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第77話 魔国の反転攻勢2

 国境を越えて、敗走する帝国軍を追撃していく。帝国国内に入って少し違和感を覚えた。それはネイトスも同じようだね。


「村や町の抵抗がほとんどありませんな。それどころか俺達を歓迎しているようです」


 国境から一つ目の村は、軍が通って行った道と帝都へと向かう街道を教えてくれた。次の町では魔国軍の駐屯を許してくれて、幹部を街中に招待し接待する。どうも罠でもないらしい。


「この地は魔国に近く、ここ三年の魔国の発展を見てきました。魔族の方々と元帝国の国民が造り上げた国。私どもは尊敬しておるのですよ」


 帝国に居て、いくら頑張っても裕福になれず他国を羨んでいたそうだ。でも、同じ帝国国民が素晴らしい国を自らの手で築き上げている。魔国にいる親戚からの手紙でその事を伝え聞き、平等な国で自由に生きている姿を知った。そしてこの町の住人は魔国に憧れを持ったそうだ。


 魔国で生産している食料品、それに石鹸やシャンプーなどの製品もキノノサト国経由で帝国にも流れている。


「魔国が建国した際、帝国を選んだ住民がこの町にも住んでいますが、魔国を選ばなかったことを後悔しております」


 この地方を治める帝国貴族が倒れる事があれば、この地域を魔国に統合してほしいと言ってきた。

 今、敗走している軍は、その帝国貴族の住む都と帝都に分かれるだろうと、ここの町長が地図を見ながら説明してくれる。


「帝都には防衛軍がおるはず。その手前の貴族の都ならば攻め落とせると思います」


 ここの町民は表立って魔国に協力はできないけど、物資の運搬などを手伝ってくれると言っている。

 魔国からの補給線は伸びているけど、ここを中継地にすればまだ前進できそうだ。


 撤退する帝国軍を追うと、途中の分かれ道で二手に分かれた。


「西に向かったのが、この地域の帝国貴族だね」


 町長が言っていたように、約三分の一が王国国境方面に進む。そちらには厄介なウィッチアもいないだろうし、追い討ちをかけるなら戦力の少ない方を選ぶべきだね。


 それならと、こちらも部隊を二つに分ける。帝都に逃げる敵に対しては、こちらの四分の一の戦力で追わせる事にした。リビティナ達本隊が、帝国貴族の方を追いかけている隙に反転して攻撃されると厄介だからね。


「君達は決して深追いしないように。敵が反転して来たら逃げて、ボク達に知らせてくれたらいいからね」


 エルフィとロックバードのシームをその部隊に付ける。


「エルフィ。無理せず、敵に変化があったらすぐに知らせてくれよ」

「ええ、分かったわ。本当にあたし達は戦わないからね」


 それでいいよ。犠牲は極力少ないほうがいいからね。

 シームはまだ子供だし、軍隊相手に戦う事はできないだろう。シームの傍に寄り添い魔力波で言葉を交わす。


『今まで怖くなかったかい。これからも、エルフィを守ってやってくれるかな』

『うん。エルフィママはボクが守るから大丈夫だよ』

『シーム君は偉いね』


 そう言って首元を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。



 その後、リビティナ達は西に分かれた部隊を追っていくけど、地図だとこの先に川があるね。どこかに橋が架かっているはずだけど。


「ネイトス。ボクは先回りして橋を落としてくるよ。君達はゆっくりでいいから敵を川に追い込んでくれるかい」


 そう指示して、空を飛び川に向かう。上空から見ると遠くにお城が見えた。

 ここから見るだけでも大きくて立派なお城だ。何代にも渡ってこの地を治めてきた領主のはずだけど、領民に愛想を尽かされるなんてどんな領地経営をして来たんだい。


 その都に向かう街道の先には、石でできた橋があった。大きく丈夫な橋は、軍用馬車などを通過させるには十分な作りになっている。

 あまり派手に壊すと、気付かれて迂回されるかもしれない。中央部分の橋脚だけ壊して、通行できないようにしておこう。


 案の定、橋の手前まで来て右往左往しているね。その後方にはネイトス率いる魔国の軍隊が迫る。


「帝国の兵士どもよ、もう逃げ場はない。観念し降参せよ」


 上空から川向うの帝国軍に言葉を浴びせる。


「貴様が魔王だな。我が軍を舐めるな! ドリストン家の名に懸けて、貴様ら化け物を撃ち滅ぼしてやるぞ!」


 徹底抗戦するつもりのようだね。バカな奴だ。そしてその貴族を諫められなかった、君達側近もだよ。

 川に向かい追い込む魔国軍と、川の対岸上空からの攻撃で、帝国遺族の軍は早々に壊滅した。


 その貴族の首を持ち、領都へネイトスと二人だけで行く。魔王然たる態度のリビティナと、首相として知られているネイトスに対応した宰相は話の分かる人物のようだ。


「我らの負けを認めましょう。降伏いたしますので、このカザトランへの攻撃はお止めください」


 そう言って無血開城してくれた。こちらも損害が無くて良かったよ。川向うで待機させていた軍を再び帝都に向けて移動させる。

 エルフィ達と別れた道を越えて帝都へ向かっていると、向こうからシームに乗ったエルフィがやって来た。


「あ~、いた、いた。リビティナ、この先に帝国軍がいっぱい集まってるの」

「そっちに行った部隊は無事かい」

「今、この道を戻って来てるわ。誰も怪我人はいないから安心して」


 敵軍を見つけて、すぐに引き返してくれたようだ。


「多分、帝都防衛に当たっていた軍でしょうな。エルフィ、どれぐらいの数だ?」

「そんなの分からないわよ。とにかく沢山よ!」


 見つけてすぐに撤退したようだね。その判断は正しいよ。


「よし、まずは合流して守れる体制を取ろうか」


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