第40話 メルーラ1
「メルーラ。気が付いたかい」
「フロード様! 怪我は! あ、足は、それに……ここは?」
「落ち着いておくれ。僕は大丈夫だからね」
この魔王城遺跡の調査の最中、魔獣に襲われて逃れたと思ったら、人型の魔獣に出くわしてしまった。フロード様の足に噛みついた牙が今も瞼に焼き付いている。
段々思い出してきた。フロード様が食われ、自分もモンスターの餌食になったはずでは……。
「フロード様。その足の包帯は……」
「ああ、あの少女が助けてくれてね。治療までしてくれたんだ」
少女? 誰の事を言っているんだろう。
ここは四方を石の壁で囲まれた廃屋の中? 天井は崩れ落ちているけど、家一軒分はありそうな広間の片隅。窓はなく扉は岩で塞がれ、二階部分まである壁に四方を取り囲まれている。
「ここなら獣や魔獣も入ってこないから安心だよ」
「それよりお身体は大丈夫なのですか」
「足は少し痛むけど、他の怪我はもう治っている。君も光魔法で治療してもらっているから、痛みはないんじゃないかな」
そう言えば手足の傷が治っているわ。
「もしかしたらあの少女が、僕達の探していた魔王かもしれないよ」
少女? 魔王? 化け物……。そうだ、少女の顔をしたモンスターを呼び込んでしまいフロード様の足を……。あの光景がフラッシュバックして体が震えた。両手で自分の体を抱き落ち着かせる。
「そ、その少女……モンスターに自分達は治療してもらったと」
片足を切断されたフロード様は、瓦礫に腰を下ろしているけど至って元気だ。一体どういう事だ。
すると、側面の壁の上部から人影が降りてくる。あのモンスターだ!
「貴様っ!!」
立ち上がり、そのモンスターに戦いを挑もうと腰に手をやるけど短剣が無い!
「君の武器はボクが預かっているよ。君は元気いっぱいのようだね」
そのモンスターは水をいっぱいに詰めた水袋をこちらに放り投げた。これは自分達が遺跡調査のために持って来ていた物だ。そのモンスタは頭のない獣を引きずり廃墟の真ん中へと歩いて行き、かまどの用意を始めた。
「メルーラ。その水を飲ませてくれるかい」
「は、はい。フロード様。あっ、でもこの水はあのモンスターが持ってきたもので……」
毒が入っていたり、飲めない水かもしれない。
「大丈夫だよ。さあ」
そう言われ、水袋を拾ってフロード様の元へ持って行くと、美味しそうに水を飲む。
「君は冒険者なんだろう」
「うわっ!」
いつの間にか少女が近くに立っていて、猪のもも肉を放り投げてきた。
「後は勝手にそれを調理して食べてくれるかい。今晩はここで野宿になるからね」
そう言えばもう夕暮れだ。自分は半日以上も眠っていたのか。近くに立つ少女にフロード様が声を掛ける。
「あ、あの。あなた様は魔王様でしょうか」
「それより君達はどこからやって来たんだい。鬼人族のようだけど」
「失礼しました。僕達はキノノサト国とノルキア帝国の共同調査隊としてこの魔王城遺跡の調査を行なっておりまして……」
「ここは魔国領内。キノノサト国とは不可侵条約を結んでいるから、勝手に入って来ちゃダメなんだよ」
戦争が集結し北部で魔族の国ができると噂を耳にしたけど、既に建国され不可侵条約まで結ばれていたとは知らなかった。
「申し訳ありません。僕達が国を旅立ったとき、そのような事は聞いておらず第四回調査団としてここまで来た次第です」
「それなら明日にでも、ここを離れてくれるかい。今後はここに入って来ないでね」
その言葉を聞いてフロード様が少し考え込む。
「……それならば、この僕をあなた様の眷属にしてください」
「フロード様! なんてことを! 化け物になってしまうんですよ」
魔王の眷属と言えば魔族。世界中から忌み嫌われる存在だ。そんなものに成りたいだなんて。
「メルーラ。魔族というのは化け物でもなんでもないんだよ。魔王と共に生きる一族の事さ」
「君はフロードと言ったね。確かにボクは魔王だよ。君を眷属にする事はできる。でもね、一度眷属になったら後戻りはできないよ。姿形も変わってしまう」
「白子と同じ状態になるというのでしょう。僕は魔王一族の歴史について研究しています。眷属になり直接魔王様の事を研究できるなら本望です」
フロード様は何を言っているの。自分の研究のために魔族になろうだなんて。
「君の言っている魔王とボクは別人なんだ。以前の事は全く分からないんだけどね」
「ふむ……。それでも結構です。現在の魔王様や魔族の事を後世に伝える書物を作ります。過去を調べるよりも興味を引く事柄です」
そして自分の方に向き直り、すまなそうに言ってくる。
「メルーラ。ここまで付いて来てくれてありがとう。僕は魔王様と一緒に行くよ。君は国に帰ってくれるかい」
「い、いえ。自分も一緒に行きます!」
えっ、自分でもなぜこんな事を言ったのか分からない。
「でも君は眷属にはならないのだろう」
「じ、自分はフロード様の護衛として雇われています。その職責を全うしなくてはなりません」
そう、そうだ。護衛として自分も付いて行かないといけないわ。フロード様が眷属になるのは反対だ。でも行くと言うなら自分がフロード様を守り、補佐をしなければ。
「まあ、ボクの眷属の里にはそんな人もいるけど、里に危害が及ぶような事をしてもらっては困るんだよ」
そこには色々と秘密があって、それを口外しない事が条件だと言われた。
「それとフロード。君も研究するのはいいけど、それを世間に公表してはダメだよ。この世界が混乱してしまうからね」
「この近くには、かつて眷属の里であったとされる遺跡があります」
「そうなのかい。それは知らなかったよ」
「そこからは現代の技術でも解明不可能な出土品が出てきます。それが現在の里にもあるという事でしょうか」
「まあ、そうだね」
フロード様はますます興味を持って、是非眷属にしてほしいと意気込んでいる。
「それじゃ、明日の朝にでも眷属の里へ行こうか」
「ですが僕達の馬車は壊れてしまって、馬に乗るにもこの足では……」
「心配しなくていいさ。ボクが飛んで連れて行ってあげるよ」
そう言って背中の黒い翼を広げた。やはりこの者はヴァンパイア。化け物だわ。




