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第57話 子供の教育

「リビティナ様! 兄さまが病気なんです!」


 ある日の朝早く。朝食の準備をしていたらルルーチアが駆け込んできた。


「どうしたんだい! 落ち着いて」

「あ、あの。今朝起きたら兄さまのオチンチンから膿のような白い液体が沢山出てきたんです。は、早く家に来て治療してください」


 オチンチン……あ~、フィフィロが夢精したんだね。こんなことは初めてで慌てて家までやって来たようだ。


「ルルーチア。心配しなくてもいいからね」


 そう言ってアタフタするルルーチアを落ち着かせて、フィフィロの家まで行って体を洗ってあげた。そういや、ここのところ忙しくて里の子供に性教育をしてあげていなかったね。


 眷属になると子供は産めなくなるけど、生理や射精の生理現象はある。ちゃんとした性知識を持ってもらうために、この里では適齢期の子供を集めて教育している。


「セリアーヌ婦人。すまないけど子供達に性教育をしてあげてくれないかな」

「そうですわね、最近していませんでしたわね。リビティナ様、申し訳ありません」

「戦争や魔国の建国などで、忙しくしていたから仕方ないよ」


 十一歳ぐらいから上の子供を集めて教育をしてもらおう。フィフィロやルルーチアはこの里に来て初めてだから、一緒に授業を受けてもらう。

 この世界の獣人は年に四回の繁殖期があって、その時期に子供を作る。人間化した眷属もその影響か生理は二、三ヵ月に一回と少なくなっている。


「エルフィ、妖精族はどうなんだい」

「妖精族も三ヶ月に一度ぐらいよ。でも出生数は少ないわね」


 獣人のように多くの子供が生まれないから、人口も少ないんだね。


「あんたはどうなのよ」

「機能はちゃんとあるんだけどね。着床しないようなんだよね」


 排卵自体も自由にコントロールできる。やはりヴァンパイアの体は特別で、他の生き物とは全く違うようだ。

 体が違うと言えば、フィフィロの体も特別だったね。魔力の元となる魔結晶が胸にある。他の眷属や白子の子供はその魔結晶が無いから魔法も使えない。


「でもあの子、獣人だった頃は魔法が全然使えなかったって言ってたわよ」

「そうなんだよね。あの魔結晶は人間に特化した物かもしれないね。少し調べてみようかな」


 種族によって魔結晶には違いがある。魔獣の体内にある魔石……これは魔結晶と同じような物。魔獣の種類によって使える属性が決まっていて、たとえ移植したとしても種族が違えば機能することはない。


「あんた、まさかフィフィロを解剖しようなんて思ってんじゃないでしょうね」

「そんな事する訳ないじゃないか」

「だってあんた、妖精族の抜け落ちた羽、まだもっているんでしょう。研究するとか言って」


 研究のための貴重な資料だからね。まあ、エルフィに言っても分かってもらえないか。

 解剖なんかしなくてもフィフィロの血を吸えば、その遺伝子を知ることができる。フィフィロを家に呼んで血を吸わせてもらおうかな。


「こんにちは、リビティナ様」

「よく来たね、フィフィロ君。ルルーチアちゃんも一緒に来てくれたんだね」


 この二人はいつも一緒で、相変わらず仲がいいね。


「この前は、すみませんでした。私、慌てちゃって……」


 二人頬を赤らめるけど、知らなかったんだし仕方ないよ。


「今日はね、フィフィロ君の体を調べたくてね。血を吸わせてほしんだよ」

「はい、結構ですよ。そんな事でしたらいつでもオレに言ってください」


 ほんの少し血を吸うだけだから、痛くはないと言って首筋にちくりと牙を立てる。隣りでルルーチアが心配そうに見守る。


「あの、兄さまの体に何か異常でもあるんですか」

「いやね。フィフィロ君はこの里で唯一魔法が使える人間だからね。少し調べさせてもらおうと思っているんだよ」

「そうですよね! 兄さまの魔法って、すごいんですよ。この前なんか雷魔法を何本も一度に撃ったんですよ」


 お兄さんが特別だと認められて心配そうだったルルーチアが、パッと明るい表情になって嬉しそうに話してくれる。

 フィフィロは、この里に来て魔術が上達している。魔力量だけだとリビティナよりも多いだろうね。


「そうだ、兄妹のルルーチアちゃんも血を吸わせてもらおうかな。二人を比較すれば研究が進むかも知れないしね」

「はい、私でお役に立てるなら」


 そう言って、首筋をこちらに向けてくれる。二人を比較研究すれば、人間の魔結晶の事が分かるかもしれない。



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