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第24話 ヒト

「ロボット?」

 自警団は俺のオウム返しに頷いた。

「そ、ネット記事に載ってる。トーキョー近郊にある工場でまさに映画のようなロボットの暴動が起きたってさ。工場長は病院送りにされ、今も何台かロボットが逃走中とのこと……それで自警団も各地をパトロールしているんだ。多分そのロボットに不意を突かれたんだろう」 

 担架で運ばれていく男は仲間と共にワンボックスカーに乗って真っ暗な道を走っていった。

 ロボットか、思い出すのはヘッドライトが眩しい骨組みの工場ロボット。あの二又の手で物を掴み、怒りに震える声が頭に響く。

 テントに戻って小型ドローンにもう一度声をかけた。

「お前は、工場ロボットなの?」

『…………』

『真守さん、あの、少し時間を空けた方がいいです。答えにくいことかもしれません』

「はいはい」



 早朝、

『真守さん、真守さん、朝です起きてください』

 中古スマホから聞こえた柔らかい女性の声に起こされる。

「う、うぅ……あぁー」

 朝はうまく声が出ないけど気持ちは、おはよう。

『おはようございます。分裂の子はもう起きていますよ』

 そもそも眠ることってあるのか?

 キャンプにも慣れたかと思っていたけど、宿の布団に一瞬で慣れを奪われてしまったようだ。

 痛いし、あんまり眠れなかった。

 寝袋から這い出て、俺はゆっくり体を起こす。

 テントの外は小さなボロボロの公園。フェンスはぐしゃぐしゃに、遊具は土から剥き出しに倒れ、錆び切っている。

 さらに外側は、緑のない廃墟の建物やひび割れた舗道と機能していないへし折れた信号機。

 山は枯れた木もない薄橙の土が露出している。

 世界は終わった。そんな気分になるほど誰もいない。

 例の小型ドローンは一切喋らず、

「おはよう」

 挨拶しても反応してくれない。

 念の為、俺は小型ドローンを抱えて、昨晩と同じように色んな角度から観察してみる。

『どうしたんですか?』

「いやぁ、スタンガンでもついてるのかなって」

『疑っているんですか…………』 

 悲しみ暮れながら分裂は声を震わす。やっと口を開いてくれた。

「落下して衝突したんじゃなくて、スタンガンで痺れさせたんだろ? 自警団の人は救助されてもういない、誰も咎める奴なんていない。だから教えてくれ」

『怖がらせてはダメですよ、真守さん』

 同じ声の奴らに挟まれ、俺は肩をすくめる。

 小型ドローンをキャリアの上にロープで縛って積み、真っ黒なクルーザーバイクに跨った。

 ジェットヘルメットよし、グローブとブーツも緩みなし、俺は頷く。

 ハンドルブレースに取り付けてあるホルダーにスマホを固定し、行先の地点を入力。

 裸の山道へ。モーターを始動させると、静かな電子音が響いた。右ハンドルを捻れば、一気に加速。 

 枯れ木のない、土砂を塞ぎきれず崩れたコンクリートブロックと土が溜まっている場所が目に留まり、一旦止まる。

 崩れたブロックをイス代わりにして、腰掛けている誰かが何か四角い物を握りしめている。

 キャップ帽子を深くかぶり、コートとズボン、大きなブーツを履いて、白い手袋。

 その周りを囲むように、工場ロボットが数台、電線を剥き出しに倒れていた。

 一部が完全に破壊されていたり、黒焦げになっていたり、と悲惨な現場となっている。

『友達になれると、思っていたの。わたし……仲良くできると思って、声かけたの』

 悲しそうな少女の声は、ドローンではなく謎の人物から聞こえた。

「友達?」

 バイクから降りて、俺はスマホを片手に近づいていく。

 よく見れば四角い物はドローンを操縦できるパッドだ。まさか、こいつが小型ドローンの操縦をしていた分裂?

『でも、いきなり撃ってきたの……容赦なく皆を』

 キャップ帽子の鍔が上を向く。

 鼻がある。目も、口も、顎も、耳も、俺は驚いてしまう。

 今度は鍔が俺の方へ。

 右側の目の部分だけが欠けて、内部の線から電流が漏れている。左目は蒼く、顔つきは外国人のよう。

『……助けてください……』

 悲痛な訴えだ。

「ど、どうしたら、いいんだ?」

 助けたいけど、繋げていいのか? 漏れのないように回収しないと、そうドクターFから依頼されている。

『寂しい、悲しい、辛い、お願い、助けて』

 声が震えているのに、表情は変わらない。

 リュックから充電用コードを取り出して、俺はゆっくり、ブーツで土を削りながら近寄っていく。

「自分が分裂なのは分かってるか? 回収されて一つにならなきゃいけないってことも」

『真守さん』

 俺の名前を呼んで止めようとするスマホからの声。

『お願い……助けて、わたし…………泣きたい』

 ロボットは、喉が詰まりそうな声で助けを求めている。

 泣きたい。それって、つまりそういうことだ。

「いいか? こいつの願いを叶える為に、繋げる」

 コードを握りしめて俺はロボットの充電用ソケットに手を伸ばす。

『ま、まだ待ってください!』

 俺は繋げる寸前で手を止めた。

『心の準備ができていません。また不快な思いをしないといけないのが、とても、嫌なんです』

 手にいるスマホは、画面を荒らして、落書きのような映像が映らなくなる。

「俺がいくらでも聞いてやる」

『……ですが』

「泣きたいって、どういうことか分かるか?」

『……分かりません』

「お前と一つになって人間に戻りたいんだ」

 荒れていた画面は徐々に落ち着き、眉を下げた落書きが浮かび上がる。

 俺はゆっくり、ソケットにコードを接続する……――。


『ありがとう……』


 悲しみから解放されたかのように、優しく感謝をする声が、聞こえたような気がした。

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