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第6話 怒り

 古い動画で見た焚き火をするような薪に使える枝なんてどこにも落ちていない。大木の枝はしっかりと伸びていて、この枝をへし折るには電動ノコギリがいるだろう。

 仕方なく、ぱちぱち、と弾けて燃える焚き火の動画を観る。

 空に向かって昇る火の粉と、地を照らす橙色。不思議な映像だな、ずっと黙って眺めていられる。

『とても素敵な映像だと思います。落ち着くような、心が洗われるようです』

 AIみたいなのに心なんてあるのか? 微かに柔らかい声でなだらかに喋っているけど、不可解な存在だ。

 早くドクターFに会って、スマホから消してもらわないと。

「……」

 視界の隅に見える廃墟の集落。そこは今もゆらりと動く照明で屋根や壁を照らしている。

 多分、さっきの東方自警団だよな? もし例のロボットなら、もう何かを投げつけられているはず。

「ロボットが暴走なんて、初めて聞いた」

 ぼそり、そう零してみる。

『ジャパンはドイツランドと協同開発をしているようです。そのおかげで暴走というのは工場ロボットが稼働して五〇年、事例がありません』

 またどこかの情報を引っ張り出してきたな。

「で、お前なりの考えは?」

 期待せずに質問してみる。

『……暴走しているなら、お話をした方がいいでしょう、大人しくなるかもしれません』

 少し、俺は言葉を失ってしまう。決められた言葉がインプットされているとして、そんなメルヘンな言葉も組み込まれているなんて、開発者はよほどファンタジー世界に浸っているのか?

「本気で言ってる?」

『あくまで希望ですよ。暴力で全ては解決できませんから』

 はぁ、脳が混乱してくる。

 俺は動画を途中で止めて、空気が充填されたテントの中で寝袋に入り込む。

 真っ暗なテント内。俺はスマホを頭の近くに置く。

『おやすみなさい、真守さん』

「……最近のは、そういう機能も?」

『いえ、眠る時はおやすみなさい、起きたらおはようございます。挨拶は基本ですよ』

「はいはい、どうも」

 俺は、長くバイクに乗っていたせいか、眠りに入るのは容易だった。






『どうして……ドウシテ……ワカッテくれないノ?』



『真守さん、真守さん、起きてください。真守さん、何か聞こえます…………東方自警団に連絡します』


『すみません、キャンプをしている真守修斗です。近くで何か、変な声が聞こえます、もしかすると例のロボットかもしれません。至急お願いします』

「……んぁ?」

 重たい瞼、頭も重い。

『起きましたか真守さん。近くに例のロボットがいるかもしれませんよ。静かに』

 俺は欠伸を手で塞いだ。

『息を潜めた方がいいでしょう』

 分かってる。

 東方自警団に連絡を入れよう、スマホに手を伸ばすと、

『先程連絡しましたので、すぐ来るはずです』

 俺のスマホなのに、今回はまぁ、いいか。

 耳を澄ます。

『ヒドイ……ヒドイ……ユルセナイ……』

 なにか、片言だけど機会音声で喋っている。

『ぜんぶ、コワス』

 テントの近くで聞こえてきた。工場ロボットのヘッドライトがテントを照らし始めた。

「さすがに、逃げたほうがいいよな?」

『逃げてはいけません。飛び出して、スマホを翳してください』

 反対している余裕はなくて、俺はピストル型のスタンガンを右手に掴んで、スマホを左手にして、テントから飛び出した。

「うあぁあああ!!」

 ほぼ同時に、テントが浮かぶ。

 片足が引っ掛かって、前転してしまう。

 四つん這いで進みながら立ち上がって振り返れば、骨組みで二足歩行のロボットが二本の指でテントを掴み、空高く持ち上げている。

『真守さん、スマホを翳してください』

「え、いや、でも」

『真守さんの大切なバイクが壊されるかもしれませんよ』

 くそ、バイクがなくなったらもう終わりだ。俺はやむを得ずスマホをロボットの前に翳した。

『こんばんわ、私はしーちゃんです。何かお辛いことがありましたか? 良ければ私に聞かせてください』

 明るい声で、工場ロボットに話しかける。

 テントを持ち上げたまま止まった工場ロボットは、ヘッドライトを俺に向けた。眩しすぎて俺は顔を逸らしてしまう。

『しーちゃん……? ウソ、ウソよ、ワタシが……しーちゃんよ。アナタは、ナ』

 工場ロボットは声を失う。閃光のような眩しい火花が散る。咄嗟に俺は腕で目を覆い隠す。

「おーい少年、大丈夫か!?」

 この声は、東方自警団の髙木さんだ。

 工場ロボットは電撃でもくらったかのように骨組みをガクガクと震わして、足から崩れていった。

『ユル、サナイ、ユルサナ、イ……』

 異様に耳に残る言葉を発したあと、さらにヘッドライトが火花と共に吹き飛んだ。

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