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第102話 友好条約1

「アルディアさん、災難でしたわね」

「いえ、私が不注意でした。皆さんにはご迷惑をおかけしました」


 頭を下げて謝るアルディアに、リビティナも謝る。忙しかったとはいえ、エルフィと二人だけで街中に出したのが悪かったと。


 帝国との戦争で使われた大量の飛行ユニットは、ヘブンズ教国から輸出された物であることは、元帝国宰相の話から分かっていた。でも今回アルディアの話から、その製造方法の一端が分かった。


「お父様は、ミシュロム共和国に羽を取りに行っていると言っていました。そのために大量の資金を使ったと」

「あの飛行ユニットは妖精族の羽をそのまま使っていたのかよ。エルフィ、共和国に行けば簡単に羽が手に入るのか」

「そんなはずないじゃん。妖精族を殺すか、お墓の中の遺体から取っていたんだわ。なんてひどい事をするのよ」


 前にエルフィは、妖精族の羽は手足と同じ物だと言っていた。落ちていたり売り買いされる物ではない。

 今回大量の羽が使われている。殺した人もいたかもしれないけど、たぶん墓荒らしをしたんだろうね。エルフィも戦争前に共和国で墓荒らしが頻発していると聞いた事があるそうだ。


 ウィッチアが作っていた工業製品であるオリジナルの飛行ユニットを模造する事ができなくて、生体をそのまま使っていたんだね。


「あたし、ここの首相に文句を言ってきてやるわ」

「おい、おい。セイマール首相に文句を言っても解決はせんぞ」


 ネイトスの言う通りだね。既に教国には帝国に送り込まれた兵士や武器について調査するように依頼を出している。


「教国からの回答によれば、東方の一部の教団が関係しているようですわね」


 今回捕らえたコルジアという男もその一派だったようだ。教団が絡んでいるなら、これに関しては後日会う教皇との話になるか……。

 ヘブンズ教国の国としての統治者は首相でいいんだろうけど、獣人三国の宗教を束ねるのは教皇だからね。


「じゃあ、その教皇に文句を言ってやるわ」

「教皇が直接関わっている訳じゃないよ」


 教国からの派遣部隊を直接見たウィッチアからの情報だと、それほど大きな組織じゃないようだ。何百万人もの信者を持つ教会組織のトップが関与しているようには思えない。


「今度、教皇とも会うからね。その時にボクから言っておくよ」

「セイマール首相の方には、わたくしから伝えておきますから、エルフィさんが出向かなくてもいいですよ」


 エリーシアからも説得されて、エルフィは何とか納得してくれたようだね。


「それにしても宗教が絡むと厄介ですわね。我が魔国にもヘブンズ教を信じる国民はいますわ。それをどのように扱うかも問題ですわ」

「まあ、信じる神は自由でいいんだけどね。人を傷つけたり、法律を犯すならその者達を処罰するよ。原因が宗教であっても同様にね」


 宗教の指導者……牧師であれ司祭であれ、その者の言う事を聞いて妄信的に罪を犯すなら、それは盗賊団と同じだからね。その首謀者と実行犯を捕らえて罰する。もし教皇が魔族を嫌い、信者をそそのかして眷属や魔国の国民に危害を加えるというなら、国交を断絶するか徹底的に戦うまでだよ。


 そう意気込んで首相の官邸に乗り込んだんだけど、セイマール首相は温厚な人で、妖精族の羽の事を聞くとすぐに調査を行うと約束してくれた。


「もし本当なら、ミシュロム共和国の女王様に謝罪しなければなりません。我が国は国交がありませんので、その際には魔国に仲介をお願いしたいのですが」

「そんなの、お安い御用さ。魔王とヴェルデ女王は仲がいいからね」


 ここには仮面を付けて賢者として来ている。そのリビティナの言葉にセイマール首相は安心したようだ。


「誘拐の件についても、加担したマキャレイ家の者を取り調べ、厳正に処罰いたします。実行犯の男達も既に捕らえていますのでご安心ください」


 ヘブンズ教国は、滅んだノルキア帝国よりも歴史は古く、国としての機構はしっかりしているようだね。王国との貿易で栄えているからか、官邸や他の政府施設も整っている。


 アルディアが誘拐されたと連絡した時も、衛兵がすぐに動いてくれてマキャレイ家の名を出すと、すぐに屋敷の位置を教えてくれた。


「官僚組織もしっかりしているようで、条約の文言調整もスムーズですわ」


 エリーシアも感心している。ここは国の組織を動かす専門の機関という感じだね。国の内外から人が集まるせいか、効率よく物事を進める事に特化しているようだね。


「当日はこちらで調印式を執り行ない、その後サンクチュアリ大聖堂におきまして教皇様と謁見していただきます。移動の際の馬車はこちらで用意しており……」


 調印式の段取りが次々に決まっていく。懸念していた貿易も、妖精族と同じ方式で構わないと言われた。


「ですが、国境を行き来する巡礼者については優遇をお願いしたい」

「しかし帝国との戦争の折、巡礼者と称する兵士が送り込まれた。まったくの無条件とはいかないかな」


 慣習として、聖地に巡礼する者はお面を被り国境は簡単な審査で通過させる。戦争ではそれが利用された。


「今回、国境の職員がワイロを受け取り、大量の巡礼者を通過させたようです。その者は既に処分されており、今後同じことは起こらないでしょう」


 一度に二、三百人を何度も通過させたようだね。国境検問所は魔国側と教国側にあり、双方で監視すれば不正は起こらないだろうと。もし次に戦力を迂回させようとすれば、今度はリザードマンの国を通る事になる。政府外の組織でも、あのリザードマンと共闘する事はないと首相は断言した。


「それにしても賢者様の仮面は古い時代の物のようですな。そのような仮面を拝ませてもらえただけでも、幸福な気持ちにさせられます」


 この仮面はそんなに古い物だったんだね。仮面には今まで色々とお世話になっているし、歴史的な事柄なら巡礼者の優遇ぐらいはいいかもしれないね。


 それはともかく、ここでの打ち合わせも無事終わり二日後には予定通り調印式が行えそうだ。


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