エピローグ1 そこへ
『やぁーやぁ修斗君!』
もう何回聞いた挨拶だろう。直接会うことは滅多にないが、こうして連絡を取ることが多い。
スマホの画面に映るハリネズミの髪型は相変わらずだ。
「また変な植物から燃料になる物を採れって?」
真っ黒に塗装された電動クルーザーバイクに少し凭れ、俺は肩をすくめた。
『いやいや今回はそんなものではないよ、今、どこにいるんだの?』
俺は周囲を見渡した。
中心に建つ一八七七~一八七八と刻まれた記念碑と、それを囲むように円を描いた憩いの広場がある。緑の葉がついた木が外側に植えられ、建て直している最中の建物と、再舗装された道路。
鼻が高く、薄い目の色をした人々が時折俺をちらりと覗き見しながら通り過ぎていく。
「ソフィア。ドクターの依頼をこなしていたらもうブルガリアまで来た」
『おぉ、グッドタイミング! 実は今ドイツランドの研究所でバイオ燃料の研究中でな、一緒に食事をどうかね?』
「そう簡単に言ってくれるけど、ここから一時間ってわけじゃない。それに国境を超えるんだ、結構かかる」
『いいさいいさゆっくりおいで。私もまだまだドイツにおるで。いつも走り回ってもらっている君にサプライズをしたいんだ』
サプライズ……言ったらサプライズじゃないだろ。あと凄く怪しい。
「どうも」
『相変わらず冷たいのー、縁ちゃんといい勝負しとるよ』
「……」
『冗談じょーだん、新しい助手くんが来たもんで、せっかくだから親睦会を開こうと思ってな。縁ちゃんも来るし、おいで』
「行けたら、行く」
『それは来ない奴の台詞と相場が決まっとる。マインツだからの、地点を送ったから、ちゃんと来るんだぞい』
「あぁ……」
通話が終わる。
画面が暗くなり、俺は目を細くさせた。反射した俺の顔は、銅像のように硬く、鼻で笑うこともできない顔だった。
剃っていない髭が伸び放題、髪もぼさぼさで長くなっている。
髪は鬱陶しいから定期的にハサミで切っているが、髭までは気にしていない。
クルーザーバイクに跨り、余裕で足がつく。
ホルダーに固定したスマホは最新のシステムが導入されている。
電源スイッチを押せば、静かにモーターが動き出す……――。