第18話 呑気な旅行
次の町、行先を考えておかないとな。
Sゲートの雑多な地区で、俺は屋台のイスに腰掛けている。目の前には大豆肉の串焼き二本。濃厚な甘辛いタレが塗りたくられ、両面に焼き色がついている。
本物の肉みたいに食感と味が同じって聞いたことがあるけど、本物を食べたことがない。
俺は大豆肉の串焼きを食べながら、次の行先を考える。
「兄ちゃん、ラーメン食べないの? 自家製だぜ?」
店主は腕を組んで不思議そうに訊いてきた。
「あー……その、お金ないんで」
「なら試食してくれよ、旅の思い出に」
そう言って、店主は小さな丼に、少し濁ったスープと弾力がありそうな黄金色の細麺を少し分けてもらった。
「え、いいんですか?」
「おう。その代わりたっっぷり宣伝してくれよ」
「ありがとうございます!」
優しい店主さんだ……。
あとでサービスセンターに行って宣伝しよう。
『写真撮っていいですか?』
「おぅ、んぅ?」
店主は自分の耳に一瞬首を傾げたが、何事もなかったかのように調理を続ける。
俺は肩をすくめ、スマホのレンズを試食品の丼に向けた。シャッター音はなく、静かに写真が保存されていく。
撮り終えたかどうか分からないまま俺は試食品を啜る。
ゴムみたいな食べ物と、お手軽インスタント食品の味が染み込んだ俺の舌に、未知の味が乗っかり、俺は思わず手が止まってしまう。インスタントでも美味しいとか思ってたけど、段違いすぎる。
「おっちゃん自家製ラーメン二つ」
狭い屋台、三人入れば窮屈な場所に二人が入ってきた。作業着姿で、多分、昨日自販機を運んでいた奴らだ。
「クソ、監査だってよ」
「最悪だ。誰だよ、チクりやがったの……」
顔色悪く、声のテンションが重い。
急に居づらくなってしまい、味を噛みしめる暇もなく喉の奥へと流し込んで、店主に感謝を零して屋台から飛び出した。
『先程の方は、昨日の違反者でしたね』
「まぁ、そうだと思う……」
『金髪の方はいませんでしたが、ご用事でしょうか?』
「そうなんだろ。あんまり関わりたくないから別の地区に行くぞ。Nゲートってどんな地区?」
『Nゲート地区は……どうやら色んな企業が集まっている場所のようですね。きっとロボットがたくさんいるのでしょう』
「じゃあ却下、骨組みだらけのところはゴメンだ」
工場ロボットの眩しいヘッドライトが頭に浮かんでくる。俺の大事なテントが壊された苦い思い出。ていうかテントどうしよう。本当に売ってないのか?
昨日買い出しに行ったWゲートにもう一回行ってみるか……。
閑静な住宅街とテナントが並んでいる通りに『シズオカマーケット』とは別にリサイクルショップがあった。
小さいテナントで、店の入り口にはジャンク品が散らかっている。
『なんだか他とは違う雰囲気がある、ような気がします』
俺の手の中にいる中古スマホにどんどん写真が保存されていく。
「そんなに撮ってどうすんだ?」
『次いつ来られるか分かりませんから、記念です』
俺は呆れて鼻で笑う。
扉を開ければ、最新の電化製品にも適応できる部品や、中古の機械類がぎっしり。
真っ直ぐ進んだところにレジカウンターがあり、店員は小さな箱のような機械を睨んでいる。
「あーいらっしゃい」
俺を少しだけ見て、また機械に集中。
『……サ、ター、で――パソ、こう』
店員が持っている機械から途切れ途切れの音声が聞こえる。ラジオ、だろうか。
「あぁクソ、肝心なところが聞こえねぇ。なんだこのオンボロ」
客がいてもお構いなしに愚痴を漏らしている。
「あのーすみません」
「なに?」
半ギレ気味に返ってきた。
「テントとか、そういうのって扱ってないですか?」
「は? テント?」
怪訝な表情を浮かべている。
「はい」
「そんなの見たら分かるでしょ。ないよそんなの。キャンプとかいつの時代だよ……よそを当たってくれ。多分よそでもないだろうけどな」
軽くいなされて、追い払うように手をひらひら、と動かしてくる。分かっていたけど、腹が立つ店員だ。
結局リサイクルショップを出て、他のテナントを見てみたけど、アウトドアとは無関係な店ばかり。
『どこにもテントはありませんね。野宿の時は廃墟の家を借りて寝泊りするのも良いと思います』
「いやいや、ああいうところは変なのが居座ってんだ。そんなのに巻き込まれたくない」
『親切な方かもしれませんよ?』
なんでそういうところは自販機の感情が優先されるんだ……。