第5話 眷属の里5
広場に集まった人達が解散して仕事場へと向かい、リビティナはフィフィロ達に里の案内をしようと前を歩いて行く。
エルフィがさっきの緊迫した雰囲気を和らげようと、ルルーチアに話しかける。
「ねえ、ルルーチア。昨日家でお風呂に入った?」
「いえ、まだなんですよ。家の中の掃除とかで忙しかったから、水で顔を洗ったぐらいで」
「じゃあ、電灯は点けてみた?」
「あっ、あれ。光るガラス玉ですよね。びっくりしました」
そうだろうね。エルフィでさえ電球にはすごく驚いていたからね。
「それじゃ、今からその電球を作っている工場に行ってみようか。他の町には無い所だから面白いと思うよ」
三人を連れて、昨日行けなかった西地区にある工場地帯へと向かう。
「ここが電球を作っている工場だよ」
電球以外にもモーターや電線など色んな素材や機械をここで作っている。
「ちょっと見ていてくれるかい。この床に鉄の糸を置く。その両端にこの銅の棒を押し当てると……」
「うわっ! 火が出た! 一瞬で鉄の糸が燃えたわよ。でも魔法じゃないわよね」
「これが電気の力さ」
「デンキ? デンキって何よ。この銅の棒に仕掛けがあるの?」
「触らない方がいいよ。ビリビリしちゃうからね」
エルフィは棒に触ろうとした手を、勢いよく引っ込めた。
「フィフィロ君は雷魔法を使えるかい」
「いえ。お師匠様が使っているのを見たことはありますけど」
「あたしは使えるわよ。氷と風を組み合わせた上級魔術よね」
「その雷の元が電気なんだ。それがここに流れてくるんだよ」
「そんな事できる訳ないじゃない。雷って言ったらドッカン、ゴロゴロっていう強力な魔術なのよ」
まあ、雷をそのまま使うんじゃないんだけどね。
川の上流に小さなダムを作って水力発電をしている。発電機とモーターは全く同じもので、鉄と銅それに磁石があれば、この世界の技術で作る事ができる。材料の鉄と銅もこの世界には豊富にあるしね。
変圧器も鉄に絶縁した銅線を巻きつければ簡単にできるし、発電所からこの里まで電気を送電している。
「この電気が各家に配られていてね、さっきみたいに金属の糸に電気を流せば燃えて光るのさ」
「でもさっきは燃え尽きちゃったわよ」
「真空にしたガラス玉の中に入れて、電気を流すと燃え尽きずに光り続けるんだよ」
実際に電球に電気を通して、中のフィラメントが燃えて赤くなっているのを近くで見てもらうと、フィフィロもなるほどと唸っている。
「なんでこんな小さな里に……妖精族でも知らない事が……」
何だかエルフィがブツブツ言ってるけど、まだ驚くのは早いよ。
「実は、この電球の中のフィラメントは、鉄じゃなくてダマスカス鋼を使っているんだよ」
「なっ! ダマスカス鋼って言ったらミスリルに並ぶ伝説級の鋼材じゃない!」
「そうだよ。それをこの工場で人工的に作っていてね」
それを聞いたエルフィは、驚愕のあまり目を真ん丸にして口をパクパクさせているよ。まあ、外の世界じゃなかなか見つからない材料らしいからね。
「オレも本で読んだことがあります。ダマスカス鋼を使うと究極の盾ができるって」
「リビティナさん、そんなすごいのがここにあるんですか」
フィフィロとルルーチアも興味があるみたいだね。
「ほら、これがダマスカス鋼だよ」
近くにあった手に持てる程度の黒く輝く金属の延べ板、それをフィフィロに渡す。
その表面は鏡のように滑らかで、黒い地にうっすらと波紋の模様が浮かびあがる錆びる事もない金属。その金属板を手に取りフィフィロがしげしげと眺める。
「すごく綺麗ですね。それに何だか重いですし、確かにこれは普通の鉄じゃないですね」
「ピカピカで私の顔も映っちゃってるわよ、お兄ちゃん。すごい、すごい」
「ちょっとそのダマスカス鋼、あたしにも見せなさいよ」
「ほら、こっちに同じのがあるから、エルフィはこれを見てくれるかい」
そう言って、エルフィにも別の延べ板を手渡す。するとエルフィは試したいからと工場の外に出て行った。その金属の板を地面に置いて指先から出した魔法の炎をぶつけている。
「確かに炎を跳ね返しているわね。それにちっとも熱くならないわ」
ダマスカス鋼は炎に強く、全魔法属性への耐性がある。これで作った盾はドラゴンのブレスをも跳ね返すと言われているそうだ。
「本当にこの里でこれを作っているの」
「電球を作るときに真空を作り出すんだけど、そこに純度の高い鉄と魔石をくっ付けて入れると、この金属が出来上がるんだよ」
偶然見つかった技術なんだけどね、鉄の中に魔素が入り込んで固定されるようだね。本当はフィラメント用のタングステンを作るつもりだったんだけど、その過程で発見された技術だ。
とはいえスリーナイン、99.9%以上の高純度の鉄が必要で真空を作り出す技術もいるからね。この里以外で作るのは無理だろうけど。
「リビティナ。これを売るだけで大金持ちになれるわよ」
「外に出すつもりは無いよ。この里でみんなの役に立てればいいからね」
電気設備だったり、こんな金属を世の中に出すと混乱を招くだけだからね。門外不出にしないと。エルフィにもその事を話すと、理解してくれたようだ。
「この工場では、スプーンやフォークのような生活用品も作っているんだよ」
こういう細かな製品は、作る効率を考えて大量に作ってストックしてある。ピカピカに光った食器が入った箱を見てもらう。
「なんでこんなに沢山の銀食器があるのよ。あんた銀鉱山でも見つけたの!」
「銀じゃないよ。普通の鉄に亜鉛メッキしてるだけだよ」
「はぁ~! あなたは錬金術師なの! 鉄を銀に変えるなんて」
いや、だからね。表面だけ亜鉛の鉄製品だって。
「昨日、オレもネイトスさんから銀食器をもらいましたけど、これってすごく高価な物なんでしょう」
「そりゃそうよ。貴族ぐらいしか使ってないわよ。リビティナは王様だから家にあっても不思議じゃないとは思ってたけど……」
「ボクは王様じゃないし、そんな高価な物じゃないから~。ほらこのナイフなんて小刀の半分以下の値段で造れるんだよ。普通に使ってくれていいからね」
そう言うと、エルフィから「そんな値段のはずないじゃない」と酷く怒られてしまったよ。
「一体ここは何なの。ダマスカス鋼は普通にあるし、光り輝くガラス玉に錬金術を使った銀製品なんて……妖精族の知識の遥か上じゃない。そんなの許せないわ」
いや、許せないと言われてもね~。そう言えば妖精族の神は知恵の神だと言っていたね。
「私達一族の神、マチーダ様は知こそ尊いものだとおっしゃっているわ。私達はこの世界の全ての事を知るために生きているのよ」
だから、この大陸では一番の知恵者だと言われているんだよね。
ごめんね~、前世の知識でズルしてるんだよ~。




