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第22話 キノノサト国の魔女1

「で、このワタシに北部の国境まで戻れって言うの! 折角ここが面白くなってきたところなのに」

「そうは言われましても、大将軍様の命令に御座れば」

「ワタシはね。巫女様にお仕えする宮廷魔導士なの。大将軍が言ったからって、ホイホイ動いてやんないんだからね」


 今回どうしても南部地方の戦いに行ってほしいって言われたから来てやったのに、北の辺境まで戻れなんて、どんだけ遠いと思ってんのよ。


「北部戦線におきまして魔王の復活が確認されまして、なにとぞその対処をして頂きたく……」

「魔王! 魔王ですって。あの伝説の魔王が復活したと言うの!」

「はっ、そのようで」

「何してるの、すぐ北に向かうわよ。用意なさい」


 魔王だなんて、そんな面白い奴と戦えるなんてめったにある事じゃないわ。大昔に五万人の兵を一日で皆殺しにしたとか言われてる奴よね。このワタシに掛かればイチコロなんだから、待ってなさいよ。


 荷物は他の者に運ばせて、ワタシだけが飛んで行けばいいわ。その途中、宮殿に戻ってヒアリス様にご挨拶しておかないと。


 ワタシが発明した魔道具を背中に背負って羽を広げる。これは妖精族の羽を研究して作った魔道具。作るのにすっごく苦労したんだから。これなら妖精族と同じように空が飛べる。しかも連続で昼の間ずっと飛び続けられる優れものよ。


 ここから北の端まで、馬車なら二十日は掛かるでしょうけど、ワタシなら四日もあれば着けるから余裕だわ。


 銀色に近いシルバーグレーの長い髪を三つ編みにし、バタつかないようにして北へと飛ぶ。二日をかけて巫女様の住む宮殿に到着した。


「ヒアリス様。只今戻りました」

「あら、ウィッチア。あなたは南部の戦いに行っていたのじゃなくて」

「はい、でも北に行けと大将軍の命令で、移動している最中です。その途中に立ち寄りました」

「まあ、そうなの。お仕事大変ね。あなたはまだ成人したばかり、将軍に言ってそんなに働かせないように言っておかなくては」


 ヒアリス様はお優しい。こんな年下のワタシの事をいつも気にかけてくれている。ヒアリス様も歳若くして巫女の座に就かれ忙しくしておられるのに。


「大丈夫ですよ。それにワタシは十六歳になりましたし、もう一人でどこへでも行けますから」


 ◇

 ◇


 ワタシは幼い頃からこの宮殿で、ヒアリス様と一緒に育った。両親の顔は知らない。物心ついた頃にはこの宮殿の奥にある部屋に一人で暮らしていた。

 大人ばかりが来る部屋に、五歳年上のヒアリス様が時々遊びに来てくれた。


「ねえ、あなたもここに閉じ込められたのね。この宮殿は広いけど、私達は外に出てはいけないの。だから一緒に遊びましょう」


 外がどんなところか知らないけど、ワタシはこの宮殿の中すら自由に出歩けない。今思えばワタシがいた場所は牢屋みたいな所だった。でもそれで良かった。誰もいないその場所がなぜか安心できたもの。


 そこへ来てくれるヒアリス様とだけは言葉を交わし、一緒の時間を過ごしワタシの知らないことを教えてくれる。


「ねえ、ヒアリス様はワタシみたいにネックリングやブレスレットは着けないの」


 宝石のような真っ赤な石が埋め込まれた黒い金属の輪っか。それを首と両腕に必ず身に着けるようにと、大人達は言ってくる。


「あなたは特別なのよ。力が強すぎるの、だから……」


 ワタシが特別……。ずっと身に着けていたから気にしてなかったけど、五歳の頃にヒアリス様に聞いたら、そんな答えが返って来た。

 確かにワタシは他の人と違う特別な存在なんだろうなとぼんやり思っていた。


 ワタシの元には毎日大人がやって来て、魔術やら文字を教えてくる。この部屋でする事も無いから、言われた通りの事をしてあげていた。

 時々来るヒアリス様に覚えた魔術や字を書いて見せると、すごく喜んでくれるからワタシも嬉しくて大人の言う事を進んで覚えるようになった。


 七歳になった頃には、ヒアリス様と宮殿の中を歩いて回る事が許された。


「ほら、ここのお庭、バラ園になっているのよ。花壇には色んなお花が植えられていてすごく綺麗でしょう」

「そうですね、ヒアリス様。これはインターフローラですね、真っ赤で色鮮やかです。こっちは品種改良されたオフィーリア。花がすごく大きくて綺麗ですよ」

「ウィッチアはほんと物知りね。天才だって言われるのも無理ないわ」


 天才? 図鑑に載っていた花の名前を覚えているだけなのに。でもヒアリス様に手を引かれてバラのアーチを潜ったり、甘い香りのする花を教えてくれる方がもっと素晴らしい事だわ。


 九歳の頃。ヒアリス様はお仕事が増えて、あまり遊びに来れなくなった。

 頑張っているヒアリス様に追いつこうと、ワタシも一生懸命勉強した。


「もう、君に教える事は無くなった」


 十一歳になった頃、ワタシの元に来ていた大人の人達がいなくなっていく。でも魔術を教えてくれる先生だけは残ってくれた。もう年老いて白髪のお爺さんだけど、魔術の事は誰よりもよく知っている人だ。


「ウィッチアよ。明日からこの宮殿の外に出て魔術の練習をするぞ。準備しておくんじゃぞ」

「えっ、外に出れるの」


 宮殿の外というより、この王都の外に行くそうだ。


「ヒアリス様。ワタシ、外に出て魔術の練習をするんですって」

「まあ、もうそんなに魔術が上手くなったのね。私もここで巫女の修業を頑張らないとね」


 ヒアリス様は白衣に真っ赤な緋袴(ひばかま)の巫女衣装。先輩巫女様に習ってここでの修行を重ねている。


「でもね、ウィッチア。外には恐ろしい魔獣もいるのよ、気を付けてね」

「魔獣は図鑑で見て知っています。弱点も覚えてるし、ワタシやっつけちゃいますよ」

「まあ、頼もしいわね。でも怪我だけはしないように帰って来てね」


 そう言って、ヒアリス様が笑顔で送り出してくれた。


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