第29話 外交 王国1
「これが王様の住むお城か~。すごく大きいね~」
友好条約を結ぶためアルメイヤ王国の王都アルメイに来ている。
「ねえ、ねえ。あたしも連れて行ってよ」と、興味津々のエルフィがいつものように言ってくるので、三人一緒に空を飛んで丸二日を掛けてこの王都までやってきた。
この王都は王国の中心より海に近い西側に位置していて、眷属の里から馬車で三十日も掛かってしまう。
獣人の文官や護衛、それに贈答品も持っていかないとダメだからその人達は馬車で先に行ってもらっている。
外務大臣のエリーシアも連れて行こうと思ったけど、この後すぐにキノノサト国に行かないといけない。こちらも二十日以上かかる長旅だ。王国の事はリビティナ達に任せてもらって、エリーシアには既にキノノサト国に向け出発してもらった。
王都の手前の街道で馬車と合流して、王都を取り囲む城壁の城門を潜る。にぎわう街中を通り過ぎた先には、二重の城壁がお城を取り囲んでいる。
「王都に入る城門も大きかったけど、お城に入るこの門は大きくてすごく豪華だね」
門の両側には屋根が尖がった円筒形の塔。白い大理石でできた三階建ての塔は、大きな屋根を含むと六階分はあるね。壁の所々に彫刻も飾ってあって煌びやかな装飾がなされている。
その二つの塔に挟まれる形で、赤茶色のレンガでできた大きなアーチ状の入り口がある。馬車がすれ違えるほどの入り口の上部は平らな壁が三階分そそり立ち、窓がいくつも取り付けられていて教会のようにも見える。
その窓を見てネイトスが説明してくれた。
「敵が攻めて来た時、あの窓から矢を射かけるんでしょうな。鉄の扉も壁の上から落ちてくる構造になってます。この城門を突破するのは難しいでしょうな」
豪華なだけじゃなくて守りを重視した城門なんだね。先頭の馬車が城門の前に立つ番兵さんに、魔国から来た使節団である書類を見せると、背筋を伸ばして最敬礼し馬車を通してくれる。
辺境伯が用意してくれた黒塗りの四頭立ての箱馬車が五台。リビティナが乗る馬車の側面には、ヴァンパイアの翼と剣と盾を模した魔国の紋章が描かれ、車輪や屋根は金色で装飾されている。
その馬車の両側には馬に乗った辺境伯の兵士が護衛としてついてくれる。列をなしてお城へと向かうその車列を、城内に居る兵士達が敬礼し見送る。
「みんな魔王の姿が見たいのよ。リビティナ、窓から手を振ってあげたら」
「そんな恥ずかしい事、やだよ。今日もボクは翼を広げて立っているだけだからね」
国王への挨拶やら条約の締結など、全て文官達が取り仕切ってくれる。リビティナ達は魔国の王とその側近という態度で堂々としていればいいらしい。
お城に到着して、馬車から降りてきた文官と護衛の者達と一緒に控室へ通された。その途中、案内役の人がチラチラとリビティナの方に目をやる。初めて見る魔王が余程気になるようだね。
控室ではこの後の式典の進行について、再度文官から説明を受ける。
「よっ、魔王様。緊張しているようだな」
「ハウランド伯爵~」
先にお城入りしていた伯爵が控え室に来てくれた。誰も見知った者のいないお城で心細かったから、ハウランド伯爵の顔が見れてホッとしたよ。
「ここでは一国の王としてふんぞり返ってりゃいいさ」
「でも、相手は大陸一大きなアルメイヤ王国の王様なんだよ。緊張もするさ」
「そうだな、謁見の間には、既に王国貴族達が大勢集まっている。その中を歩いて行くことになるからな。まあ、段取りはできている。気楽にやってくれればいいさ」
確かに、口上を述べたり贈答品のやり取りも文官が全てしてくれる。とはいうものの大勢のえらいさんの前に出る事自体が苦手なんだよ~。
「このような場で、王族が口を開くことはない。俺達の国王も椅子に座っているだけだ。お前もその前で堂々と立っていればいいさ」
今回リビティナ達は、帝国との戦勝記念式典という場の一部の催しに参加する形となる。主としては帝国に勝ったお祝いで各貴族を労う祝賀会だ。魔国との友好条約の調印式はそのついでという事になる。
「今回、南部地方は負けたが全体では勝てた。その立役者は魔王様だからな。貴族の中でも一目置いている者もいる」
今は小さな国ではあるけど、その軍事力を脅威に思う貴族もいるようだね。
「伝説の魔王を見れるというので噂になっているぞ。祝宴の見世物にはちょうどいいさ」
「そんな事言わないでよ~」
ハウランド伯爵は緊張を解きほぐそうと、冗談交じりで話してくれる。友として気を使ってくれているんだろう。ありがたい事だね。
時間となり、案内役が国王の謁見の間に案内してくれる。先頭にリビティナ、その左右にネイトスとエルフィ、後ろには文官達が付き従う。
謁見の間の大扉が開かれると、正面には国王と王妃が一段高い場所に座る。その右側に王子や王女のロイヤルファミリー達が席を並べている。
国王の前までは、花道のように左右に王国貴族達が居並びこちらを注視している。その中央を打ち合わせ通りリビティナは黒い翼を広げたまま堂々と歩いて行く。
「あれが魔王か。確かに黒い翼と黄金の目を持っているな」
「まだ幼い少女のように見えるが……」
「魔王は不死身。見た目に騙されてはいかんぞ」
リビティナの事だけではなく、ネイトスやエルフィの事も噂しているようだね。
「なぜ、妖精族まで……魔国と国交があるのか」
「あの左右にいる者達は貴族でないようだな……付き人か」
「魔王の横にいるのだ、貴族ではあろうが建国したばかり、金が無いのだろう。我が国に金の工面でもしに来たのか」
ネイトス達もそれなりに豪華な服を着ているけど、王国貴族に比べたら貧相に見えるかも知れないね。左右の貴族が声をひそめ小声で話しているのを気にすることなく国王の前まで進んで行く。




