第9話 ルルーチアの眷属化2
「獣人や鬼人、妖精族などは二種類の遺伝子を持っていてね。人の形を保つ内殻遺伝子。その周りにある種族の特性を持つ外殻遺伝子。眷属化というのは、その外殻遺伝子を壊して人の遺伝子を残す事なんだよ」
この世界の人々はみんな二重螺旋の二層構造の遺伝子を持つ。内殻遺伝子は共通で、二足歩行や大きな頭脳などの人間的な遺伝子。
その外側にある外殻遺伝子が種族によって異なる。種族固有の遺伝情報を持つと同時に、魔素により内殻遺伝子が傷つくのを防いでいる。外殻遺伝子は体内にある魔結晶や魔力回路を構築し、魔法が使えるようになる。
「だから人間の体になると、魔法も使えずひ弱になってしまうのさ」
「じゃあ、あたしの体の中にも人間と同じ物があると言う事なの」
「そうだね。それを覆う妖精族としての体があると思ってもらうと分かりやすいかな」
そんな話をしている内に、ルルーチアの体が変化したようだ。
「ルルーチアの体から毛皮が剥がれ落ちていきます」
「フィフィロ君。その毛皮を払って体を毛布で包んであげてくれるかい」
はいと返事をして、ベッドに広がる剥がれた毛皮を床に落としていくと、白い体が現れる。
「お、お兄ちゃん……」
「もう大丈夫だよ、ルルーチア。ちゃんと人間の体になっているからね」
「うん、うん……。ありがとう、お兄ちゃん」
「よく頑張ったね。今晩はここに泊まっていくといいよ」
「はい……はい……。ありがとうございます、リビティナ様。やっとお兄ちゃんと同じ体になれました」
よほど嬉しかったのか、無事眷属化したルルーチアは涙を流してフィフィロに抱きついている。兄と同じ姿になる事をずっと願っていたからね。
苦しみの末に人間として生まれ変わった姿を見、良かったねと言いながらエルフィも涙ぐむ。
もっと早くに眷属にしてあげても良かったのかも知れないね。
◇
◇
リビティナ様のお屋敷でお風呂に入って、今は夕食をごちそうになっている。念のため、今晩はここの診療所で寝るようにと言われた。
「お兄ちゃんも一緒にいてくれるんだね」
「勿論さ。隣のベッドで寝ているから、具合が悪くなったら言うんだぞ」
やっぱりお兄ちゃんは優しいや。ベッドの中で眷属になった自分の体を触ってみたけど、ちゃんとツルツルの体になっている。焦げ茶色をした髪は肩の後ろ辺りまで伸びていて、獣人の時の鬣と同じだわ。
いつも見ているお兄ちゃんと同じだけど、自分の体なのに自分じゃないような変な感覚がある。
でもこれで里の人達と仲間になれて、これからもずっとここに居ていいと思うと嬉しくて仕方ないや。
翌朝もお屋敷で朝食をごちそうになった。ネイトスさんの作る料理はすごく美味しい。今度レシピを教えてもらおう。
隣りでエルフィさんが体は大丈夫かとか、疲れていないかと心配顔で聞いてきて、大丈夫ですと元気に答える。
私達と一緒に里に来たエルフィさん、国に帰らずずっとここに居るのね。二階に自分の部屋をもらって住んでいるって言ってたけど、エルフィさんは眷属にならないのかな。眷属になったらすごく綺麗な顔になると思うんだけど。
今日は医療用のガウンを脱ぎ、リビティナ様からもらった人間用の服を着ている。昨日お風呂上がりに下着をもらって付け方を教わった。
今はまだ胸が小さいから大人用の下着じゃなくて、綿でできたハーフトップのブラを付けるそうだ。毛皮が無くなったからこんな物を付けるんだけど少し窮屈だわ。
生まれ故郷と同じように、この里でも子供の獣人は服を着ず外で遊び、小さな子供は四つ足で駆けまわっている。
人間になったんだから、これからはこの服を着て二本足で歩くようにと言われた。さすがにもう四つ足で歩くことは無いけど、下着をつけて服を着るのは少し面倒くさいかな。朝お兄ちゃんに服を着た格好を見せると、大人びてカッコよくなったねと褒められちゃった。
頭を撫でてもらい、嬉しくなってありがとうと抱きつく。いつもフリフリしてたしっぽが無くなっていて、それは少し寂しいかな。
朝食後、家に帰って来たお兄ちゃんは魔術の練習をすると、エルフィさんと里の外に出かけて行った。眷属になって疲れている訳でもないから、私もいつものように学校に行こう。
「無事眷属になれたのね。良かったわ」
先生が両手を広げて、優しく抱きしめてくれる。
「いいな、ルルーチア。僕も早く眷属になりたいよ」
「そうね。みんなも一人で生活できるように勉強をしっかりしましょうね」
「は~い」
お昼休みの時には、同い年の女の子から「その服、可愛いわね。私も早く着てみたい」と言われた。そうよね、こうして服を着ていると大人びて見えるもの。
夕方、お兄ちゃんが魔術の練習のついでに狩った大きな猪を、家に持って帰ってきてくれた。
「ルルーチア。今晩は新鮮なお肉でしゃぶしゃぶにしよう。眷属になったお祝いだ」
「お兄ちゃん、ありがとう。早速お鍋を用意するわね」
野菜や里で栽培されたキノコも使って、豪華な食事にしましょう。お兄ちゃんが解体したお肉のいい所を切り出して薄切りにする。
「おいしいね。お兄ちゃん」
「体は大丈夫かい、ルルーチア。しっかりと食べてくれよ」
昨日、リビティナ様の屋敷でゆっくり眠ったからそれほど疲れてはいない。でもやっぱり自分の家にいると心が休まるわね。その後はお風呂に入ってのんびりとする。
夜、服を脱いでベッドに横になると、いつものようにお兄ちゃんも服を脱いでベッドで一緒に寝て顔を舐めてくれる。
「いつもと違って、何だかくすぐったいよ」
「顔に毛が無いから舐めやすいよ。あっ、でももう毛づくろいはしなくてもいいのかな」
「今までと同じように舐めてほしいな。いいでしょう、お兄ちゃん」
そう言って、私もお兄ちゃんの顔を舐める。そうだねと言っておでこを舐めて、お兄ちゃんと同じ焦げ茶色の髪を撫でてくれた。
「眷属になったからかな。お兄ちゃんの体、温かいね」
「そうだね。直接肌が触れ合っているからかな。それに、ルルーチアの胸、こんなに膨らんでいたんだ」
「毛皮が無くなったから、目立つようになっただけだよ」
前から膨らんでいたけど、気が付かなかったんだね。お兄ちゃんが胸の柔らかさを手で確かめる。くすぐったくて身をよじってしまう。
「そうだ。しっぽも無くなっちゃったから、いつもみたいにお兄ちゃんの腰に回せなくなっちゃった。ごめんね」
「別にいいさ。もう暖かくなってきたしね。オレもしっぽが無くなった時は変な感じだったけど、ルルーチアは大丈夫?」
「ムズムズする感じはあるけど、大丈夫だよ」
前はしっぽがフルフルしてたけど、今はその辺りがムズムズとした変な感じだ。お兄ちゃんはしっぽの付け根があった腰の部分を優しく撫でてくれた。やっぱりこうやってお兄ちゃんと一緒にいるのは気持ちいいや。
お兄ちゃんと暖かな布団に包まれて、今日も一日いい日だったと眠りにつく。




