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第128話 疫病-ガゼノラ帝国

「魔王よ。事前連絡もなく来訪するとは無礼にもほどがあるぞ」

「貴様が皇帝か。そなたの国の窮状を考えれば、仕方のない事であろう」


 壇上には皇帝が座り、周りには帝国貴族だろう者達が居並ぶ。当然、歓迎などされる訳もなく、リビティナの周囲を警戒心に満ちた兵が武器を構え取り囲む。イコルティはリビティナの後ろで足を震わせ隠れるように縋りついてくる。


「我はこの国を救いに来たのだぞ」


 その言葉に皇帝周辺にいる帝国貴族が反発する。


「何を言う。今回の事態、貴様ら魔族の仕業ではないのか」

「他国に疫病を流行らせるとは、何という卑劣な奴だ。このまま無事帰れるとは思わぬことだな」


 まあ、そういう反応をするだろうね。


「疫病の原因はこの大陸の南端、この国の遥か南の地よりもたらされている」

「そ、そんな世迷い言を……。第一この国の南は砂漠があるのみ。人など居らぬぞ」

「そこに居るのは空の神だ。その神が今回の事を引き起こしている」

「か、神だと。イグアラシ様が我らを滅ぼそうとしているのか。それこそ世迷い言ではないか!」


 今は代替わりした女神で、空で会って話をしたと説明したけど、やはり信じられないようだね。


「信じる信じぬは貴様らの勝手だが、疫病はいずれ北に広がり大陸中を覆うであろう。逃げ場はなくなるぞ」

「そ、それを防ぐ方法があるというのか」

「防ぐ方法のひとつが、このガスマスクだ」


 持ってきたのは兵士用のガスマスク。口と鼻全体をゴムで覆い左右に円形のフィルターを付けたサンプル品で、屋外で活動しても大丈夫な物になっている。


「これで疫病の元を吸い込まずに済む。貴様ら貴族や兵士用に作った物だ」


 差し出した物を代わるがわる見ていく帝国貴族。皇帝も手に取り確かめる。


「なにやら複雑な物のようだが、数をそろえられるのか」

「それはこの国の技術次第。国民用には簡易なマスクもある。簡単な作りゆえ、この国でも作る事ができよう」


 絹織物で作った布マスク。屋外で激しい運動をしなければ、疫病を防ぐ効果は充分にある。


「こ、このような布一つで防ぐことができるだと……」

「これが製法と注意事項を書いた物だ」


 この国に絹織物は無いだろうけど、大量に必要となる物だ。材料を調達し自国生産できるに越したことはない。

 その注意書きと一緒にゲルトランドから渡されていた、書簡も近くの兵士に渡す。


「材料となる反物は魔国より順次輸出しよう。それと、この城にも人間化で苦しんでいる者がいるのではないか。ここに居るイコルティによる治療を行なうぞ」


 身内の者に人間化した者がいるのだろう。敵意を向けていた貴族の中にはリビティナの言葉に動揺する者もいる。手遅れになる前に人族化すれば、死ぬ確率も下がる。


「その他にも直接疫病を防ぐ方法も教えよう。屋上に上がれるか」


 先ほど渡したマスクをつけた貴族が、リビティナと一緒に屋上に上がる。


「よく見ておけ」


 そう言って空に向かって薄い炎の膜を発生させた。するとチラチラと赤い斑点のように光る点が現れる。


「あれは疫病の元が燃えた跡だ」

「す、すぐに魔術師を呼べ!」


 付いてきた貴族が慌てて兵士に指示を出す。呼ばれた魔術師が数名屋上に上がって来た。


「魔王殿、もう一度今の技をお見せ下さい」


 魔力消費を抑えつつ、薄い炎の膜を外に向かって広げると説明して、さっきと違う方向に薄い炎の魔術を発動させる。それを見た魔術師が同じように魔術を使う。まだムラはあるようだけど、炎の膜を広げられているようだ。


「範囲は限られるが、これで結界のような物が構築できる」


 魔術師達は試しながら、あらゆる方向に幕を発生させ、赤い斑点が無くなるように城を覆う。


 その後、皇帝がいる部屋に戻ろうとすると、医務官らしき者に呼び止められた。この城で人間化した者達を別の部屋に集めたので、治療してほしいとその者から依頼された。

 そこには十人の人間の姿となったリザードマンがベッドに座っていた。服装から察するにやはり貴族の関係者のようだな。精神的なものもあるのか、皆憔悴しきっている。


 イコルティが血を分け与え、ベッドに寝かせる。

 既に人族化している者が三人いる。その者達はリビティナが光魔法による治療を行なった。


「数時間くらいで元気な体になるからね。そこのお医者さん、冷たい水を用意しておいてくれるかな」


 イコルティがベッドに寝ている人に付き添い励ます。


 一度人族となれば、再度この疫病に感染することはない。本当なら皇帝や貴族などの重鎮は予め人族化するのがいいんだけど、それはできない相談だろうね。


 人族化が終わり、幾分元気になったようだ。再び魔法が使えるようになったのが嬉しいようで、精神的にも落ち着き笑顔が見える。

 後は火の通った食べ物を食べ、栄養を摂るようにと言って部屋を出る。


 皇帝がいる部屋に戻ると、側近から今までのリビティナの行動についての報告を受けたのか、やっと皇帝自らが話し合う気になったようだ。


「魔王よ。全てを信用した訳ではないが、そなたの話を聞こう。吾はバトリアヌス。そちの名は何という」


 自分に名はない、魔王と呼ぶようにと前置きして、今後の事を話す。


「我が魔国は、全勢力を持って元凶となっている神を討つ」


 それを聞いた貴族達が騒然とする。


「魔王よ。神に戦いを挑んで勝つことはできるのか」

「それは分からぬよ。ただ大陸の種族同士が争っている場合でない事は確かだ」


 リビティナの力を以ってしても、軌道ステーションにいるあの女を倒す方法は分からない。その事を素直に皇帝に伝え、帝国が出来得ることを考えてもらうしかない。

 リビティナの強い決意に心動かされたか、皇帝は魔国との対決姿勢を変えてくれたみたいだ。


「協力すれば、神を倒せるかもしれぬと言う事だな」

「直接の協力でなくとも、自国の民を落ち着かせることで、他国が動きやすくなる。魔国も神との戦いに集中できる」

「我が帝国も魔国や他国との協調を考えよう。魔国の支援を期待しても良いのだな」


 マスクの材料となる絹織物の事のようだね。難民の事もある、協力できる事はすると約束し会談を終えた。


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