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第2話 うるさいスマホ

『間もなく、目的地に到着します』

 なだらかに、感情なく話す女性の声が久し振りに聞こえてきた。

 バイクの電気残量も少ないし、良かった。

『ホテルに泊まることもできます』

 ついでにと検索されたホテルの名前が地図に浮かび上がる。

 一体このAIみたいなのは何だろう、しーちゃん(自称)というらしいが不気味すぎる。

 アプリじゃなければウイルスでもないし、エラーでもない。当然答えはでない。

「はぁ……」

 静かな電子音で、誰とも対向することのない道路を進んでいくと、前回と同じような家電の山が見えてきた。

 トーキョーに比べたら大した量じゃないよな。俺が住んでいたG地区は金持ち共が捨てたジャンク品で溢れかえっている。

 骨董品ともいえる電化製品の山を、徐行しながら眺めていると、人影が見えた。

 右手と右足でブレーキを踏んで、ゆっくり端に停める。ジェットヘルメットのシールドを上げて目を凝らす。

 使われなくなった自動販売機が外側に置かれていて、そこに銀に輝く右腕をもつ誰かがいた。

『最近電化製品の雪崩に巻き込まれて亡くなる子供が多いようです。ネットニュースに掲載されています』

 勝手にスマホの中を探られているみたいで気持ち悪いな。 

「あーうん……あのー」 

 俺はバイクから降りて、自動販売機の前にいる人物に声をかけてみた。

「っ?!」

 右腕を隠すように左手で覆う、おさげの女の子だ。

「ご、ごめん。あーえと、ジャンクが山積みになってるだけだから、ちょっと当たれば崩れるよ。危ないから離れた方がいい」

 よく見れば、右腕は義手で、鋼鉄のような金属で作られた精巧な物。肘や指の関節までしっかり作り込まれている。

 俺を睨み、一歩寄れば、向こうは一歩下がっていく。

『きっとこの方は親切な方ですよ!』

 明るい声がどこからか聞こえた。

 俺が持っているスマホじゃないのは確かだ。

「え、誰の声?」

「なんでもない!」

 女の子は俺の背中を押して、電化製品の山から遠ざける。

 亀裂の入った道路まで戻され、ようやく手が背中から離れた。

 女の子は上着を羽織り、右腕は袖で、右手は白い手袋に隠れて見えなくなる。

「お兄さんはこの町に何の用? もしかして移住とか? どこから来たの?」

 怪しむように俺を見上げ、色々と訊いてくる。

「バイクの充電に。それが終わったらすぐ出るつもり」

 すぐに出る、俺の返事に女の子は頷く。

「そ、私の腕、誰にも言わないでよ。あと、あの機械に近寄らないで。あれは私が見つけた部品だから」

「わ、分かった」

 同業者か、それ以外でこんなところわざわざ来ないよな。

 自販機は企業の所有物、古くなったり故障したりしたら企業に回収されるはずだ。

「あのさ」

「それじゃ!」

 俺の疑問は意味なく、手を振り町へと帰っていく女の子の背中に、俺は肩をすくめた。

『真守さん』

「……」

『真守様』

「……」

『修斗さん、聞こえていますか?』

「……聞こえてるよ」

 あんまり喋りたくない。誰かにこんなところ見られたら恥ずかしい。なるべく小声で返事をしよう。

『お願いがあります』

「なに?」

『先程の飲料自動販売機の所まで戻ってください』

「さっきの子の話聞いてた?」

『はい。ですが、必要なことです』

 少し唸ってしまう。いくらなんでも今さっき女の子が言ったこと無視するわけにはいかない。

「……後で、今はとにかくバイクの充電をさせてくれ」

『分かりました。ですが、出発前に飲料自動販売機に行くことを推奨します』

 推奨って……。

 静かに電子音を鳴らしているバイクに跨り、スマホはポケットへ。町の中に入り、充電コーナーを探す。

 隅に追いやられた場所に白線が引かれ、自動車二台分の充電できるスペースを見つけた。

 向かい側には町のサービスセンターがあり、開きっぱなしの自動ドア。カウンターに足を組んで乗せ、スマホをいじる店員の姿がよく見える。

 外を歩く人は少ない。だからといってロボットが警備をしているわけでもない。

 トーキョーは地区によってロボット警備がいたから、富裕層が住むA地区に行こうと思えば悪いことをしてなくても止められてしまう。

 リュックから充電用のコードを取り出しながら、故郷の景色を思い出す。

 バイクに直接コードを繋げて、充電器にも差し込む。

 財布を覗き込みながら、俺は苦く顔を歪めさせて、充電器の投入口に小銭を数枚入れた。

『充電を開始します』

 充電を始めるアナウンスと共に、赤いランプが点く。

 充電完了まで十五分か……サービスセンターに行って、このスマホについて訊いてみよう。

 ヘルメットをハンドルにかけ、俺は車も通らない道路を跨いでサービスセンターに向かう。

「あーいらっしゃい」

 店員は俺の存在にすぐ気付いて、カウンターから足を下ろした。

「あのー」

『飲料自動販売機とスマートフォンを繋げるコードをお借りできませんか?』

 俺の言葉を遮る女性の声。鏡を見なくても分かる、俺は今苦い顔をしている。

「……自販機につなげるコード? 中のシステムをいじっても何もないと思うけどなぁ、まぁコードあるし、レンタル料取るけどいい?」

「じゃあいら」

『いくらでしょうか?』

 俺の顔がさらに歪む。

「一時間五〇〇円です」

 充電より高い……。

『真守修斗様』

 フルネームで呼ばないでくれ。

「……俺のスマホなんですけど、異常ないか見てくれませんか?」

 レンタル料を払う前に、とにかくこの謎のAIみたいなのを排除してほしいもの。

 スマホをテーブルに置けば、店員は目を丸くさせた。

「これはまた骨董品を。お客さん、失礼だけど、男なの、女なの?」

 決して女顔じゃないはず。

 このご時世、性転換なんて常識の範囲に収まりつつあるけど、間違いなく俺は男だ。

「男です! そんなことはどうでもいいんで、スマホを調べてください!」

 別に店員に怒りたいわけじゃない。ただ、スマホに住み着いて自由に喋るこいつにイライラしている。

 俺の大声に驚いた店員は急いでスマホを奥へと持っていった。

 あぁ、もう、全て終わったらさっさと町から出よう……。

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