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第120話 新たなヴァンパイア

「おや? 洞窟の奥で何やら音が聞こえるね」

「私には聞こえませんが、女神様が造ってくれたヴァンパイアでしょうか」

「多分ね」


 部屋の扉を開けて待っていると、奥から人の気配が近づいてくる。


「あのう~。リビティナ姉様(ねえさま)でしょうか?」


 そう言って目の前に現れたのは、リビティナよりも背の低い男の子。歳で言うと十二歳ぐらいだろうか、女の子のような顔立ちで、まだ声変わりもしていない。

 肩まである白金のようなプラチナブロンドを揺らし、黒い翼をパタパタさせながら近づいてきた。黒のボディスーツを着ているし、神様が造ったヴァンパイアに間違いないね。


「君が新しいヴァンパイア君だね」

「はい。僕はイコルティ・ガウリア・メーデス・ヘイラ・アテーナ・ヘルメス・リアアルタイル一世です」

「イコルティ君だね」

「いいえ。イコルティ・ガウリア……」

「そんな長い名前はいいから。君はイコルティ。いいね」

「えぇ~、このミドルネームは由緒正しき歴代の神様の名前をつけてもらって……」

「このボクの言う事が聞けないのかい!」

「いえ! 女神様からリビティナ姉様の言う事を聞くようにと言われていますので! イコルティで結構です。はい」


 このお姉さん怒らせると怖いんだろうな~、なんて思ってるんだろうね。直立不動になって返事をしていたよ。

 それにしても幼いヴァンパイアを造ったもんだ。これもあの空に居る神様の趣味なんだろうけど……。

 クローゼットにしまっていたローブを着てもらい、椅子に座らせる。


「リビティナ様。この方が噛みつくと眷属に外殻遺伝子が移植されるという事ですよね。まず私で実験してくれませんか」

「そうだね。でも何が起きるか分からないから、医療施設の整った里で実験しよう。イコルティ、空は飛べるかい」

「はい、階段で練習しましたから」


 よく見ると、頭にたんこぶができていたり、肘を擦りむいているね。まあ、すぐ治るさとみんなで洞窟の外に出る。


「さあ、飛ぶよ」


 アルディアをベルトで吊り下げて、イコルティの手を引きながら眷属の里へと向かう。イコルティは初めて目にするこの世界の大森林やそそり立つ山脈を見て、金色の瞳をキラキラさせているよ。


「すごいです、姉様。これが惑星ノウアルズの世界なんですね」


 前世の個人的な記憶は無くとも、コンクリートで固められた都市の記憶は持っているようで、手付かずの大自然を驚きの表情で眺める。


「ねえ、ねえ。あの森に魔獣が居るって本当ですか? この空まで攻撃してこないですよね」

「大丈夫だよ。そういえば、イコルティはまだ魔法が使えないんだよね」

「はい。それも姉様に教わるようにと言われています」


 魔法の事も教えられていて、それを違和感なく受け入れているみたいだ。なんでも受け入れやすくするために少し幼いヴァンパイアにしたのかもしれないね。まあ、これからは自分の弟として色々と教えながらやっていこう。


 まだ速く飛べないイコルティと二時間ほどかけて、眷属の里の上空までやって来た。


「あれがボクの眷属達が住んでいる里だよ」

「あんな広い場所を姉様が開拓したんですか。すごいですね」


 里の周辺をゆっくり旋回しながら地上に降り立つ。里の案内は明日でもいいかなと我が家へ戻り、居間にいたネイトスにイコルティを引き合わせる。


「リビティナ様、早いお帰りですね。ところでその子供はどなたですか」 

「ボクの弟のイコルティなんだ」

「えっ! 弟さん? 同じヴァンパイアなのですか? そういやどことなく似ていますな」

「え~、なになに。この子、リビティナの弟なの! カワイイわね~」


 二階から降りて来たエルフィもイコルティを見て、興味津々といったところだね。


「今日はもう遅いし明日、里のみんなに紹介するよ。イコルティも今晩はここでゆっくりしてよ」

「はい、姉様」


 イコルティの部屋を用意して、食事をした後はエルフィと一緒にお風呂に入ってもらった。


 ネイトスには、空での出来事について掻い摘んで話すけど、軌道ステーションとか言っても理解できないだろうから、かみ砕いて説明する。


「空の神様でも代替わりするんですね」

「その新しい神様にお願いして、イコルティを造ってもらったんだ。実はあの子、眷属を人族に変える力を持っているんだよ」

「人族に! 俺を含め、里の者全員が魔素に耐性を持つ人間になれるという事ですか」

「明日、アルディアで実験を行なうよ」


 里のみんなに紹介した後、エマルク医師を呼んでこの家で実験を行う予定だと説明する。


「そういやエマルクさん、腰を痛めて寝込んでましたね。代わりにジェーンに来てもらいましょう」


 エマルク医師ももう歳だからね。


「同じ女性だし、その方がいいね」



 翌朝。里のみんなに集まってもらい、イコルティを紹介する。


「イコルティです。ぼ、僕も姉様のような立派なヴァンパイアになれるように頑張りますので、皆さんよろしくお願いいたします」


 大勢の前で緊張しながらも挨拶ができたようだ。続いてネイトスが人族化について説明した。

 皆からは驚きや期待の声が上がる。


「だが初めての事だ、成功するかは分からない」

「それならワシのような老人を実験に使った方がいいんじゃないか」

「これは、アルディア本人の強い希望でな。メルデス爺さんには、この後の老人代表として実験に参加してもらうよ」


 実験だから最悪の事も考えられるけど、この世界で人族を増やしたいと願うアルディアが実験を譲る気はないだろうね。

 さて、これから家に戻って実験を始めよう。


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