか似て、
「…………あ、あの、そんな見つめられると……」
「あぁごめん。……それにしても、小鞠がねぇ……」
このガサツ姉と先輩後輩とはねぇ、と言おうとして踏み留まる。流石にその辺の分別はある。
「あたしとしては君影草と根岸が知り合いの方が驚きだわ。完全に対極だろお前ら」
ソーダフロートを崩しながら番紅花姉が食いつく。
「ん、まぁ」
「色々、ありまして……」
小鞠??なぜそこで言い淀む??
「ほうほう、言えない関係と」
「違うわ」
手近にあったメニュー表を縦に振り下ろすと、すかさず白刃取りされる。むむ、体育会系め。
「……二アマートで突き飛ばされて、炎天下に連れ出されて、傘を奪われた関係?」
「和知先輩!? なんですかその語弊だらけの説明は!?」
「おめぇーらアブナイ関係なのか……」
「先輩も違いますからね!?」
その後、小鞠による解説が身振り手振り付で演じられた……
あ、氷溶けてる。
「なるほど、よー分かった」
「ぜぇ……ぜぇ……お、お分かり頂けましたか……」
一通り解説しきったのか、疲れ果ててソファに身を投げ出す小鞠。
「メロンソーダ、溢れるよ」
「おわっ!? とととっ」
慌ててグラスを一気に吸い上げる小鞠。半分くらい無くなったけど大丈夫???
「ふぅ……そ、それよりもうちが気になるのは…………先輩と先輩は一体どう言う関係なんです?? さっきから姉とか何とか……」
「あぁ、あれはな……」
「ふふっ、実は本当に姉と妹で」
「やめいっ、根岸はただでさえ夢見がちで冗談通じないんだから信じちゃうだろ」
「や、やっぱりそういう……」
「いや違うからな!?」
「嘘。大体本当に姉妹ならあたしも小鞠達と同じ中学のはずでしょう? 姉ってのは役柄。あたし達は同じお店で働いてるの」
「あ、そうなんですか……」
「そう。番紅花姉、今日は持って帰ってるよね? 」
「うぇぇ……見せたくねぇな……」
と言いつつ、衣装入りの鞄を開けて小鞠に見せる。
「ほんとだ……和知先輩のと似てる」
「こいつのはもっとシックだけどな。てか君影草、根岸に見せたことあるのか? 『華』の姿を」
「ん、買い物行く時に着てた」
「買い物程度で……度胸あんなぁ……」
「あれが、本当のあたしだもの」
豪快な姿に反して、実は番紅花姉は小心者。店に来るのも私服だし、外では一度も『華』になった事がない。
「番紅花姉の方が後から入った、というか連れてこられた? けど、年上だから」
「年上っても数ヶ月だろ、同い年なら誤差だよ誤差」
「待って番紅花姉」
「同い年……?」
「小鞠、17歳同士同い年……ね? 」
「あの、もしかしてですけど…………い、いぇ、何でもないッス……」
そう、何も無い。何も無いのだ。
【キャスト裏話】
番紅花 / 砂原 風花
海谷商業高校3年生。頭を使うより身体を使う派の為テスト直前はいつも真っ青。
清音の姉貴分的気取りだが清音からは弄りやすい人と思われている。
名付主は灯台躑躅。名前の感触と「お前が世界に色を付けるんだよ」と諭されての拝命。




