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第99話 教国との調印2

「わたくし飛行機は初めてですけど、上昇する時や前に進む時、背筋が凍るような妙な感覚ですわね」

「そうだよな。ジェット機はリビティナ様と一緒に飛ぶ時の感覚とは少し違うからな」

「まあ、最初は皆さんそんな感じですよね。リビティナ様の三倍以上の速度で飛んでますからね」

「ねえ、これってすごく重そうだけど落ちる事はないわよね」

「大丈夫ですよ、エルフィさん。エンジンが全部壊れても惰性で飛べますし、反重力装置が半分壊れても落ちないような安全設計をしてますから」

「それになあ、一人ずつ反重力装置の背負子を座席の下に用意しておる。もしもの時にはこの機体を捨てて空を飛んでくれ。まあ、妖精族のあんたには必要ないだろうがな」


 ガハハと笑いながら、工場長がエルフィの肩を叩く。里の職人さんが自信を持って作ってくれた機体だ。安全の配慮も怠っていないみたいだね。

 こんな空高くで魔獣に襲われる事も無い……いや、ドラゴンに遭遇したらどうしよう。まさかねと思いつつ窓から外の様子を覗ってしまったよ。


「アルディアさん、空飛ぶの初めてじゃなかったんですか。なんだか楽しそうですね」

「えっ、私? あ~、眷属の里に来た時シームに引っ張られて空飛んで来たから……慣れたのかな」


 アルディアが転生者だという事は、みんなに黙っている。言っても理解できないだろうし、里のみんなに特別視されるのをアルディア自身が嫌っているからね。


「さて国境に着くまで時間もあるし、食事でもしようか」

「お~、いいですな。酒もあるんでしょう」

「ネイトス。あまり飲みすぎちゃダメだからね」

「へ~い」


 機体の最後部にはテーブルがあり、両脇に三人掛けのソファーが設置されている。用意してもらっていた機内食とお酒をテーブルに並べる。自家用ジェット機の中でこんなことができるなんてセレブになった気分だよ。


「フィフィロ君も、後ろで食事をしてきたら。私と工場長で操縦を見てるからさ」

「ありがとうございます、ティーアさん」


 このジェット機は主翼の揚力じゃなくて、反重力装置で浮かび上がっているから、エンジンに魔力を注がず切っていても飛び続ける事ができる。

 その間、魔法が使えない眷属でも操縦はできるし、今は自動操縦モードで指定した方角に飛んでくれる。その誤差や空気抵抗でどれだけ速度が落ちるかをティーア達はデータを集めるようだね。


「ところで、教国に渡す贈り物だけど、マダガスカルの球だけで良かったのかい」

「ええ、教国のセイマール首相からの注文なんです。何でも教皇様の装飾品を新しくしたいとかで」


 直径六センチほどの球体や小さめの半球など、十二個のマダガスカルの宝玉を作っている。魔法を弾くマダガスカル鋼は、魔除けの宝玉としては最高級品だそうだ。魔族から魔除けをもらうという奇妙な事になるけど、相手さんが喜んでるならいいかな。

 こちらで用意するのは宝玉だけで、装飾品としての仕上げはヘブンズ教国でするらしい。


「アルディア、教皇って首都のハイメルドには住んでいないんだろう」

「はい、すぐ隣にあるサンクチュアリ大聖堂が建っている聖地アグレシアに住んでいます」

「その聖地の方が、首都よりも大きいって聞いたな」

「住民自体は少ないんですけど。巡教者の方が大勢来られますからね。いつも数万人ほどの人がいますね」


 獣人三国の宗教のメッカ。各国から入れ替わり巡教者が訪れているようだね。年に一回ある大巡礼の時期にはその何倍もの人で溢れかえるそうだ。


「リビティナ様の仮面も巡教者用の仮面ですよね」

「そうらしいね。ボク自身は聖地に行ったことがないんだけどね」

「リビティナの仮面って、相当古いわよね。向こうに行ったら新しいのを買えば」

「そんな事言っちゃダメですよ、エルフィさん。仮面は古ければ古いほど良い物だとされているんですから」


 アルディアによると、何度も聖地を訪れて使い込まれた仮面はそれだけでも価値あるらしい。

 リビティナは八十年以上も使っているし、最初から洞窟にあった物だから古い物であるのは間違いないね。特殊加工がされているせいか、古い割に朽ちる事も色あせる事もない。長年連れ添った相棒みたいなものだよ。


「リビティナ様。リザードマンのガゼノラ帝国との友好条約は諦めたんですか」

「そーだね。エリーシアの話を聞くと、無理そうだからね」

「そうですわね。元帝国領の南部は自分達の土地だと言って譲りませんでしたからね。仕方ありませんわ」


 ガゼノラ帝国は神話の時代に決めた土地を返せと、いつも紛争を起こしているそうだ。フィフィロとルルーチアの生まれ故郷の村も、そんな紛争に巻き込まれたと言っている。


 そのくせどこまでが君達の土地なんだと聞くと、その度に違う答えが返って来る。そんな訳の分からない連中と付き合うつもりはないよ。

 もし国境を越えて魔国に侵入すれば、神ではなく魔王がガゼノラ帝国を滅ぼすと、今は脅しをかけている。いずれは、国境線に城壁でも築いて入ってこれないようにするつもりだ。


「ですからね~、リビティナ様。人族でこの世界を統一すればいいんですよ」


 お酒が入っているせいか、アルディアは相変わらず無茶な事を言うね~。そんな事しなくてもキノノサト国みたいに不可侵条約を結んだり、国交を断絶すれば丸く収まると思うよ。もう戦争は懲り懲りだからね。

 のんびりと暮らしたいよ。


 そうこうしている間に、国境に近づいたようだ。国境近くの軍事基地に降り立ち馬車に乗り換える。

 工場長とティーアには、ここでジェット機の整備をしてもらった後、一旦フィフィロと共に里に帰ってもらう。


「また帰るときに迎えに来てくれるかい」

「はい、了解しました~。リビティナ様、お気を付けて」


 リビティナ達は国境近くの町で文官達と合流して、馬車で教国の首都を目指す。十四日の予定だったけど、さすが魔国製の馬車だ、八日で首都まで到着できたよ。後は調印式まで準備を進めるだけだね。


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