表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

第19話 情けない奴

 ヤイズ宿に戻れば退屈そうに頬杖をつく女性と、作業着の男が、いた。

 金色に染めた短い髪、細身の男はカウンターに身を乗り出して、

「頼む! 一晩だけでいいんだ!!」

 女性に何かをお願いしている。

 女性は怪しそうな表情で男を睨むだけで何も言わない。

『痴話げんかでしょうか?』

 なにも理解していないのに使う言葉が中古のスマホから聞こえてきた。俺は軽く画面を叩いてポケットにしまう。

「おかえりなさいませー」

 俺に気付いた女性は男を置いて、顔を入口に向けて出迎えてくれる。

「話聞いてくれよ! ホント、頼むから!!」

 手を合わせて拝んでいる男。

「どうしたんですか?」

「お客さんとは無関係だから大丈夫。気にしないで」

 女性は苦笑いを浮かべた。

「な、なぁアンタ頼む! 少しだけ部屋に入れてくれ!」

「え、えぇー」

「ちょっと他のお客さんを巻き込まないでくれる? アンタ昨日不法侵入したんだから、それを忘れないでよ」

 強めに注意された男は悲しそうに俯いて、再びカウンターにかじりつく。

『何がありましたか?』

「し、しーちゃん……やっぱりどんなしーちゃんも俺の話を聞いてくれるんだな、ありがとう」

 涙目で俺の中古スマホに向かって感謝を漏らすが、俺は話を聞くなんて一言も……。

 作業着の男に半ば強引に路地裏へ連れられてしまう。

 室外機や露出した太い配管がある路地裏で、男はしゃがみ込んだ。少し気分が悪そうに、

「仲間がチクって違法ジャンクを売りさばいているのがバレてさ、今Nゲート地区の企業共に監査が入ってる」

 つまり、企業とつるんで解体処理を引き受けていた、と。俺は同情と諦めの息を吐いてしまう。

 屋台でジャンク売りの二人が重く話していたのはこのことだったのか。

「じゃあもう新しい仕事とか、できなくなる感じ?」

「そうなんだよ! 捕まったらもう終わりだ! 牢屋にぶち込まれる!!」

『そうですか。ですが違反なのですから、罪を償い、新しい人生を歩むべきです』

 柔らかい声だけど、言葉は冷たいような前向きなような。

「し、しーちゃん……やっぱり別人か。俺のしーちゃんはそんなこと言わない」

 同一人物だけどな。

「町から出るとかは?」

「無理だ、絶対ゲートのカメラ認識で引っ掛かる。すぐに特定される。どうあがいても逃げられねぇ」

 そんなに厳重ならただの旅人には何も手助けなんてできない。できることは、

「捕まる前に彼女さんと話をしたら?」

 そんな助言くらい。

「ぐ、ぐ……そうなんだけど、SCに入った途端捕まるかもしれないだろ」

『真守さんがサービスセンターの方に話をすれば快諾されるかもしれません。試す価値はあります』

「しーちゃぁぁん」

 なんでこんな奴を好きになったんだ? あの分裂は……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ