第15話 ジャンク売り
シズオカ416、ここまで大きな町はトーキョーに次いでかもしれない。他の町は、ただの拠点みたいだった。
Sゲートと呼ばれる地区は雑多な感じで木造の建物に寂れた看板が飾られている。
簡易的に作られた屋台で、何か甘い香りを漂わせている鉄板。あまり見たことがないようなジャンク品を扱う屋台もある。
俺の足がふいに止まったのは、湯気を外にまで漂わせ腹を空かせるような香りが鼻に入ってきた屋台だ。
ずるずる、と音を立てながら食べている客の背中が三人分、同じ作業着姿で仲良く並んでいる。屋台の店主は髭を顎に蓄えて貫禄ある顔つきだ。
でかい銀の鍋から湯気が立ち、何かを沸かせている。
『この変な音はなんでしょうか?』
ポケットから聞こえた女性の声に俺はすぐに叩いた。周りを見てみるが特に反応は、なさそう。屋台で座っている一人が少しむせ込んでいるぐらい。
『写真撮りたいです。こんな機会滅多にないんですから、撮らせてください』
「……」
『撮りたい撮りたい撮りたい撮らせてくださいー』
あぁもう、うるさい。
俺はうるさいスマホを取り出し、レンズを屋台に向けた。すると、音もなくシャッターを切り始める。
『まも』
「喋るな」
俺は小声で注意。それからSゲートを離れてWゲートの方へ。
ぶらつく以外にもちゃんと目的はある。町を出たらまた野宿が続くだろうし、食料とガス缶を揃えておきたい。買うとしても、いつものようにインスタント食品だけどな。
Wゲートの地区は比較的閑静な雰囲気がある住宅街と、テナントが並ぶ。
『シズオカマーケット』と七色の光を放つ液晶パネルがある、この町の住民が買い物をしている食料品店のようだ。
棚に陳列されたインスタント食品の他にペーパーボトル飲料コーナー、冷凍野菜と大豆肉が並ぶコーナーもある。
買い物客が多く、よそ者の俺を通り過ぎるついでにと横目で覗いてくる。
気にせず俺はカゴにインスタント食品を入れていく。
『なんだか栄養に偏りがありませんか? 作った方が栄養面にもいいですよ』
「だーかーらー、黙ってろ」
こいつに喋るなっていうのは無理みたいだ。
独り言でも呟いているのだと思った他の客は俺を避けて足早に去っていく……。まぁ、別に、いいんだけどさ。
「そんなに珍しいか?」
『もちろん、不思議です。食品が並んでいる景色なんて画像でしか見たことがありません。残念なのは、味や匂いが分からないことですかね』
「ホントに、記憶ないのか?」
『……お二人の感情は共有できましたが、記憶はなにも。きっと端末にいる彼女がヒントを持っているかもしれません』
確かに、パソコンの端末にいる分裂は色々と知っているみたいだ。あまり言いたがらなかったが、明後日には分かるはず……。
これでこの先しばらくの食料は大丈夫だろう。大丈夫じゃないのは財布ぐらいか。
雑多なSゲート地区に戻ると、ゲートの隅に寄せられた廃棄所のような場所が目に入った。電化製品が乱雑に捨てられ、軽く山を作っている。
いわゆるジャンク品だ。解体して部品を集め、それを海外に売り払って生計を立てていた少し前の俺を思い出す。
擦り切れて使い物にならないグローブをはめてジャンク品を漁り、僅かなお金を握りしめて、味のしないゴムみたいな物食べて、寝場所を探していた。
もうあんな生活には戻りたくないのに、懐かしさというのが胸を躍らせて、軟化された思い出が頭に浮かぶ。
ヤイズ宿に戻る前に、廃棄所に寄ってみる。
「おい、それを運ぶぞ、慎重にだぞ、慎重に」
「分かってるって」
「そっちこそ落とすなよ」
作業着の男が三人、声をかけあいながら大きな電化製品を運んでいる。多分、ジャンク売りだろう。
俺は三人から隠れるように身を屈め、壁に凭れる。
「人間みたいに喋るロボットがいるって話知ってるか?」
運びながら世間話をしている。
「あぁーなんかネットでも書き込みあったな。工場ロボットが身投げみたいに岩から落ちたとか」
「どこかの山で夜な夜な人形がすすり泣くっていう話とか」
「ちょいちょい、そんなの聞いたら眠れねぇじゃん」
お気楽で大した中身のない会話に俺は肩をすくめてしまう。
『真守さん、あれ自動販売機ですよ!』
まずこいつをジャンクにできたらいいのに、声が辺りに響いてしまった……――。