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なき)しめひてひ

Chapter.3 弱酸性無添加少女の憂鬱







2046年-12月21日


『天下総大のインタビュアー』ことワテクシ噺 菊子はこれまでにない鳥肌をこれでもかとばかりにいきり立たせていたのです。


出歯亀根性と言われれば言い返せない心根を持ちつつも危ない橋を壊れるくらいに叩いて渡る慎重派であったはずなのですがーーー


どうもこの私が口車に乗せられた。


格の違う『天下無限大の好色魔女』を相手にして、秘密も隠し事も陰謀もすべて引き出されてしまったのでもう何も隠し立てすることはないのです。ただ彼女が無益な殺生を好まなかったこと、それと初めに出会った『天下無限大』が彼女であったことが幸運だったように思えます。他のメンバーなら死ぬだけじゃ済まなかったと誇張でなく言われてしまえばただ半笑いの口角で肩をガクガク震わせることしかできなくなるのですから。


さて。そんな『天下無限大の好色魔女』さんが語るには。


「楽しかったよねー!★」


「邪の道に堕ちて地面突っ切って宇宙にまで到達したATASHIの子宮が今も疼くし、トンデモなく光ってた時じゃないかなーあの頃って。みんなが揺るぎない自分を持ってて、たまに喧嘩しても誰かが仲直りの発端になって、揉めても倉科君の『でもほしのこ計画に関係なくない?』でどうでも良くなったりして!いろんなとこ回ったなーいいメンバーだった」


「荒野に一人立つって子達ばっかだったのにひとつにまとまれたのはマジ奇跡。息がしやすかったよね。周りがみんなそれぞれ違った特別さを抱えてて、今も何人かは仲良しなんだ〜」


「あ、今考えてること当ててあげよか。根は悪い人じゃない、きっと何か理由があって世界を終わらせたんだって、うんありがとう。優しい子だね」


「でもざんねーん、今も昔も変わらず客のチップを少しでも上乗せさせるためにココロとカラダを擦り減らす。物語に不要と断じられても壊れそうな時でも笑顔と希望を絶やさないのが『嬢』の仕事だし」


「ーーーなら……」


「どうして何万人もの生殖能力を消すなんて凶行に走れたんですか……っ?」


ようやく口から零れた言葉は、奇しくも今日1番聞きたかった目的だった。


「『ほしのこ計画』のためだよ。私達『天下無限大』が戦い続ける理由はそこに尽きる。でも残虐な真似は出来ないから、ATASHIのATASHIらしさ全快で遂行しただけ」


「だからこんなとこに捕まってるけど、出ようとしたら出られるし誰もATASHIに触れようとしないんだよね。5年前までは我先にって目血走らせながら近寄ってきたのにおっかしいんだー」


「…………」


「ま、あなた達にとって私達は悪の象徴だろーし、きっとほとんどの人類にとっても敵だろうね。世界中にヒーローなんて存在がいたら間違いなく粛清されてる。なんとかジャーもなんとかライダーもなんとかマンもいたかもしれないけど私達が芽を詰んだから枯れた木からは何も生まれてこないんだ。今はそういう時代だってコトで納得して欲しいんだけどなー。あ、でも嫌いじゃないよ。会いに来てくれたんだし聞きたいことは全部答える。安心してよあなたは私の守備範囲ターゲットじゃないから」


「…………ま、怖くないわけないか。勝手に威圧してしまってたね。いや話し続けるのがやばいのか。千の口二千の穴を持つと呼ばれたナンバーワン好色魔ちゃんも時代に飲み込まれちゃったのかな」


「でも、どうだろ。あの子さえ生きていれば、きっと今って違ってたんだろうって思う。まぁATASHIの話せるとこまでは話したげるからさ。肩の息ヌいて軽く構えててよ」


「20……37年、かな。まだ私達が『天下総大』だった頃の、まさかこの世界を終わらせるなんて思いもよらなかった時代のお話をしよっか!」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





2037年 8月28日


自由の女神像のてっぺんで、楼閣の頂に居座るように佇む6人。底の見えない都市の煌びやかさにあてられて、浮遊感のあるテンションにそれぞれ心踊っていた。


好奇心・好色魔女・書記・演劇部・道化師・医者。


作戦立案・決行隊長の八神藤十郎先生の号令で今日の計画は始まった。


「ターゲットは豪商スカーレット・マスノフ。値が張るものには目がないやり手のビジネスマンだ。多くのSPを侍らせて安全地帯に星片を隠していると見た。手筈通りに行くぞ」


「あいさー」


「おーこわ。やり手のマフィアの後ろ盾って相手にとっちゃ不足ねぇ、摩耶姉サンはもう潜入済みか?」


「んー。ミッション達成の合図は受けてるよー。あとは私達が動くだけ。予定通りー賭博っとくって。みんなカフェイン大丈夫?眠くない?夜が映える町っていっても私ら日本人にゃ耐性ないでしょー」


「オトコ漁りしてた時はこれくらいの夜更かし余裕の世直しウーマンだったよー夜はお肌の天敵っていうけど昼夜反転日常茶飯事なATASHIにはラーメン四杯サイダー5杯理のはんちゅーよ!カロリーは正義!糖質は腹から声出すために最高のドーピングなんだからね!」


「どこでどこからそのおデブエナジーを放出してるのか…………興味深いな。スプライトのように摂取と同時に発出でもしているのかな。ははははは」


目を瞑ってひたと動かない。


「倉科君、眠いの?」


「ーーーいいや」


「星が最も煌めくこんな最高の夜に、星全然見えないってひどいと思わない?だから目を瞑って星を感じてたんだー。青少年の思春期の情動は止められないのになんと悲しいことかな、時代ってやつかなァ」


「『おねーさんが超絶暗視スコープ、作ってやろうか?』」


「そーゆーことじゃないと思うなー?風情という日本人の趣向が産んだ皮肉じゃないかなー?でも吟遊詩人の道楽言葉遊びに究極最強の解を出すの嫌いじゃないよぼくちんはー」


「さんざ暴れ尽くしゃあ後は上手くやってくれんだろう?遊撃隊はとにかく爆弾仕掛けて電子欺瞞して小人の妖精さん演じりゃいい」


「……そ!まぁ星が見えないくらいの方がしっかり周りが見えていいかなァ。死に誘われたらそのまま闇に熔けていっちゃいそうだし……サ!」


「小宵様は冗談が好きだなぁ。ははっ、俄然やる気出てきたよ。笑う門には星来るって言うからね!」


「いやだからカッコつけてるわけ!!!諺とか詩とかそういう無駄でカッコいいの好きなのよぼくちん!難しい任務前に足りない頭ぶん回して硬い雰囲気壊してんのに扱いが雑ゥ!あと冗談違うし!」


「いいかいそもそも反対だったんだよ。誰が自由の女神から作戦仕掛けようなんて考えたのか今更問い詰めるつもりもないけど愚の骨頂だよ!誇張無しに!!!隠密性を欠いた上で絶好のロケーションだからやろうそうしようって信じて来てみたらスタート位置地上305フィートなんてよくも冷静でいられるよねチミタチ!!」


「第一味気ちゃんのレーダーって周囲1キロくらいまでしか有効範囲無いはずでしょ、どうやって星片なんて見つけたのさ。寝ずにネットや聞き込みしてた僕ちんが馬鹿みたいじゃないか!」


「新聞の写真。自撮り。眼に映った机の上に丁重に置かれていたよ」


「え、偶然?」


「この町に発行されてる新聞をとにかく漁って読みふけってた。んー。海外ポテチうま!大したことない量だったしちこっとラッキー」


「勝てない行動力!ぼくちんの汗と涙を無に帰す才能力!」


「時間だ」


「えっ」


「「「「ステラ・オーダー fight for the Fragment」」」」


「ひえええええええ」


「よく回る舌はどこへ行った!にゃはははははは!!!☆」


「あばばばばばぱばぱばびふぶぇええあだぁあぅぁあああああああ」


ネオンの光に包まれた人々は誰一人、無明の空より来たる星の子供達に気付かない。


「私のために前に出てくれるとか男らしさサイコー。惚れるわよコヨイー☆」


「そーそーぼくちんってば女の子の盾になって蜂の巣になりながら奇怪なダンスを踊るのが趣味なんだー任せてよーってんなわけあるか!!!レッドダイヤモンドじゃねーんだぞ!!?」


「それぞれ散開し各個市警の目を撹乱しろ!」


「あいさー」

「はいよ!」

「うん」

「おーせのままに」

「うぅ了解ー」


「『爆式』空上下限流火花散---I型熱傷」


ラスベガス街の外周を仮面を被ってどんちゃん騒ぎに明け暮れる。倉科君は持ち前のスキルで猫の行列を作ってホテル間の行商人達よりも目を引く指揮者ぶりを発揮する。私はというとこっそりポケットに忍ばしている銃やナイフを奪っては背中の風呂敷に詰め込んでいる。既に後ろには何人もの人でごった返してるからその中にはポリスメンやポリスウーメンもちらほらと。


明石君は大道芸で聴衆の目を釘付けに、その間に味気さんの指示で祭囃子君は目的地に単身乗り込んでいる。


じゃあここで登場人物の再紹介と洒落こもうill be gone!


トイレで瞬時にスーツに着替え、ディーラーを統括するマスターの位に早変わり。サングラスを取り出して似合わない背丈で会場を闊歩する姿はもちろん同じくサングラスを付けた黒服に肩を掴まれる寸法で。


「うっ」


「誰だ?」


『stella order』の面々は人並外れた才能で世界を席巻する。この祭囃子小宵様も例外ではなくてーーー


「やーだなーマッスルー忘れちゃったのかよーお前のコネで入ったんじゃないか」


まるでそうであったかのように錯覚させる話術。交渉の達人。


記憶の奥底に眠るかつての同胞の、かつての記憶に近いものを想起させるキャラクターをアドリブで演じ、過去を創る力。背景の調査はお手の物だ。


「…………スティルか?」


「そーそースティル・セキホー本人様です!よっ親友元気してた?」


「オーナーってば昨日もチップマージンぶんどっちゃってさー!ゲームチェックの勉強ーなんて言われてyouのとこ応援来たんだけどー見事にカモをせしめてるねーまるで一石二鳥カレーライスナンandデザート付きってかさー」


「最近ジャポーンにいってチャーシューとご飯一緒に食ってたら油っこくて結構きつくてさー途中でギブアップしてもいっぱい食べた気になるラーメン屋さんがあってねー」


「巡回中ご苦労さま!もうそろ休憩っしょ?久々にどう?1杯でも」


「…………勤務中だ」


「奢るよ?垂涎ものの海鮮ブイヤベース」


「……………………今夜」


「23時クローズ後に1207号室で!」




上手く取り入り、二秒後には『祭囃子小宵』へと変わる文字通り変わり身の速さは驚くべきものだし冷静だなァって感心する。


そして三歩歩いた時には料理の配膳係に早変わり。


「あの、すみません。厨房から階層を間違えてしまって、パーティ会場は何階でしたか?」


「ん?なんだ貴様、怪しいな…………?」


「早く行かないと鮮度が落ちてしまいます!後で罰はいくらでも受けますのでどうかご教授ください!……新米なもので、ご容赦を」


右手に持ったお刺身がいい具合に光っている。


「ふん。確かに腐ってしまったら俺達SPの信用に関わるな。連れて行ってやる。俺の肩書きにかけて必ず送り届けてやるから安心しな」


「ん?だがおかしいな、厨房は同じ階に…………?」


「ほいっ」


「僕ちん祭囃子小宵の夢は映画監督か舞台役者か小説家かメジャーリーガーか天才コックかアイドルかパイロットか探偵か王様か旅人かあと50個くらいあるんだけど、SPはちょっと遠慮するよ。ごめんねー」


「タスク完了。入り込んだよ。加茂井ちん」


「『あ、祭囃子君そのエレベーターから21階まで上がって。そしたらーーー」


チーーーン


「僕だよー!」


だきーっ。


「ひょえええええ!?く、倉科ちんいきなり抱きつかないでよプランはどうしたのさ」


「うーん、つまんないから先に来ちゃった。僕が言うに『好奇心』は病のようなもので抑え込んだままにしておくと心臓がバクバク言って止まらなくなってしまうんだって」


「ハナシ聞かなさじゃ倉科ちん世界ランカー目指せるね。もーそれでいーよ変なコトしちゃめーよしかも出典君ってソレ標語でもなんでもないしホラ離れて」


「あぁ…………『演劇部』……たらふく見せてもらったから、今度は僕がお返しする番だね」


「ミソラ様、プラン変更だ」


「『はいはい、そう言うと思って考えてたよプランX。内容はーーー』」


「ンフッミーのトゥナイトのお相手は可愛らしい淑女のお二人様かい、兵器開発で稼いだ金で愛を買い漁るのはなんて地球に優しいのだろンフッ宜しくンフフフ」


「ザバーーーーッ!」


「ぎょええええええミーのミーぎうでがノーン!!!!」


「安心してよ。『安心してよ。』」


「こっちには『天下総大の医者』様がいるんだからいつでもくっつけられるよ『こっちには『天下総大の医者』様がいるんだからいつでもくっつけられるよ』」


未知が三度の飯より愛おしく、『ヒト』の生き様に全身全霊の興味を捧げる『好奇心』の体現、倉科カムイーーーその真髄はヒトの進化にこそある。彼曰く……『ヒトの進化の為ならば死すら厭わない。ヒトがヒトを超えるための足枷となるもの全てを打ち砕き壁を乗り越えるための力』を持つ者が『天下総大』なのだという。そんなご大層な代物なら九割壊滅なんて惨状にならなかった気もするけどあれはあれでオーバーキル気味の戦力相手取ってたからノーカウント。


出会い頭に肘から先を切り落とすなんて悪魔の所業を天使の微笑みでなせるのも彼くらいだ。ヒトの進化を願いながらヒトの邪悪な部分を一切の悪意なく削ぎ落とせるヒト。それが倉科カムイという人的災害の私達が想像する限り何光年も先の思想である。簡潔に言うと『すごい好奇心旺盛ですごいストッパーがない』。パラドキシカルな『ほしのこ計画』をたくらむユートピアンだ。


そしてそしてそんな彼が今二人もいるというので場は超カオススペクタクルになっちゃってる。お腹いっぱい。


「小宵様、ありがと『小宵様、ありがと』」


異様な光景だ。顔も背丈も違う二人が鏡合わせで全く同じ言葉を紡いでいる。


タネ明かしは祭囃子君が倉科君の喋った0.01秒後に同じ音韻を繕って続く言葉を瞬時に推測、脳に届くより前に瞬時に口をついて反射的に話しているだけ。……できるかー!


「であえ!!!」


「『うん、想定通り。このまま対象が逃げる手筈を整えているうちに私が地上の注意を引くために』」


「『ロックンロールしながら生のハゲタカを貪り食いつつションベン垂れ流す』」


「わけねーでしょーが明石くんおかえり。そっちの首尾は上々かな?」


「あー極楽マジックでヒルズ通りはごった返しよ。インフェクションってやつ?ハリウッドスターがなんぼのもんじゃいって。陽動ヨーソローここらでもう大丈夫だろ?」


「おっけー……じゃ、いってきまーす」


『高等学校』でぎたんぎたんに鍛えられた足腰と平衡感覚で、窓から飛び出したままビルを駆け降りる。

そのまま鋼糸を繰り出し、縦横無尽にビルの間を縫っていく。

「『阿頼耶式』ワイヤードトラッピング絨毛剣---」


糸が織り成す幾何学模様。煌びやかに色付いた光を放つ糸は誰も彼もの目を奪う。


「スパイダー・ネットリック」


幾重にも張り巡らせ、蜘蛛の巣状にアートを構築する。けど街の往来を邪魔しないよう適度な位置で止めておけば突如現れたモニュメントとして処理して貰えると思う。


車も人も止まり、警察や民衆の目は『下』に行く。


すなわち自然と最高層のビルの更に上の事態に目を向ける人はいなくなる寸法でーーー


残りのSPは十中八九、ハニーちゃんが絡めとってくれているし。内容はR21くらいだから文章に書き起すべからず。


地上は人でごった返し、車は使えない。となると金持ちの取る手段はひとつ。


さてと、お仕事がんばった〜。ふぁああぁあおろおろろろろ、むにゃ、後はパスするよ。グッドラック倉科君〜〜〜









「Hey!『M』!『M』はどこだ!」


「ここに」


「僕の命が狙われている!ここにいちゃいけない!早く遠くへーーとにかく遠くへ行くんだ!」


「はい」


「ヘリーーーなんと準備がいい!」


「ッ!マスノフ様、後ろへ」


彼からすれば悪魔の足音に違いないだろう!

さあ!計画は最終段階に進んでいる!


「きっとゲスで高慢ちきで刹那的快楽主義の象徴のような輩です。あの褐色男は立てば怪獣座れば破壊神歩く姿はダンプカーとおそらく全てを台無しにしかねないジョーカーのような気がします。早々に退避を」


カルマ様に対してめちゃくちゃ辛辣だなぁ一体何があったのかな!


「あー自家用ジェットで逃げる気だ。カルマ様!」


「とうの昔に設置済みよ」


作戦は、上に行かざるを得ない状況を作り出し、『星片』を後生大事に抱えて航空機で逃げるところにーーー『M』がいる。


工藤摩耶さん。


彼女がいれば、事は静かに進む。


エンジンは爆破され、摩耶によってお坊ちゃまは無力化されて、証拠を残すことなく危なげなく星片奪取に。


ーーーなるはずだったのだけれど。


ボボボボボ…………


「ん?」


「……普通に巣立って行ったけど?」


「あっちゃー!時限式設置型爆弾だったかー!そりゃ空中爆散で花火よネ。ラスベガスの夜空に舞うジャパニーズ・ファイアワークス。満願成就に光栄の至りってもんでしょ?ドドドドカンでパパパバラダイス♡」


「ンゥーーーーーッもよおしちゃう♡」


「待って、でも今あそこにいるのって…………」


「ヘッヘ〜問題ねェー!!!たとえ死んだとしても、カルマちゅんの為なら命おしくはありません、って朝言ってたしホラ3.2.1!!!」


「『爆式』空上下限流火花散・Ⅲ度熱烈ゥ!!!!」


ぼ、ぼぼぼぼ……ドバァアーーーーン!


連鎖的に爆発が起き、下にいる者のことなど微塵も考えない身勝手の所業が自由の国登頂で破裂した。


蜂、千輪、冠。

バラバラに流れ落ちていく『星』を見つめながら、『星片』はこうやって生まれたんだろうかって考える。さながら……というかそのまんま流星だ。光の破裂がさらなる光の到来を告げる花火はまさに僕たちみたいだね!最ッ高と最ッ高が土足で絡まりあって化学反応で新しい最ッッッッッッッッッ高を創造していくなんてああどこまで僕は幸福なんだ!


「みんなみんな、『ほしのこ計画』にむけてどんどん進化してくれる。地面にめり込むくらいまで傅かせて欲しい!大好きだ!!」


「わー綺麗だなー…………あっ!」


瓦礫を伝って、使用人と主人を抱えて駆けるバニー最強メイドが一人。


「めんどいし…………損な役回りですし……飛行船爆破聞いてないし…………」


「おー生きてた生きてた!とびっきりの笑顔見せてよベイビーちゃ〜ん!」


シュッ


グサッ


「急所ギリギリを狙うなんて粋な女だぜー」


ピューーーー


「刺さってる!!!刺さってるよ明石君!工藤さんギリギリ狙ってるのにクールに避けたら見事に急所一撃だよ血出てる!アウトです!吹き出てるよあかしくーーーん!!!」


彼がそんなド酷い方法を取れた理由は、星片の特性のせいだ。どんな高火力兵器も光化学現象も動物の物理現象も効かないし変型すらさせられないマテリアルが使われているせいで、敵味方遠慮なしの猛攻が発生する。


もちろんそれは星片に限った話であって、着の身着のまま人間の工藤摩耶様におきましてはご機嫌ななめに拍車をかけてしまったわけなのですが!


「くらしな〜〜〜〜あたしもうムリ帰ります。アレ任せたし」


「ほっ、よーーーーー」


ホップステップジャンピング!


倉科カムイ、目を輝かせて、ネオンの光に反射する星の塊をキャッチ!


「星片確保、完了!」


あとついでに豪奢な札束も。すごーくひろったった。


「もしもし?」


「90543288761180854632127095486」


「はい了解」


「……なんて?」


「撤収準備OK。地下道と共同溝に自動走行バイク用意したからそれに乗って帰ってきてって」


「文字数足りてないよね!?」


「シンパシーってやつ?」


「無理あるくない……?」


「お、おまえ達は……一体何者なんだ!?パパに……言いつけてやる……!」


「耳かっぽじってよーく聞きなよお坊ちゃん」


「あっ生き返ってる」


「俺達はーーー」

















「八神藤十郎ズだ」








ただいま戻りました解説の加茂井ですー。


次の日彼らがチェックアウトしたホテルの一室、1207号室にチップがわんさか置かれていた件は明るみになることなく、一人のしがない出稼ぎ老婆はたいそう喜んでいたそうな。


八神藤十郎が国中で指名手配され、疑惑の目が無くなるまで数ヶ月を有すのはーーーまた別のお話。


敵の残党を安月給のおっさんがつまようじで処していくのは…………健全図書の加茂井レポートには書かないでおこうか。


「爪楊枝剣---木造(ぼくな)


「旧式血盟神道流無頼剣」


「永津神楽」





ここで一旦整理しようか。


私達の目的は、世界中に飛び散った「星片」の回収だ。

渋っていた人もそれぞれ不明瞭な「理由」を持って旅に付き添ってくれている。総理大臣が提示してくれた任務達成後の報酬は他の全てを投げ出せるくらいには極上のものだった。


師匠さんによると。


「オジサンが手っ取り早く教えてやらぁ」


「いいから聞け。俺は正気だ」


「どデカい小惑星が降ってきたのは覚えてるな?」


記録に残る出来事だ。ニュースでも取り沙汰された『ロスト・ズー』または『ズーの消失』と命名された不思議な現象のことを指してる。


「2031年、この星の体積の有に5分の1を占める小惑星の飛来!おう覚えているとも!時代を隔てて生まれてきてしまったことが実に惜しい!実に悔しい!その場にいられたのならこの目を何時間も開けながらその瞬間を待つというのに!おねーさんそんとき生まれてないしな〜」


「地球に大規模打撃を与えるかもしれないと噂になり、それから他国間の混沌は目に見える以上に明らかになった」


「でもそれって消えてたんでしょ?」


「ああ。そいつが突如崩壊し、10cm程度の欠片となって全世界に無作為無秩序に消えていった。観測出来たのは各国天文機関が備えていた超望遠マイクロ顕微鏡型観測機器のみだーーーあー、かったりぃから巻きで行くぞ」


「世界中に飛び散った星のカケラを集めねば、世界は均衡を崩し、脆く崩壊する。そんな莫大な力を戦争国家が手に入れたらどうなる?」


「抑止力となるか?全世界はその核への恐れから躍起になってあの手この手で星片を奪取しようとするに違いない。その結果よけりゃ戦争悪けりゃ世界滅亡だ」


「だから全部集めて、日本軍(ウチ)が世界相手に宣停戦布告する。ひとつ所に集めるのにはリスクが伴うから、全て揃うまでは個々人で保管。もっとも星片は特殊なもんで、ーーーやって見せた方が早いか。倉科ぁ」


「うん、いいよ。みんな見てて見てて」


彼が手を差し出すとぼぅ……と光が集まり、鍵の形になってそこに欠片が現れた。


「『戴冠』の星片。ウチが把握している3つのうちの一つだ」


「えええええ」


「このように、だ。体に定着したら星片は自分の意思で好きに出し入れが可能となる。奪われにくい反面、奪われる時は体ごと持ってかれるから注意しとけー」


簡単に言うと、9つの欠片を集めることで世界は見事完璧しがらみを超えて救われるんだとーーーまことしやかに嘘っぽい。



そして何よりも驚いたことは。


「後100日でこの星は滅びる。それまでに集めて世界を救う。以上」


何度も予言を的中させていたおばあちゃん達がこぞって天啓を受けたんだって。


なんとどデカくど酷くど辛い残業になるんだ。


一人が所持していては危険だと倉科くんのアドバイスから、今は倉科君と味気ちゃんの二人が1つずつ所持している。


信じられない、よね?


正直今でも信じられていないトコロあるし、信じたくても世の理に反している慮外の計画を話されても信ぴょう性がどこにもないんだよね。


じゃあ信じるに足る理由は何かって?


それは……………………


『あの日』彼が魅せた、たった一つの『理外例外』。その光が忘れられないんだ。


そんなこんなで始まりましたほしのこ計画第一章。すぐどっか行く道化師……バイト感覚で暗殺するJK……予算を一日で使い切った科学者……何故かラブパワー全開の好奇心……定時でいなくなる医者…………セクシュアル全振りハニー……先行き不安なことこの上ないけど、そんな私もお金目当ての卑屈な書記でしかないのだ。ツッコミ担当演劇部君が疲労で倒れないように、全力疾走していきますので、よろしくお願いしまーっす。











「よろしかったのですか?」


「何が」


「彼らを野放しにするということは、ここに戻ってこない可能性も大いにあるということ。離反の謀を推し進めていたとしても感知する術はなく、まさか情に流されたのではーーー」


「安心しろ。信頼なんてのは圧倒的余裕があるからこそ生まれる自堕落な完結思考だろ。俺はそこまであいつらを無鉄砲に信じちゃいないし有能だとも思っていない。ただーーー」


「あの『始まりの日』を生き抜いたたった8人の『天下総大』に、残り6つの星片。3つのうち1つは倉科が既に飼い慣らしてるときた」


「…………はぁ、では浪漫を追い求めた、と」


「その方が面白いだろ?」


「……………………不便なものですね、常に神様目線というのも」


(カラーコンタクトを外し、目が青くなっている様子の先生。)


「それが副作用だってんだから仕方ねぇだろ。まだアイツは気付いちゃいねぇようだがーーーさて、何人生き残るかな」


「おまえどう思うよ、サトミ」


「…………良くて」














「『私達』と出会って生きて帰ってこられるのは、精々が2人でしょうか」


「そうならねぇよう今回のメンバーには『星層剣』を教えたんだろ。それでも500人中8人まで絞られちまったんだが、悔しいねぇ。」


「見せてもらいますよ。あなたの選出した代表達が、どこまで運命に食らいつけるのか」


「ーーー行き着く先は、既に決まっていると思いますが」









次の舞台はここーーーはたまた敵のど真ん中。ロサンゼルス近辺。管理居住区画の一部が私達の根城だ。


「おきなさーい。朝ごはんの時間だよー」


「こんなのが全国から選ばれたなんて知ったらみんなどう思うかなー?ほら起きた起きたー!」


「男子の部屋は…………」


「あたしが行くよ。ろくでなし達を起こして早くお腹満たしたいし」


「貴方は行かない。何するかわかったもんじゃない。摩耶……って、もういないし」


「ナシェルは?おーー……い?」


呼吸してナシェラータ。


「わちゃーーーー!!!」


腹部大動脈チョップ!!!


「ほわぁぁああああひっひっふっひっひっふっー!!」


「よしちょっと待てツッコミが面倒だから一言で終わらせるわ

起きろ」


「臨死体験してたのにーなんだよー」


「なんだよじゃないの。さっさと着替えなさいホラ、ってーーほらバンザイ!」


「あうおーーー……昨日は最新の心臓発作薬を発明して……それというものも血液の凝固作用を促進する活性薬作ってさ、天然痘を模したウイルスを体にぶち込んで地上最強の免疫力を持つ私が死ぬかどうか試してみたんだけどさ、いやーよもやこの歳で脳梗塞が経験できるなんて幸せ者だなーわたしはー!」


「ハニーは?」


「とっくに起きてるわよ。んあーもうはしたないんだからありゃしない。うーい起き抜けの酒は身に染みるねぇーいよぉ!」


「誰じゃおんし……?」


「メイルがいないとこでメイクしても意味ないっしょー」


「なんて現金な。まー女の子としては同意。装いに興味なんてないケド」


「素材はいいのに勿体ないよ。磨けば誰より光る石なんだからお化粧しだいで岩盤にも宝石にも変わるんだしほら唇カサカサじゃん。あーもう人生これから幸せ日和って時に命懸けの旅なんてするもんじゃないよーおら、一緒にロストバージンロード歩もうぜっ」


「毎夜勝手に風俗で身体売る女子高生はちょっと御遠慮かなー」


「趣味だししゃーなくねー?生活費だって稼いでるんだし身を切る覚悟のハニーちゃんに厳しいお言葉ッ!泣いちゃう女の子だもの!」


「趣味だししゃーなくねー?」


「それな!」


「はいはい歩く、スタコラサッサ。朝ごはんはみんなで食べるの。健康に気を使わないと3人くらい食べずに過ごしそうだから手伝って」


「めんごめんごですミソラ姉!」


「朝が弱いのはみんな同じだからね。二日酔い用のミルクも用意してるから大丈夫だよ」



チャペル風のスタンドガラスに張り巡らされた異質のエントランス、外から中が一切見えないのが隠密基地の条件だった。廊下と連結したスロープ状の入口から、ぞろぞろとメンバーが入場してくる。



「ーーー諸々あって、今日もみんな揃って朝を迎えられました、と」


「ご飯を前にしても日記を続ける所存、感服致しました!ミソラ様!」


赤ちゃんエプロンかけて何言ってるんだろう……見栄えやばやば進行形なんですけど…………


「オイオイオイオイ早くいただきますのコールしてって荒神様抑えてる僕の身にもなれってんだ聞いてんのか加茂井さん!!!」


「いくら俺様の暴れっぷりをぶち当てても傷一つ負わねえ……やっぱ朝の準備運動は自分相手が最高だわーっ」


「コピーはそんな大それた能力じゃーーー加茂井さぁぁあん!!!」


「うるさいなー……これは日毎のルーチンなんだよ。起床日記歯磨き日記着替え日記ご飯日記運動日記就寝まで。じゃないと忘れちゃう……すやぁ」




「あーら寝てしまった」


「おーい!おーーーい!」


「そんな急かさなくても、私が裸エプロンでお口あーんしてあげるのに。食欲と性欲を同時に満たせるダブルブッキングガール。1秒5000円でレンタル可能よ?めちゃかわ5兆円ウィンクっ✩」


「50万やるから外で犬の隣随伴しながら徘徊してこい」


「では礼をして朝餉を摂ろう。いたーー」


「待って。安心するのはまだ早いよ。この食事に罠が仕掛けられてるかもしれない。きっと生き残った天下総大を根絶やしにする作戦だ。だってほら、工藤さんの耳が動いてる」


「ーーーなんなんだ!」


「こ、これは…………確かに。でもどうして…………マヤ?」


「わからない……何故こんなに心が震えるのか……一度だってここまで揺さぶられたこと無かったのに……」


「だあっ!!!」


「僕でなきゃ死んでっぞ!この変態道化師がよ!おとぎ話ン中帰れってんだ!」


「メシ、食うぜ!!!」


「あっちょっとまーーー」


「臀筋郡がしんだー!!!!!」


「何だって……?恐れていた事が起こってしまった……胃袋内で寄生虫すら縊りコロスあのカルマ様さえも呑み込めない強力な毒物……味気様、八神様」


「気化せず液体のまま俺の目を欺く薬物か……すまないが既知ではないぞ」


「私にも心当たりがないわ。だってニコチンや青酸カリでさえ経験と称して貪るゴリラをどうしたら倒せるのでしょう?ふむ、解剖のしがいがありそうね」


「好奇心が疼く…………誰が、どうやって、なんの為にカルマ様を始末したのか……犯人は、この中にいるかもしれないしいないかもしれない!」


「天然系記念筋肉が……」


「貴重な天然系記念筋肉棒が……ちょっとちょっとちょっとちょっとどーしてくれんの!?スタッフさん!?スタッフさーん!?ドッキリならちょっと時間経ちすぎちゃってますよー!撮れ高減っちゃうからさっさと出てきなさーい!!!」


「安心してねカルマ……あたしが……命に替えても真実を暴いてあげるから……あ、でも死姦もいいかも?」


「防腐加工ならおちゃのこさいさいよ!!」


「うるさいなー異常癖さん達……茶番は終わりだってさ」


「え?」


「ほうら、首謀者様のご起床だ」


「んぅ……?みんな、どうしたの……?」


「どうしたもこうしたも……ミソラ。カルマ様が…………何者かに毒殺されちゃったんだ……」


「あー…………え、摩耶じゃないの?」


「メリットがない」


「それはそれは…………でも他に明石くんをノックアウト出来る人物なんて……」


「ほ、ほらほら、スープ冷めちゃってるじゃん、あっため直してくるねー」


「ナシェ様、やって」


「ホホホイホイ」


「うにゃ!?なになに!?」


「えーなになに……『皆に内緒でアレを少々』なに?これは」


「…………隠し味にって……トッピング……」


「何入れたんだ……」



「……」



「コーラに牛乳ジンジャエールに甘めの風邪薬、歯磨き粉を少々入れてアクセントを出して、沸騰させた鍋に入れて取ったカマキリの出汁……etc」


口を真一文字に結んで、負けるもんかと吠え立てる!


「て、天下総大のみんなならいけるって思ったんだもん!やっと回ってきた私の当番だもん!挑戦あるのみって言うじゃん!ようやっと腕をふるえるって時に先にネタバラシなんてしたらサプライズの意味が無いし、ずっと私のご飯って不味いんじゃなくて味覚がお子ちゃまな人達にはまだ睡眠が足りてないだけだなーって!きっと明石君の舌に合わなかっただけだしもう一口食べさせたらきっと美味しさと見た目のギャップに驚いてまた失神するに違いないよ。だからもう一口食べさせて」


「はいはい買い出し行くよミソラ。ごねないごねない」


「やだーーー!!!!捨てないでーーー!!!」


ズルズル引き摺られて、ショッピングモールへと連れ出されるのでした。




Project:『泥土冠水』







四歩歩くと、五歩目の足音。


三歩歩くと、四歩目の高い足音。


私ーーー加茂井ミソラと倉科カムイ君、工藤摩耶さんに明石カルマ君は、故あってショッピングモールへと向かっていた。寮から徒歩20分。ビルの合間を抜けて横断歩道を渡ろうとした時に、その『音』は変容した。


「ん」


ふと止まって振り返りざまに首を付け狙う倉科君。日常生活の単純な作法でさえ彼の冷徹さが見え透ける。


未だに彼の『天下総大の好奇心』がどんな才能を秘めているのか底が知れない。他の皆はおびただしく溢れる個性を隠そうともしないのに。


弧を描いたナイフが追跡者の首筋に当たった。


「ひいっ」


「どうして僕らを付け狙うの?」


フードを被った男らしき人間はぴたと動きを止めた。『天下総大の暗殺者』の眼光が放つ威嚇の視線にメドゥーサの石化光線の如く固まった。


「暗殺者?いいですよやる気ならーーー」


「いいよ。無理に聞かなくて」


スッーーー


「」


「すなわち、無差別。僕らに用があったわけじゃなくて、すれ違いざまにスろうと思ってたんじゃないかな」


「か、金持ってるって、思ったんだよ。いいじゃねえか異国は差別も少なくて金だって有り余ってんだろ。こんなご時世に旅行かよ、ハン!いいご身分で」


「ヌハァン生憎今は度重なる類まれなる事情によってお財布事情が芳しくなくてナァ心からお悔やみ申し上げるけど1円たりともお恵みできる金はねー!」


「ひぇええええええ!!!」


「うー、風つよつよ。すとろんぐうぃんど。こよいなんて吹き飛ばされちゃうよー」




「この街は物騒だなー」


「行くよ、三人ともー」


「…うん」


「……『戦争』の弊害、か」







「だーくそなんでこんな混んでんだよ!」


「人混みには気をつけなよ〜スリなんてごろごろいるからね」


「ほら!もう盗まれてる!」


「…………何をだ?俺が気付かない気配の隠し方、この土地には俺の感覚に比肩する盗人がいるというのか?」


「君のハートは既にあたしのモノ!きゃっ!」


「お返しに貴様の花畑な頭から数本献花を頂くとするかな」


「こら!女の子の髪の毛に気安く触れない!八神君だって股間触られたら嫌でしょ!」


「それはカテゴリーが違うんじゃないか……?」


「でもあたしはァ5000万くらいでバカバカあげちゃうよ〜」


「あげないのー!って高いなオイ」


「藤十郎様の股間はステラ・オーダーの中の誰よりも堅牢で立派で強固で、それはそれは逞しいんだ!四人で小さい風呂を独占するからよーく知ってるよ!」


「かっはははは!無邪気だから叱るに叱れねーだろ!だははははは!!!坊ちゃんチン○バラされてやーんの!…………いや全然動じてないわさすがキングの風格」


「戯れもそこそこに…………来たぞ」


「あいつがこの国の一大貴族の王子か」


「カルマ、どう見る?」


「隣の美人がイかしてんな。整った化粧、肌の露出、臍なんてまさに唆るだろ」


「なるほど。つまり本体にさして感じ入るものはない、と」


「外れ、ってこと?」


『おねーさんのレーダーが壊れたって〜?いーや万に一つもメンテナンスを怠りはしないわよ。確か覚醒前の星片は誰であろうと所持出来るっておにーさん言ってたしそれじゃないの?』


「懐に潜り込んで取り入るべきか」


「あれ?摩耶は?」


「あれ?」


「迷子か?」


「紹介しましょう。私達ファミリーに新たに加わることになった容姿端麗美少女メイド!クドゥーリャフカ・ヤーマだ!!!」


「本日よりお世話になります」


きゅぴーんと効果音が流れるVサイン。


「はや…………」


「いつの間に……」


「この前ゲームに勝ってね、探りを入れるかカルマの従者になるか選ばせたの」


「悪魔の選択!」


「こうすることで「やらない」って選択肢を消すの。エレメンタリィなトリックだって道化師さんが言ってた」


「へっへー俺様褒められてる?フォー」


「マッチポンプじゃないか!流石だねカルマ様!側坐核がビンビンしてきたよ!」


「褒められてないし褒めるな。…………ん?」



「どけ……どけどけ!!!」


「盗人だ!捕らえろ!!!」


「ひぃいいい!銃撃戦だなんて聞いてないよぉ〜〜〜」


「テーザー銃だな。死傷性はない」


「早いな。加速性シューズを使ってる。ってああコナンじゃねーか!絶対あれ名探偵だよサイン貰わなきゃ!!!」


「やーやはり僕らってばお事件引き寄せマグネットなんじゃないかなーハハッ!騒ぎに乗じて星片奪取も野暮じゃあないけど、どうする?ミソラ様」


「んーーー、ここは恩を売っとこうさね。あくまで騒ぎは最低限に」


「ならば俺がいこう」


「俺様の方が速いんじゃね?」


「あたしもあたしもー☆」


「待って、無闇に追いかけても地の利があるからあっちが有利だよ。中東のゲリラ運動の二の舞になっちゃいけないいけない。任せて」


「日記って言うのはさ、文字と言葉の羅列だけじゃ飽き飽きするんだよね。見よこの画伯の力を!」



「うん天才的で前衛的!僕ちんには5万年早かった!」


「ここをこういってこういってこう通って次の信号を右に曲がればーーー」




「はい、ご苦労さんっ!」


「ぴゃげし!?」


「カルマ君足はやーいっ」


「んだよコナンじゃねえじゃんか」


「これは回収…………っと!ほい」


「貴重品なんだから大切に扱えー」


刻銘されてる名前が金ピカに輝いてる。あ、めちゃくちゃお金持ちそう。ということは。


「ナント!?ナントナントナント!?」


「ギングナム・ファミリーズ…………あ、さっきの」


今頃到着した王子の元へ。


「だれが!?だれがこの作戦を思いついた!?ブラボーだ!褒美をやりたい!」


「あー…………私っぽい、ですね」


「すごい!すごいすごいよyouは!!!なんて言うんだい!?アジア人か!」


「ベイベー!ありがとうー!」


「ひょっ……………………!」


きつく抱擁されてしまった!


かもいみそらののうないにごじゅうにひゃくまんおくてんのダメージ!!!


「僕らのミソラ様に…………歴史に断片すら残さないよう葬り去ってしまおうか……?」


「馬鹿野郎。過度に干渉するな」


「ミソラちゃんも隅に置けないにゃ〜☆」


「望む報酬を取らせるYOー!」


「いや、いい。ほら帰るよみんな。じゃ…………」


「電磁石!たっぷりと!」

「エタノールとアルコール。それに無菌室。麻酔器にガーゼと人工心肺も欲しい。加茂井言え!金欠は今なお続いている!」

「火薬に爆薬火打石!それすなわち金でOK!」


「だまるだまる帰るよ帰る!目立ちすぎてんよほらどうどうどうどう下がる下がる!」


「名前だけでもOー!!!」


いや今日私達ここにいない設定で


「加茂井ミソラ様だよ!!!世界を股に掛ける類まれなる天賦の才に僕らの女神様!アメリカも世界も一度記録されれば手の中さ!」


「勝手に全部ばらすなー!!!」


「さらにいうといつもみんなをまとめてくれるし一概に書記と言っても誰もがやらない事を率先してくれるし専門分野に時間をかけなくていい分全員のサポートができて全ての計画においてミソラ様はなくてはならない存在で」


「ではではーーーーーーー!!!!!」


ピューーーーーーーーッ


すたこらさっさなのでした。



「加茂井…………ミソラ…………」








てくてくてくと家路についていた折。



←星片


と書かれた看板がある。



…………………………


怪しいどうみても怪しい。





のどかなbgm



「くすねてきた」


「金だーーーー!!!!!」


「たりなーーーーい!!!!」


「分け前を決めよう。工藤が5俺が4お前たちで1だ異論はないな」


「何勝手に集めてんだてめちょっ離せ!」


「愚者はまぐれ当たりを自慢するが賢者はミスショットから多くを学ぶ!ラスベガスのメヒル・ストリートでどれだけの火薬を無駄遣いした!当初の予算はもう残り二割だ!有効活用しなければ、出来るのは誰だ?」


「僕だよ!」


「今更だけど、ラスベガスミッション達成パーティをしようよ」


部屋に押しかけてきたと思ったら、例のごとくカムイ君の唐突なサプライズ。


「もう部屋はとってある。総額10万ドルの最ッ高パーティナイト!そそるねたぎるね湧き上がるね!」


「滅べ」


「そう邪険にすんなって。こんな世の中だからこそ憩いの場が必要なんだって事よ!盛り上げてくれよォ坊ちゃんだろ?」


「盛り上がるのは他の場所でもイ・イのよ?」


「いやぁ、だって朝も昼も食べてないしさ。ミソラ様の独創的な料理、食べてみたかったけどなぁ」


「……背に腹はかえられないか」


「工藤さんは?嫌だったりする?」


「いや、別にさほど嫌ではなく。美味しいもの食べれるならむみゅ、問題なし」


「服に気合い入れていかなくちゃね、もちろん下着も」


「俺は……防弾コートを……買ってきたが」


「マジ?藤十郎、それウケる。モールで売ってたの」


「売ってたが…………」


「コート買って来いって言ったのに防弾コート買ってくる坊ちゃんはオメーぐれーだよがはははは!!!」


「(その時練習で『道化師』になってたから……こっそり二人して笑っちゃってたなんて……言えない…………)」


カムイ「演技・好奇心!」


「その時練習で道化師になっちゃってたんだよね!こっそりカルマ様と二人で微笑ましさに笑い転がってたんだよね!なーんて言えないけどさ!はははっ!あはははははは!!!」


「…………………………ハッ!」


「やるじゃんガチムチ筋肉〜〜〜あんたら3人チョーサイテー!あは!ははは!!!」


「場所はサンタバーバラのレバノン・ホテル40階のレクリエーションルーム。19時半で取ってるから遅れずにどうぞ」


「言っておくが得体の知れないこの町のこと、いつ狙われるか知れたものじゃない。地の利がない上に先程の一件で俺達はお騒がせものだ。今現状置かれている状況を再認識し」


「そんじゃ用心棒よろしこ〜」


「押すんじゃないっ」


「やれやれ、呑気なことだ。…………私も」







「いやーそれであったしのグランマーは19で子供産んで、マンマーは18で産んでるのよ〜」


「Therewereあたしは今年妊娠するんじゃないかやだってあばずれとかいうなそこ!」


「心当たりは?」


「あ在ずthere」


「はい!センセー!キスの仕方教えてください!」


「実はキスしたことないのよ!」


「味気!ポリグラフ持ってこい!」


「心拍数を変えられるハニーには無意味だよん。まずは心の臓を止めるとこから始めよう。さぁ股どころか胸どころか脳を開けキューティーちゃん」


「あははこしょは!こひょら!こひょばいよ!ガルちゃん助けて〜〜〜」


「ガル、はにー、守る」


「オイ工藤サンタサンよぉ、ジントニック一丁!」


「まったく……」


「私が」


「なんでも出来ると思ったら」


「大間違いなんだけど」


「ジントニックお待ち」


「出来てるじゃねーの……」



「みんなはしゃぎすぎ……と」


「こんな時でも日記を欠かさないなんて、最高の書記だ!僕の知る中で五本の指に入るメモ魔!」


「世界に書記がどれだけ存在するか知らんよわたしー」


「読み返すことってあるの?」


「たまのたまにね。改訂する時くらい」


「まだまだ書き足りないし、こんなに外は広いんだって教えてあげないと。だからいい事ばかり書くし悪いことはウソつくよ。物語ってそういう物じゃない?」


「アラビアンナイトのシェヘラザードだって命欲しさに虚ろな話をコロコロ生み出したもんね」


「世界は見たことないものでいっぱいだ。日本で選ばれた天下総大なんて称号が薄っぺらぺら〜に思えちゃう」


「……だから」


「…………日本で待ってる子達に、渡さなきゃなんだ」


「外に出れない捨て子でも、忌み子でも、闇っ子でも。未来路に希望を抱ける冒険譚。選べない道の『もしも』って奴を見せてあげたいんだよ。たくさんの祈りを背負ってこの本は出来てる。私だけじゃない、みんなに捧げるための一冊」


「あ、僕に言ってたんだ?」


「他に誰がいるって?げしげし」


「その子達が私の星、で片付けるにはちょっと大袈裟かな。大それてるってわかってる……けど私にとってはとでもとっても大事なピースのひとつ。……お酒が回っちゃったかな」


「電話とかメールとか手紙とか、いっぱい来てるけどこっちから返すことはあんまり無くなっちゃってた。忙しさに追われてたからなー……でも」


「この星の空って、こんなに大きいんだよ。けど空の下なら制限はなくて、ずっとどこまでも繋がってるってわかる。だから寂しくなんてない。それにーー今はみんながいてくれるから」


「あの子達より手がかかるのはちょっと辟易って感じだけど、働きがいがあって楽しいよ。この旅は……きっと振り返れば泣いてしまうように脆い時間なんだろうなって思う。狂ってしまった時代の、ほんの少しだけ生まれた安らぎがここなんだろうなー。って、喋らせすぎだぞ。青少年」


「…………はっはー、驚いた。じゃあさミソラ様」


「もしもその家族と僕ら、どちらかを天秤にかけなくちゃいけなくなったら、どっちをとる?」


「…………それは」


ぴろろろろろ


「あ…………おとさんおかさんみーちゃんかーくんあいちゃんもーちゃん」


「つんつん、つんつんつん」


「ちょっ、と倉科君、ダメ、つつかないの」


「みんなが代われって」


「はい、もしもし?」


『おうおう兄ちゃんわいの名はみーちゃんや』


『わてはかーくん言いますねん』


『あいちゃんどす』


「モーモーモーモーモーモー」


「僕は倉科カムイって言って」


「ミソラに手を出したら細切れに料理してあげるから覚えときな」


「90億人を超えた人口。1人くらいいなくなっても気にされないと思うねんな?」


「ドスをドスドスしとうどす。賢い選択をするんどす?」


「もももーももーもーもー」


「…………個性的な家族だねーミソラ様」


「恥ずかしながら」


ピッ


「私欲張りなんだよねー。誰も失いたくない。結果的に失ってしまったら残念だけど……なるべくゆるりと頑張るよ〜〜〜」


「……………………君は」


「カ〜ムイ〜くぅん」


「夜風もいいけど、即物的で官能的な、もっとイイことしない……?ほら、暑いし服も下着も全部脱いでーーー」


「えっ!全裸で斬り合い!?嬉しいなぁ〜ハッキリ言ってくれてもいいのに!生と死の狭間で愛し合うって死合は興味があったんだ!死なない程度に内蔵と腱と静脈避けて切り結べば藤十郎様がなんとかしてくれるしね!」


「え、え。え!」


「全裸殺陣……!!!」


「この子達脊髄反射で生きてるな……はいはい、止まる止まる。私の目の黒いうちは、ふしだらなことも命のやりとりもさせませんよーだ」


「えぇー、語り合いの場が〜」


「そうだよ死にゃしないよ〜今年は賽銭箱に店の無料券入れて来たんだから」


「狡い!」


夜はぶけてった。








その帰り道。


「Hey!見つけましたよマイクイーン!」


「……………………」


「MeだよMe!先日助けてもらった王室の!」


「あー、えっとー……」


「Meの妾となる栄誉を与える!」


「…………はい?」


「喜びに打ち震え!慟哭にむせび泣き!出来る限りの言葉でMeを賛美せよ!!!」


「んー……」


「すごくうれしいんだけど、遠慮します」


「だって加茂井姓気に入ってるし。まだみんなのこと心配だし。あとまだ成人してないしーーーってそっか結婚は出来ちゃうのか変な法律だな、ここってインコーザイとかない国だっけ?」


「Why?遠慮などしなくてノープロブレムなのだよクイーン。元々私達は王子と臣下の関係。悪いようにはしないサ!」


「ぽてちうまうま」


……日本語で話せばいっか。


「雪の兎孤児院ってとこがあって、そこが私のルーツなんだ。私が頑張らなきゃそこが金銭面及び土地権利云々でうまく立ち行かなくなるもんで、まだひとつ所に留まる訳にはいかないのです」


「ま、普通に今が楽しいってのもあるけどね」


「そんなこんなでプロポーズは受けられません。仕事があるのでここらで」


「…………………………………………」


…………不気味なくらい素直に引き下がったな。








夜の闇を駆ける三つの影がある。


おそらく強盗。力を得た強盗。面倒なヤツ。


味気さんと私で合同ミッション。久しぶりに外に出張ってきたのだからなにか理由がありそうなものだけど……


「ヒヒヒヒヒヒ!自動照準付き急所狙い撃ちミサイル略して去勢弾!くらいなチャイナ!」


「色々怒られそうなネーミングと発言に加茂井さんびくびくしてる。味気さんらしいっちゃーーーらしいけどね!!!」


どうしてか追われる側になってしまったのです。


とにかく何があっても八神君が治してくれるからって暴れてたけどもう物資が底を突きそうなのでそうも言ってられない。出力を絞ってなるべく失神程度に抑えたいところではあります。


「あ、ケータイ鳴ってる。ごめんちょっと離脱〜〜〜」


任務が終わるまでは静かにって思ってたけど、ちょっと望郷。


久し振りに、電話してみようかな……


「ミソラ!ミソラか!?」


「あ、親方。みんな元気?こっちはまあまあ…………」


「すまない……すまない……!」


「え?」


「俺達の力不足で……」


「ちょ、ちょっと待って待って。話見えてこない。何の話?」


「孤児院が……」


「孤児院が無くなるんだ……取り壊される前に一度、帰ってこないか?」


「どうして!?政府からの義援金は……少なくとも再来年までは続くって言ってたのに」


「圧力がかかった。既に俺達に決定権はない。だがこのまま易々と引き下がるなんて、俺達を育ててくれたおかんの沽券に関わる。最善を尽くすが、もしも万が一の事があったら……そう思ってな」


「そんな…………」


いくらなんでも早すぎる。

こんな芸当ができるのなんてーーー


「ハフン!助けが必要カナ?」


「ハーベストさん…………」


「『ユキ』の名前のつく『コジーン』をいくつかピックアップし、その全てに使者を送りました。土地の権利書さえ押さえてしまえば後は時間の問題デース」


「ミソラ・カモイ。君は美しい鳥です。透明度の超越した湖に棲む白鳥も敵わない眩さを讃えて美しさを隠しきれずにいるーーーしかししかししかししかししかし悲しいかな!!!」


「鳥に飛べる高度って、決まってるんだヨ」


「君には君の行き着く先がある。僕と共に飛び立つんだ。その選択次第では、価値ある未来が自ら忍び寄ってくるデショウ」


「…………こんなことしても、私は」


「子供達を路頭に迷わせるのはお姉さんの仕事じゃあない。ワタクシ達の仕事デス。籠を壊すも治すも匙加減。ーーー2日猶予を差し上げマス。その輝く才能が枯れない内に、一日も早くワタクシは貴方を手に入れたいのデスカラ」


「ハフン!」


「…………逃げられない、か」


「おい?ミソラ?聞こえてるのか?ミソラーーー」


「親方、大丈夫だよ」


「私達の居場所は、なくならないから」








2日目の夜。


「はーーー……………………」


いつものテラスで、ため息をつく。


ざわっ

「!」


左側で音がした。倉科君が来てくれたのかって期待して、でもその期待を自分は百発百中で反故にする事実にほそぼそと悲嘆する。


彼はなんとかしてくれそうな気がすると、そんな根拠の無い子供の空想めいた期待がそうさせたと言うのに。


「ミソラ様、元気ないね」


右側にいた。


「倉科君。めざとい」


「んっ?」


いいや、ありがたい。その優しさに浸ってしまいたくなるけれど、その感情は……今はどこにも見当たらないよ。


「なにもないよ」


「じゃあ、何も聞かない」


「……」


優しい。

彼の心はちっとも読めないけど、だからこそ私に絶対の忠誠を誓っているなーって事だけはよくわかっちゃう。馬鹿みたいに実直で迷わない。


「もうちょっと皆の英雄譚を書いていたかったなあってさ」


「……………」


「……」


「なに、いつも心の奥底を見透かすような目で見てくんのに、今日は静かじゃん」


「うーん、どうしてだろ、今の君からは、星の輝きを感じないんだ。ねぇミソラ様ーーー君はどうしたい?」


「どうしたくてもどーしよーもないこともあるのだよ」


だから、私を嫌いになって欲しい。


「『天下総大』なんて翼は大きすぎたんだよきっと。飛べたようで羽をばたつかせていただけだった。比翼みたいなもの。みんなの気流に乗って飛べた気になってただけ。元々キャラじゃないし、過ぎた役割だったんだよ」


「そうなんじゃない?」


「へ」


「君は君のままで、煌めく導となってくれればいいのに、何を気にしてるんだよ。別に僕は才能や資質でミソラ様を敬ってなんかない。甘く見ないでくれよ」


「心に染み込んでるものと、動きににじみ出るもの。言葉に象られる色と言外に見える輪郭、ジェシー様の覇気、カルマ様の剛気、ハニー様の妖気、それぞれに無限大に羽ばたいていける可能性を見ている。誰がなんと言おうと君がどう思おうと僕は君を諦めないし、十六夜も百夜も超えて追い続けるよ」


「……そっか」


「なら、安心して行けるよ。心残りは、もう、ないや」


「『阿頼耶式』ワイヤードトラッピング絨毛剣---」


「バクサ」


家は粉々に、崩れ落ちていく。


「いち、ぬけた」


「じゃあね、みんな」


「短い間だったけど、空想の世界みたいで楽しかったよ」

















2035年、春。

日々をただ書き連ねているだけの、個性といった自己紹介欄が無い一般女子中学生。


全国から選りすぐりの学生を集める特待生制度が始まった。結果が出るのは一年後。


国を、世界を守るためみんなを率いる役割を必要とされる。第一次遠征隊の活躍に私は憧れた。


知略を用いて戦場のディーラーとして、場を見渡し趨勢を転がす王様みたいに思えて、私のルーツはそこにあるんだなってわかっちゃうんだ。かっこよかった。ただひたすらに憧れちゃった。


私なんかが合格するはずなんてない。

けど、やってみるだけ。

もう何も無い、灰色の毎日に戻りたくない。自分で決めて、自分の意思で選択したい。せめて選択のフィールドに立つだけでも、自分への弁明になるんじゃないかって、どうせダメなら当たって砕けろって思ってなんとか条件をクリアした。


『高等学校』の新入生・転入生は8割がスカウト制、残り2割が試験制で入学生を決定する。


その日の選考は、厳しかった。


対人戦闘素質、超広域知識テスト、適性検査、自己アピール、


最後の試験が始まる。灼熱の太陽、補給の少ない状況下で、チームでの行動を求められた。ゴールは山のてっぺんにある旗を取ってくること。




知力・運動能力・判断力・総合学習熟練度の四つで選考は進んでいく。指標が明らかにならないからみんな自分の全てを出すしかない。




2036年、冬。合格通知と一緒に、『天下総大の書記』の称号を与えられた。


高等学校で『天下総大』の名を貰えたのは奇跡?


ううん、私が自分で掴んだ軌跡。暗雲の時代において輝ける場所を見つけた。この星に二人といない8人の中に自分がいることが今でも信じられない。


ようやく手に入れた、手が触れた世界は思っていたよりも何倍も広くて命の危険があって、正直思っていたほど綺麗で輝かしくもなかった。でも思っていたより私の大切な居場所で守りたい人達で、一癖も二癖もあるから果てしなく飽きさせてくれないし、自分の夢のために始めた事が、いつしか皆の夢のためになってた。完全燃焼してもいいって、身を焦がして消えてもいいって思えた。


一番才能が無くて、でも人一倍欲望は大きくて、何も失いたくないから、最善のリスクヘッジをとる。完全・完璧な作戦。せり上がっていく感情を抜きに、目を開いた私の目の前には真っ白なドレスに身を包んだ偽の顔をした自分がいた。


「お美しいですよ。新婦様」


「……………………だね。私もそう思う」


「新たな門出の祝福を共に立ち会えること、幸福に存じます」


「女の子の最高の幸せだもんね、しかもこの世界で五本の指に入る御曹司ですよ!」


「きっとこれからは楽しいことだらけの毎日が続きます。坊っちゃまの機嫌を損ねないように」


「あはは…………肝に銘じておきます」




幕間ーー『天下無限大の医者』八神藤十郎side


まず、訂正しておく事がある。

俺は『天下総大の医者』などではない。


結果的にそう名乗ることになったとはいえ、医学は浅く広く嗜んでいるだけで神の手と呼ばれる執刀医達には腕も知識も遠く及ばない。


だが問題ではない。世界の癌を切る施術はかつてからの八神家の悲願だ。この星の運命に抗し未来を勝ち取る。故に神にならなくてはいけない。


俺の目的の終着駅はたった一つ。復讐だ。


恨みつらみで既に死んだ者は救われない。頭では理解しているものの、最期まで俺を抱いてくれていたあの比翼の手を忘却するには俺は若すぎた。


二人は、世界を呪わなかった。人を憎悪する事はなかった。


だから俺も罪を憎み人を憎まず、ただ幸せの絶頂から不幸の深淵にまで叩き落とされた絶望を味あわせるのみだ。


手がかりがある。


「オールドストーリー」だ。


あの言葉が現代で創造されるよりずっと前、俺の幼少期にその言葉を奴は確かに言った。手がかりは『オールドストーリー』と、この頬にある傷ーーー幼い時分に無意識に忘れないよう刻みつけたあの男の証。消えそうな記憶をつなぎ止めてくれる同じ傷。奴と俺は同じだ。俺にも奴にも翼はない。決して空へ飛び立てはしない。


星片を集めていれば、いつかは必ず辿り着く。


だがーーーそんな憤怒もひととき忘れさせてくれる、酩酊感に愉悦するこころが揺れる。


こいつらとなら、どこまでも、なんだって可能になる。


「俺は救うぞ」


「止めてくれるな」


「止めてくれるな……だって〜」


「なぁに一人でカッコつけてんだよ。俺達の道が違うならとっくにこんなトコいねぇよ」


「単身で突っ込もうなんて、結構純粋なんだねトウジュウロウ様!」


「〜〜〜〜〜〜〜次に口を開いたら切開するからな貴様ら!」


「忘れたかよ。俺らは日本とは別口で動いている。あくまで無所属の一行なんだよ。特別な支援は期待できねぇ。だからよォ、何が起きようと本国様は感知しないって事になるな?」


「!」


「師匠。それってつまり?」


「貧乏は治らないってことだ」


「ガキ共に縛り上げられた俺はその悲しみの衝撃から1日2日微動だにできなかったとさ」


「縛り上げられたから動けなかったことにはしないんだね……そりゃあそうか」


「作戦指揮は八神。お前だ。隊長は倉科、やれるな?」


「最高だよ、師匠」


「それって師匠寝たいだけじゃないの……?」


「祭囃子。お前には最前線で敵兵を食い止める大役を与えよう」


「作戦指揮は八神お前だって言ったー!覆すのなしー!!!」



〜地下室味気ラボ〜



「味気!俺のメスを量産しろ」


「んー、今ちょっと限界体制〜チョコレートとナッツとレモンを所望する〜」


「終わったあとに好きなだけ本国から取り寄せてやるから今すぐ作れ」


「よっけー!ほい」ドゴッバキッバリンッ


「なーーーーにをしてるんだ!!???」


「えっだってどうせ分子構造から作り替えるんだし原型なんて残してても意味無いじゃないか。君の手の筋肉質にフィットする最高の代物を用意するから任せておきなよ」


「く、くっ………………」


「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっくふふふふぶははははははは」


「表に出ろ」


「同感じゃきー」



ああ全く、仲良しだなあみんな。


……………………………………


「作戦、ふたつ思いついたぜ。一つはあいつが幸せになれないが俺達が確実に星片を手に入れる方法。一つはあいつが悲しまないがステラオーダーにはいられなくなる。どっちがいい?」


「いいとこ取りだよ。僕にできることならなんでもするしどんな汚名でも寄ってこい見てらっしゃいだよ」


「愛の力を見せてあげよっ!ねぇハニー様☆」


「もちのことよろさんはいざー☆」


「じゃ、助けに行きましょうか」


「僕らのお母さんを」







昨日の今日で挙式とは、まさしく海外。豪胆な事だ。



「いやぁ披露宴の招待状忘れてしまって!(ウソ1)参ったな!そこにおられる新婦様ーミソラ様の古い友人で(ウソ2)幼少の時分にはおツムを変えたものですよー(ウソ3)」


「本当ですか?ミソラ様」


「ーーーーーー」


本当って言いたくない……!あの猿頭……!


「ほんとうそじゃないよ…………」


「…………ご来賓ありがとうございます。こちらへ」


「神の御前で誓いの言葉を述べましょう」




「彼女は取るに足らない、美貌も芳醇さもない少女だが、格別の勲章を賜った幸運だけは認めないでもない。そう、我々と日本の手を繋ぐ縁ユカリを生み出す縁ヨスガとなるもの、まさにスーパー・ブランク。白紙だからこそ何色にも染め上げられる母なる緑地よ。私は彼女の前途へ実りの多い成果を期待する」


「大丈夫。もう何も怖くない。ワタクシがキミを守るから」


「フリージアの花言葉は『純潔』だ。私とともに純潔に染まった明日を歩もう」




「じゃあ僕からもスピーチいいですか?」


「感動的でした。いやはや僕もこんなナリですが世界中と手を繋ぐことを至上の夢と抱えております。彼女はその通り白地の何も無い少女で 、これから何色にでも染まれる可能性を秘めている!」


「だから現在進行形で発展途上マシマシのミソラ様の幸せを、君達如きが決めるなよ」


ざわっ……


「あてもなくさまよって挙句の果てには何も手に入らないかもしれない」


「歩く先に何も待ってないかもしれない」


「私がしたいって言ってるの……邪魔しないでよ!!!」


「…………でも!!!!!」


「でも彼女には、歩く足がある。自ら進むべき明日がある。道標は自分で見つけるし尋ね人も道案内も不要不要!ねぇミソラ様!」


「そ、そうだよね……私の人生、みんなと一緒にいれればそれで……」


「僕の意見を、君の代名詞にしちゃいけない」


「みんなが言ったから、あの人が手を挙げたから、嫌いなヤツが好きなものを嫌いになるだとか、綺麗なものを汚いって言ったり……仮定だけどね。存在意義まで他者に仮託するのは危険だ。……僕も人の事言えないけど」


「この地球が太陽系の中でも穢れた世界で、本当に穢れた星だと君が思うならそう思えばいい。大多数の声を君の声だとするならそれでもいい。君自身の声が君の声になる。世界は君の全てを肯定し、君は君の全てを肯定していいんだ」


「なーんて!ミソラ様ならとっくに知ってるよね。この世界なんてものは!自分で思ったようにしかならないんだ!!!」


もぐっ。


フリージアを食べた!!!!


「死にたいなら……ここで終わらせるよ。幕引きは一瞬だ。……けれど、君のページの最終記述は、君が描くんだ。他の誰にも委ねちゃダメだ。選択する権利だけは、どんな国も法も及ばない、たった一人だけのもので奪われない」


「助けを呼ぶんだ。守りたいなら示すんだ。過ぎ去った過去を悼むんじゃない。これから君がどうしたいか、どうして欲しいか…………加茂井ミソラ!!!」


「式場初公開!家族からのメッセージ!!!」


「ミソラ!任せとけ!家がなくなっても施設が潰されても構わん!俺達は何処でだって生きていける!」


「おまえの兄弟を信じろ!」


「ポポポーピ・ピローネ!!!」


「……真っ白じゃない」


「私は……!『天下総大の書記』なんだ……!」


私はここ数日のクソッタレた過去を全て破り捨てた。


書きたいものを書いて、見たいものを残して、世界と手を繋ぐカムイの計画に乗る。

脇役でいい。輝かなくていい。

素敵じゃなくても白紙でも、


「助けて……一緒に戦って。みんな!!!私の爆発する灰色なエゴのために!!!」


「善哉善哉!天晴れじゃのう小娘よ!」


「さしずめぬしの道は備忘録。我らが覇道を伝え広めゆくハーブの音の如く。ーーー今、ぬしはベガに一番近い」


「最早ショキなどとは呼べぬな。ミソラ!」


カムイ君から漏れたのは、誰の声……?


炎が巻き上がった。


「ここからは、僕の舞台だ」


「カムイ君……?」


「さぁ」


「星の子計画を始めよう」


この星の全元素が彼の味方をするように動く。その力は一見すれば『念動力』に近いものだけれど、ホコリを掻き集めて酸素を凝縮し火を起こすなんて芸当、どうしたって理屈に合わない。場の大気すら指揮するその力は、まるで天地創造主の御業ーーー


『天上天下無限大の好奇心』


「」




「たかが3人で……この場を切り抜けられるとでも?」


「イングランド中の人間がお前たちを付け狙う!世界中に居場所なんて無くなるぞ!敵だらけのお前達に平穏の道はない!!」


「ああ、そうかい」


「いいよ。僕にはもう、ミソラ様がいるから」


「君のものじゃない、ミソラ様がね」


「で…………」


「イングランド中に、どうやって言葉を届けるつもりでいるのかな?」


「このホテルは制圧済みさ。僕らはたった3人だけで来たんじゃない。色々あってこの場所に3人だけしかいられなかったのさ」




「おい!3階!7階!応答しろ!クソっ電磁パルスかーーー!?」


『呼ばれてとび出てジャジャジャジャーン、『天下総大の道化師』様のご登場だ。脳天にドリル開けてよぉく聞け。戦争は既にフィナーレだ』


『この程度でSPを名乗るなんて、平和ボケをかましてセンズリにかまけていたのが丸見え。役に立たないインポテンツね。私が全員切り落としてバター焼きにしてあげるわ…………』


「僕ちん聞いたんだけど〜〜〜スコットランドでは真っ黒な糞尿と小麦粉を混ぜたものをみんなで新郎新婦に投げるしきたりがあるらしいね〜〜〜じゃ…………始めよっか」


「はーい!『情欲式』セクシュアルエロティック・トライブ剣!下品で不埒なダンス!」


「こんの……死に損ない共が〜〜〜!!!」


「さぁ。星の子計画をーーー始めよう」


彼が幾度となく放つこの言葉。


『星の子計画』が何を表す言葉なのかを私は知らないし、聞いても笑ってはぐらかすだけで答えてくれない。


ゾクゾクする寒気を帯びた決め台詞だ。ちょっぴり長いし意味不明だけど。


「そのペンダント!貰ったー!!!」


「それって……」


「うん。星片」


「それ狙いかよ!!!」


「今なら出来るよ。使い方、わかるでしょ」


「お父さん!お母さん!」


「産んでくれてありがとう!!!」


「私、生まれ変わるから!親不孝で悪いけど!」


「私を育ててくれた天月機関のみんな!!!」


「ファックオフ!!!!」


「みんな今日より明日、明日より明後日。無限大により高みへと進化していく。成長は留まるところを知らない。数ある中でよりよい未来を切り拓く希望を、ボクは『可能性』と呼んでいるんだ」


湧き上がっていく光を感じる。星の容量を吸い上げていく感覚。はるか先に位置するものと一体化しぐるぐるに溶け合っていく感覚。ねじれ曲がりくねってドロドロになって、私が再構築されていく。


「知ってる?今の『ステラ・オーダー』のメンバーってさ、全員もれなく試験組なんだよ」


「君の行先を、君の過ぎ来し方を、今創り出そう」


「徒桜 咲きにけらしな 天之原

惜しからざりし 明けゆく美空」


カムイ君の声を皮切りに、私は新しい私へと脱皮した。


「ーーーさぁさ」


「『ほしのこ計画を始めよう』」


ドクン。


体の細胞がひとつに繋がり、霧散して書き換えられる感覚。地球を飛び出して、宇宙のそのまた上へ昇っていく



わかる。この変化はーーーーー進化は。


虹彩進化。浮かび上がった文字は心がずっと求めていたもので、心がすっと軽くなる並びで、七色とりどりに光り煌めいていて安心する。


何を言うべきなのか、どうなるのが正しいのか、わかる。


「倉科君、これ、名乗った方がいいの?」


「天下無限大ーーいや、天の下だけじゃ物足りない。君には届かない。天を貫き空を超え、星の宿命さえも変える力の持ち主には、この名前が相応しい」



『『天上天下無限大の書記』』


この街全ての地理が手に取るようにわかる。裏道から地下道へのマンホールの数まで隅々と。


青白くきらめく粒子が意識を遠くへ誘う。


「なんていう状態なの?これ」


「人呼んで『星神状態』」


「うわぁまことに語呂が良い」


「ハーベストさん」


「貴方の物語は、貴方自身で掴み取るものなんじゃないかな」


「全力で楽しんで、笑って泣いて後悔して、高鳴る心を抑えないで時には間違って、そうやって日記は進んでいく。過去は変えられないけど……未来を書き換えられるのは自分でしかないんだ。定められた道筋を外れるもよし、平穏で退屈な日々を愛でるのもよし。時には立ち止まったっていい。灯りを手探りで探して、助けられて生きていく」


「やっぱり性格は神様になるんだね、僕と一緒だ!」


「なんだ、おまえー」


「あらら、触らぬ神に祟りなし」


「大志を抱け!ヒトの子よ!」


「Marvelous…………」


「いくら君達でも、そこから落ちたらひとたまりもない!」


「ばーい」


「ミソラカモイィイイイイイイ!!!」



ビルを翔ける車。


「もうちょっと格好いいペがすすはなかつたの?」


「時代に合わせて天馬も変態するのですよミソラ様」




「えっ」


「あは」


「制限時間は一日15分」


「たったそんだけ!?」


「全能感が一気に薄れるからすんごい怖くなるよねーわかるー」


「呑気なのと言ってるしー……仕方ない、か!」


「どうしよっか!ミソラ様!!」


「ええっ私ノートに書くだけで精一杯なのにーーー」



「撒いた……?」


「いーや、こんな簡単に諦めるってことは……」



「フォイエ!」


とばばーん!!!!


グレートカザンスティンガー、火葬。



「車は捨てよう。追跡機が付けられてたと思うし」


「こんのー口足らず!ダメだよカムイ君!」


「っはァーそれでこそミソラ様だ!行くよー」


「僕のレーダーがビンビンしてる……こいつ、天下総大に近い何かだ……!」



「略ッ!!!無頼剣!『陽恋』!!!」


円形の空気を波動として押し出し、空から招来した未知の斬撃をいくらか防ぐ。見えない切っ先が服を裂き皮膚を裂き、後ろに隠したミソラ様の方を向くと驚愕している様子。


「はい、致命」


「2人とも生き残る可能性は潰えたよね。じゃあ交渉のテーブルにつこうか」


「お前達を生かす必要はない……が、知ってる情報を話せ」


「日本国にきな臭い動きがある。貴殿等の情報が有用であればその時間は生かしてやってもいい」


「一刻も早く帰ってボス攻略を控えてるボクが猶予を与えてやってるんだ。無駄な時間を過ごさせたら、その時点で首をとる」


『倉科。『魔人』と出会ったら悪いことは言わねぇ、しっぽ巻いて逃げてこい。今後成長の可能性はあるが、今のお前らの太刀打ちできる相手じゃない』


「ーーーこんな話はいかがかな」


「全人類を消滅させる『ほしのこ計画』についてーー」


!??


「ーーーへぇ。」



「以上が『ほしのこ計画』の全貌」


「〜〜〜〜〜〜ッ馬鹿らしい!けれど現実的だ!成し遂げられる可能性は十二分にある!ああ、そうか『ほしのこ計画』か!センスあるね君!」


「回りくどい通り道!けれど着実な一歩だ!全人類が確実に救済されるルートはそれしかない!ーーー机上の空論ではあるけど『星片』の存在が理論を肯定している。素晴らしい!!!」


「でもそれ、日本国の野望じゃあないよね」


「いい含蓄になったよ。さぁ死のうか」


「君も最高だね!」


「人を貶め、打ちのめすのは簡単な事だよ。でも逆って難しくてね。でも逆の方が気持ちいいんだ!」


「故に私は人類を敬愛し尊び続けるんだ。相手が誰であろうと、そこにどんな過去と未来が待っていようと善の部分を愛し続けるんだ。悪性を無くすには善を信じ続けるしかないのだから。」


「カムイ君ーーー」


「大丈夫。こっちにはーーー」


「ぶぉおおおおおーっ!!!」


「暇人がいる」


「待たせてごめんなさい!重役出勤を許しなさい!おねいさん監督気質なの!」


「それなんてスーパーヒーロー?」


「全自動走行・防塵防滴防弾防熱全耐性マシマシMAX・全駆動パーツに私の頭脳。ミニナッシーがいるのよ!」


「デメリットは燃費の悪さとドル札が足りないこと!あと生け捕りは不可能だからそこんとこフォーサウザンドフォーナイン!」


「あれ?今日って私の星神バースデーじゃ…………」


「15分間エネルギー使い放題ビーム打ち放題!つまり〜〜〜〜〜〜ノーカラッキシ・ステータスってコト!」


「にゃはははは!どこに隠れても無駄無駄無駄無駄無沙汰無駄無駄無駄無駄!!!」


「決めるよ〜〜〜〜」


「『味気式』ストロジカルバイオティックリサーチソード」


「超高密度・八雲之レールガン」


「やっぱおねいさんはーーーーーー」


「てんさーーーーーいっ!!!!!」


上には上、雲の上の星があるということ、なのだわ。




八神君と工藤さんはいつもの如く喧嘩しっぱなしだけど、仲がいいんだなあってしみじみ感じる。


時計の針は、進む。













夢を見ている。

遠くで喧騒が聞こえる。

これは、星の記憶だ。


いつかのどこか、どこかのいつか。


私達の想像も出来ない星の上で、大きな戦争があった。死んでも死なない身体になった人類はそれでも争いを止めず、戦国の世は遠い未来でまた繰り返された。


『星の巫女』と呼ばれた少女は使命を持って星間超航海軌道を起こし、臣下に見送られながら故郷の星を巣立って行った。


ーーー全てを根底から覆すために。何億光年もの時を越えて。


私は知る事となった。この『星の欠片』が示す力の意味、そしてその行先が幸福な終末へと向かうための奇跡の力であることを。


一人の王と、八人の女中。














8時間前〜


「「「「「ジャンケンポン!!!」」」」」


「っくしょ〜俺も1人3万かかる純潔飯食いたかったぜ〜〜〜」


「で?誰が逃亡用のクルマ運転するのよ?天下総大のドライバーなんていたかしら」


「クルマは出すけど運転なんてしないよ〜」


「出すのは俺の私物だ。壊したらただじゃ置かないから肝に銘じておけ」


「」




「大丈夫」


「小宵に頼んで、彼が大大だ〜い好きな祖母様の声真似をして貰って、完全模倣でだまくらかしといてもらったよ」


「心を入れ替えた……ってとはいえ根は変わらないままだろうが、根まで腐っていないことを願おう」














「キミの行動がおねいさんの実験動物であるキミ自身を危険に晒したのだ。私にどれだけの恐怖があったと思う」


「生還できる可能性は限りなく低かった。キミは皆を奮い立たせる力を持つから他の皆は騙せてよかった」


「……………………よかった。心配をかけないで。倉科被検体」


「…………うん。ごめん」


恍惚も絶望も、全てが人を構成する因子。


「私は貴方ーーいいえ、『星の子計画』に忠誠を誓うよ」


その刹那。


『ほしのこ計画』完遂後の成果は。


「ス……………………テラ」


僕が会いたくて会いたくて止まなかった星の巫女は、


「誰じゃ?おぬしら」


全記憶を失っていた。







初めカムイは「ほしのこ計画」でステラと2人で過ごせればいいと思っていた。だがみんなと過ごしていくうちに、全員と共にいたいと願うようになっていた。




遠い遠い未来で人類を滅亡させ、カムイとステラだけが残り、星のカケラとステラの全世界を司る力で過去に戻り、あの温かい日々を取り戻そうって魂胆。


それが新たな「ほしのこ計画」だ。








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