朝
もしも誰かを好きになれるとしたら、その人はきっと???のことを嫌いなはず。嫌われて、貶されて、晒されて、みっともない事をして、そうして???のことを穢してくれて。
きっとその人は清音の事は知らないけど、知ってくれるかもしれない。だから、……だから、手を伸ばしてみようかな。
なんて浮かんだ考えの首筋を掴んで水桶に沈める。いいえ、そんな考えは許しません、なんて否定してくれたらいっそ楽なのにな。
朝というのはとても面倒な時間。
まずは目を覚まさなければいけないこと、
日差しと戦わなければいけないこと、
そして装いを解いて「人」にならなければいけないこと。
この3つに抗うことで初めて???は「和知 清音」と名付けられる。
(…………汗かいた)
僅かな胸元に指を差し込んで薄衣を剥がすと、そのまま全身に隙間を作って袖を抜いていく。薄いとはいえ化繊の衣は汗を閉じ込めてまとわりつく。……ん、洗濯に出さないと…………とベッドサイドの籠にしゅるりと落とす。後は下着だが…………面倒だけどこれも変えるしかない。兎角に夏は面倒だ。
濡れた薄衣に悪戦苦闘していると、ベッドサイドに置いたタブレットに早く起きろとメッセージが飛んでくる。指先で闇へ還すと壁の制服に手を伸ばして袖を通して……っと、裸だった。箪笥へと足を伸ばして、その前の姿見で立ち止まる。
…………とても醜い、死人のような白。
僅かに残る黒をそっと撫ぜてから鏡に手をつくと温さが伝わってきて、それだけで裏切られる。
私の味方は、誰もいない。