第91話 帝国南部、侵攻1
「あっ、エルフィさん。こっちの部隊に配属されたんですね」
「そうよ、シームも一緒にね。ルルーチアは砲撃部隊よね。現地司令部の作戦会議には出るの?」
「はい、今から行くところです。あっ、兄さま! 兄さまも会議ですか」
「そうだよ、一緒に行こうか」
「はい、兄さま」
リビティナ様の部隊と分かれて、帝国領内を南下して国境沿いを進んで行く。部隊の人数も半分になって少し不安だけど、敵も小規模だって言うし、何より兄さまが一緒にいてくれる。
「ではこの先の侵攻ルートについて説明します」
作戦会議には、レイボンド司令官とその側近の人達が参加している。クマ族で体の大きな軍人さんばかり。
「領主のいる城までは二ヶ所の砦があります。途中の町や村は無視するとしても、この砦は潰しておきます」
壁に掲げた地図を指し示しながら戦略担当の士官が説明していく。
「我が軍は街道から離れたこの森の手前で兵を集結させ、砦への攻撃を行ないます。フィフィロ殿、これでよろしいでしょうか」
戦術担当の士官が、卓上に広げた戦場の地図の上に各部隊を示したブロックを置いていく。いつもと同じ陣形。私達の砲撃部隊は、一番後方の森の中ね。
「ルルーチア殿もよろしいでしょうか」
ここにいるのは、軍の上層部の幹部。そんな偉い人達が私や兄さまには敬称を付けて呼んでくる。私はリビティナ様の眷属で、魔国の支配階級という事だから仕方ないんだろうけど、いつまでも慣れないわね。
「ええ、いいと思います。ミリガン部隊長もいいでしょうか」
「はい、大丈夫です」
会議には砲撃部隊を仕切る部隊長もついて来てくれる。私が変な事を言っても、部隊長が訂正し助言してくれるから安心だわ。
リビティナ様がいた頃と同じ作戦で、三日後には敵の砦に到着するとの事だった。
「ルルーチアちゃん、お帰り。作戦会議はどうだった」
「三日後に敵の砦を攻撃するそうです」
部隊に帰って会議で決まったことを説明する。この部隊には女性の兵士が多い。重い砲弾を運ぶのは男の人だけど照準を合わせたり、発射させるのは女性の兵士。ここに集まった小隊長さんもみんな女の人だ。
部隊長さんは男性で元からの軍人さんだけど、ここの部隊の人は、徴兵で集められて訓練後に志願してくれた人達がほとんど。訓練の時から知っている人が多いから、気兼ねなく話ができるわ。
「砦への攻撃なら、半円形に砲台を並べた方がいいわね」
「そうだね。五門を一編成として等距離に並べようかね」
この部隊には二十五門のカノン砲がある。それをどのように配置すれば一番効率がいいか検討していく。砦が一つだけなら等距離に並べれば着弾修正も一斉にできて簡単だわ。
「二つの小隊はあらかじめ、砦の手前に照準を定めておいてもらえますか」
「そうだね、敵が出てきた時のために、それぐらいは必要だね」
「小さな砦らしいし、十五門で攻撃すればすぐ破壊できるでしょう。その方がいいわね」
地形に合わせた配置を考える、それといつものように、砲撃部隊の周辺には魔術師部隊と弓部隊が護衛で付いてくれる。その人達のスペースも確保しておかなくちゃ。
「航空部隊は?」
「十機の戦闘機が支援してくれます。でも今回、爆撃機の出動はありません」
「ああ、あのでかいのは要らないわね。あれが出てくると戦場がデコボコになって、砲台の移動にもひと苦労するもの」
「そうよね。あの威力は無茶苦茶だわ。あんなのが出てきたら私達の出る幕が無くなっちゃうじゃない」
前に見た爆撃機の威力には、部隊のみんなも驚いていた。やはりリビティナ様が考えられた兵器はすごいわ。
「あのレールガンもすごかったわよね。一回の射撃でお城が崩れたもの。一体どういう仕組みなのかしらね」
「あ~、あたし見たよ。馬をね、グルグル回していたわ」
「何、それ。馬を回すと砲撃の威力が増すの! うちの小隊でもやってみようかしら、今度発射するところを見てみたいわね」
そのレールガンは重くて、次々に移動しながら砦やお城を潰していく今回の作戦には不向きという事で、移動させずに温存されている。仕組みをリビティナ様から聞いた事はあるけど、チンプンカンプンだったわ。
「あ、あの~。私も詳しくは知りませんが、馬を回しただけじゃダメなはずですよ」
「え~、そうなの」
「あんたもバカだね。あれは賢者様が考えた兵器なんだよ。あたいらがマネできる代物じゃないよ」
「まっ、そりゃそうか。アハハハ」
ここの人達は陽気で気さくな人が多くて、私も楽しく話の中に入っていける。他の眷属の人がいなくても寂しくはないわ。
三日後。予定通り砦の前に集結して攻撃を始める。一日で決着がつき、敵の砦は崩れ落ちた。その五日後も同じような砦があって一日で陥落させる。砲塔の調子もいいようで簡単な整備だけで、予備も使わずに使い続けられている。
「次は領主の住む都の攻略となります。この地より五日進んだ先に城があり、敵は約五千の兵力となっています」
また作戦会議を開き、お城攻略の作戦を考える。
「こちらの兵力は一万。城攻めするには少ない兵力ですが、砲撃で城門を破壊する事は簡単でしょう」
「ルルーチア殿、砲弾の数は足りておりますかな」
「現在約五千発あります。各砲門に二百四十発は欲しいので、少し足りないですね」
今回の規模であれば、百二十発程を消費する計算だ。常に二回戦闘できる量は確保しておきたい。
「帝都の西、今回新たに占領しましたザーパットの都市を補給基地として、物資が集積されております。輸送路も確保できており兵站は順調です。明日にでも物資が届くでしょう」
「ザーパットは帝都から近い。攻撃を受け物資輸送できなくなる事はないのか」
他の将校さんが疑問を口にする。そうよね、戦地に近い場所に補給基地があるのは便利だけど、狙われては元も子もないわ。
「現在ザーパットは、王国軍の方々によって守られています。それと帝都の北側は魔国軍で固められていますので、おいそれと攻撃を仕掛けてこれない状況です」
北と西、どちらかを攻撃すれば、もう一方から帝都が攻撃される。大損害を受けた帝都の今の戦力では、両方を攻撃する事はできないでしょう。
「物資の輸送路も、魔国本国の戦力を投入しており安全に輸送できております」
「すると今、魔国の首都はもぬけの殻という事か?」
「そういう事になります。首都の防衛よりも兵站のために戦力を使えと、魔王様のご指示ですので」
リビティナ様の考えていることは分からない事が多い。賢者様と呼ばれる程の知識を持たれているお方。眷属の里でも他の町と違い先進的な物ばかり。あの方が言われているのなら、それが正解なのでしょう。
「砲撃部隊の配置が後方の平地になっていますが、森に隠さなくて大丈夫なのですか」
「フィフィロ殿。護衛はいつも通りですし、今回、戦闘機を二十機用意できております。敵の飛行部隊はこれで壊滅できるものと考えています」
兄さまはいつも私の事を気にかけてくれる。多分司令官は前進してお城を攻撃できるように配置を考えているんでしょう。
「大丈夫です、兄さま。ちゃんと前方の支援ができるように頑張りますので」
そう、私は大丈夫です。きっと兄さまのお役に立ってみせますから。




