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第53話 貿易準備1

「あら、あなた妖精族よね。新入りさん?」

「自分はメルーラと言います。リビティナ様はご在宅か」

「奥に居るわよ。リビティナ~、メルーラさんが来てるわよ」


 里に帰ると、待っていたかのようにメルーラがやって来た。一体どうしたんだろうと部屋に上がってもらい、食堂の椅子に腰かけ向き合って座る。


「自分を眷属にしてください」


 この前とは違って真剣な面持ちで言ってくる。メルーラの目を見ながら、確認するようにリビティナが尋ねる。


「眷属になると、魔法も使えなくなるし力も弱くなるよ」

「はい、承知しています。もとより魔術は得意でなく、短剣しか扱えませんから」

「それにね、子供も産めなくなるよ。それでもいいのかい」


 子供と聞いて少し躊躇はあるようだけど、眷属にしてほしいと言う願いは変わらないようだ。


「分かったよ。今日はもう遅いし、明日の朝にまた来てくれるかい」


 そう言うとメルーラはフロードが待つ家へと帰って行った。


「ねえ、あの人誰なの」

「魔王城跡で、魔獣に襲われた学者さんを護衛していた人でね」

「やっぱり冒険者なのね。羽の片側が無くなってたものね。可愛そうに」

「俺達がミシュロム共和国に旅立つ前にもここに来てな。そん時も、眷属にしてくれって言ってたんだが、眷属化できなくてな」


 フロードやメルーラの事を知らないエルフィに、ネイトスが今までの経緯(いきさつ)を話してくれた。


「へえ~、でもあの人すごく真剣だったわよ」

「そうだね。ボク達がいない間に何があったか知らないけど、今度は眷属になれるんじゃないかな」


 翌朝。メルーラが片足のフロードに肩を貸しながら、リビティナの家にやって来た。


「リビティナ様、メルーラをよろしくお願いします」

「ああ、分かったよ。君はこっちのベッドに座って、ゆっくりしていてくれ」


 診療室の椅子に座るメルーラに、もう一度確認する。


「後戻りはできないよ。本当に眷属になってもいいんだね」

「はい、リビティナ様」


 その表情に迷いはないようだね。首筋に牙を立てて血を分け与える。

 心配するフロードが見守る隣のベッドに横になってもらう。その後メルーラは苦しみだしたけど、お昼頃には容態は落ち着いた。


 あとはフロードに任せておいても大丈夫そうだね。

 夕方、診療所の方からフロードの声がする。


「リ、リビティナ様。メルーラの羽が抜け落ちました」


 最終の眷属化が始まったようだね。


「うん、順調だよ。心配しなくても大丈夫だからね」


 しばらくするとクリーム色の肌が剥がれ落ちて、その下から真っ白な肌が現れる。


「フロード様……」

「気が付いたかい、メルーラ。成功したよ。ちゃんと眷属の姿になっているよ」

「フロード様」


 二人は肩を寄せ合い抱き合う。一度眷属化に失敗しているからか、成功を喜びメルーラが目に涙を溜めながらお礼を言う。


「ありがとうございます。リビティナ様」

「僕からもお礼を言わせてください。メルーラの願いを叶えてくれて、ありがとうございました」

「メルーラが頑張ったからだよ。今晩はゆっくり休むといいよ」

「はい」


 今夜はこの診療所じゃなくて、二人は家に戻って休むそうだ。それならとネイトスに馬車を用意してもらって、家まで送って行ってもらおう。


「それと、この羽だけどボクがもらっておいてもいいかな」

「はい、結構です。もう自分には不用の物ですから」


 抜け落ちた羽を冷蔵保管庫に仕舞っておく。

 二人を見送った後、その様子を見ていたエルフィが興味深げに聞いてきた。


「あの男の人がフロードって言う学者さん?」

「ああ、そうだよ。介護のためにメルーラも同じ家に住んでいてね」

「ねえ、ねえ。あの二人、いい雰囲気だったわね。結婚するのかしら」

「さあね。前はそんな感じじゃなかったんだけどね」

「いいわね~。愛する人と一緒になるために、あの娘も眷属になったんだわ」

「まあ、それだけじゃないと思うけど……」

「すると今夜あたり初夜と言う事になるのかしら。キャ~」


 ほんとエルフィはこんな話が好きだよね。自分もそろそろお相手を見つけてもいい歳だと思うんだけど。


 翌日。里のみんなに集まってもらって、ミシュロム共和国との条約締結の報告をする。その後に魔国の交易の事について意見を聞かせてもらった。

 まだ国境検問所ができていないから本格的な貿易はまだだけど、その前に準備しておきたいからね。


「共和国との間に交易路は完成している。今後どんな物を取引したらいいか教えてほしいんだ」

「相手が妖精族となると、以前帝国で作っていた物はダメでしょうね」

「となると、この里で作っている物の一部を外部に出すか」

「そうだな。出せない物も多いだろうが、石鹸やシャンプーなどの日用品はどうだろう」

「そうね、天然由来だし世に出しても問題ないと思うわ。それに化粧品もいいんじゃないかしら」

「化粧品は、この里で使う分を確実に確保しておいてくださいね。リビティナ様、それは絶対ですからね」


 商売をして外貨を稼ぐとなると、売れる物が無ければどうにもならない。買ってばかりでは赤字になって財政破綻してしまうからね。里にある物は高品質で必ず買ってくれるとエルフィも言っているし、大丈夫そうかな。


「あとはサービス産業として観光を考えているんだ」

「リビティナ様、観光というとどの辺りを?」

「魔王城跡と殲滅の平原がいいと思うんだけど」

「歴史的価値があると言う事でしょうか?」

「ねえ、フロードはあの辺りを調査してたんだろう。どう思う」


 やはりここは専門家に聞かないとね。


「魔王城跡は僕からすると、まったく価値のない物です」

「え~、そうなの!」


 道路工事をしてくれた妖精族の人達は、興味あるみたいだったんだけどな~。


「フロード様。リビティナ様は観光として、どのような価値があるのかを聞いているのですよ」

「ああ、そうだな、すまないメルーラ。魔王城跡は既に調査し尽くして遺跡として、それほど魅力のある場所ではないと言う事です」

「観光としては、人を呼べると?」

「伝説にまでなっている場所ですので、素人であれば喜んで訪れるでしょう」


 それを聞いて安心したよ。遺跡の中に人を入れてもいいし、魔王城自体を修復してもいいんじゃないかと言っている。


「それじゃ~。あの辺りの観光開発をフロードがしてくれないか。もちろん作業する人や警護する兵隊さんはこっちで用意するからさ」


 周辺で立ち入らないでほしい場所もあるそうで、それなら詳しいフロードに頼むのが一番だよ。


「分かりました。お役に立てるなら僕の知識を活かしてください」


 妖精族との貿易も、これなら何とかなりそうかな。


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