貴方無しで育っていく〜②清音side
「うー…………」
「諦めろよ君影草、おめーが補習なんて名目で出てくるから悪いんだろ」
「だって、さぁ……」
言いづらいじゃん、登校頻度が微妙なのにバイトまでしてます、って…………
「この後どうする?」
「んー、ちょっと胡蝶花さんとこ行ってくるわ。君影も来るか?」
「んー、今必要なものは、無い、かな」
「そか」
「あ、おはよう、ございます」
「んお、篝火花か」
頭1つ下から澄んだ声が聞こえる。
「や、…………今日は、夜番?」
「あ、君影草さん……」
目線を合わせようとするとすぐにぷい、とそっぽを向かれてしまう。ちょっと困った娘だけど……いい人ではあるんだよね、うん……
「んじゃ先行ってるから」
番紅花姉を見送ってその場に居ると、
「あ、あの……」
「ん?」
「この前の、ストラップ……付けてないの?」
「あぁ、あれね。…………ごめん、付けるとこ無くて、今は家に、あるかな」
「ふぇぇ……で、でも、受け取って、くれた……えへへ」
思い出したように笑う篝火花。
「こ、今度は、付けてきて……ね? お揃い……したい……し」
「んー……だけど次、いつ被る? 」
基本的に昼番時々ロングのあたしと、夜番メインの篝火花では同伴の日の方が少ないし。
「えーっと……君影草さんの、ロングの時、かな」
「そうなると、来週かな」
「らいしゅう…………えへへ、わかった。じゃぁ、またね」
小さなポシェットを揺らして篝火花が駆けていく。…………なんだったんだろう?
「うぇーい、戻ったぞー」
「番紅花姉、なんかいいのあった?」
「や、あんまし。夏休みに入るこれからでしょ、メインは」
「あぁ、時間取れるようになるもんね」
胡蝶花さんの店ではハンドメイダーさんの委託も受けてるけど、作家さん達が比較的低年齢層なのか長期休みのタイミングでドサッと新作が出る傾向にある。あたしもそれを狙ってる節があり、
「でもいいものはあったぜ」
「じゃーん」なんて大仰な効果音と共に取り出したのは、
「フリル・ド・シュシュ? でも番紅花姉髪短いじゃん」
「髪じゃなくて袖に付けるのよ。チラ見せの妙よ、ぬふふ」
「んー、あたしには、よく分からん世界だ」
見せて何が面白いんだろう……
「で、そればかり何個も?」
「言うて替え含めて3セット……んお? 失敗したな、これ1つで2セット入ってるやつかよー」
失敗したなー痛ぇなー余っちまうなーとか横でぶつくさ言っている。こういうとこのツメが甘いから紫丁香花姉にいいようにあしらわれるんだと思うけど…………
と、後ろから髪を引かれる感じがして振り向くと、
「おっと、そのままそのまま。ついでに前見ないと危ねぇぞー」
「いや、なにしてんの」
番紅花姉があたしの髪を弄り回している。
「いいよなー、そんな超スーパーロングでさー、うちだったら怒られるぜ」
「そうせざるを得ない理由があんの」
顔もある程度隠れるし陽射しからも護れるからね。
「て、引っ張らないで」
「ほい、出来た」
頭が後ろに持ってかれる感じがして感触を確かめると、
「…………ポニテにした?」
「半分あたりー、ちょい高めのとこと真ん中下の2箇所で留めてみた」
「やだよこんなの……」
頭を振って外そうとするけど、
「ダーメ。帰るまでそのまんまそのまんまっ☆」
「やめてって、こんなとこ誰かに見られたら……」
「……………………えと、和知先輩…………?」
ぎぎ…………ぎぎぎ…………その、声は……
「なんで、小鞠が、ここに…………?」
「いや、お腹空いたんで、商店街に買い食いに……」
番紅花姉と話しているうちにいつの間にか商店街の中まで歩いていたみたいで、
「あの…………先輩、それ素敵ですね……」
小鞠の視線の先にはあたしの揺れる髪、そしてその先には…………っ!?
(み、見られた…………あたしの、項……)
かぁ、と暑くなる頬を誤魔化すように髪を振ってシュシュに手を伸ばすと、2本共引っこ抜いて見蕩れる小鞠に押し付ける。
「えっ、あの、これ」
「あげる!!」
髪を元通りに整えると、番紅花姉を引きずって足早に立ち去ろうとする。
…………これは悪い夢、と思うしかない。
「…………番紅花姉、何してんの行くよ」
ぐいぐいと引きずっても動かない番紅花姉に振り向くと、番紅花姉もやっぱり固まっていて、
「……や、君影草のそういうとこ初めて見た……のもそうだけど、こいつと知り合い……?」
あたしと小鞠を互いに見比べて困惑する番紅花姉。あれ、もしかして小鞠の知り合い……?
「んと、あれ、もしかして砂原せんぱむぐむぐ」
「わー!? わーー!?」
後ろに回って慌てて口を塞ぐ番紅花姉。
「…………もしかしなくても、お知り合い?」
バツが悪そうにそっぽを向く2人。
…………さて、あたしを辱めてくれた2人にはたっぷりと反省してもらおうかな???




