第10話 小さな協力者
「そいじゃ、しーちゃんのこと、頼むよー」
ハリネズミのような髪型をした背丈の小さい男性、ドクターFからカードを貰う。
『SCプレミアム会員証』と表記された薄いカード。九桁の番号と俺の名前が刻まれている。
「はい。何か探しやすいヒントってないですか?」
たまたま、しーちゃん、っていうAIみたいなのが俺の行く先にいたから良かったけど、探すってなるとジャパン全てはなかなか骨が折れる。
「うーむ、しーちゃんはネット内に入り込んでいる。もしかするとSCのネットに繋げば見つかるかもしれんな。あとはやたら人のように喋る子がいたら、間違いなくしーちゃんだろう」
ネットってジャパンだけじゃなく世界中に広がっているのに、探せるのか? 年内で集められるかどうかも怪しい。
俺はポケットに入っているスマホを布越しに触れる。
「……こいつは、AIなんですか?」
ドクターFは優しく笑う。
「AIなんてもんじゃないさ、残念ながらしーちゃんにも今は言えん。彼女の記憶と感情が全て集まった時、思い出すだろうよ」
分かったのはAIじゃないってことだけか……。
ジェットヘルメットをかぶり、スマホをホルダーに付けて、緩んでいないか確認。グローブとブーツも問題なし。
「おぉそれとそれと、バイクに新たなバッテリーを積んだから、数ヶ月は充電しなくても走れるぐらい最強だぞ。それなのにコンパクトで運びやすい代物、私の自信策ね!」
自慢げにクルーザーバイクの心臓部を触る。俺が必死になって組み立てたバイクに、ドクターFがたった数十分で改造してくれた。
「マジで? 凄い……ありがとうございます」
「いいってことよ。修斗君の相棒だからな、大切に使いなさいよ。この旅が終わる頃には私が開発中のバイオ燃料搭載のエンジンにカスタムしてやるでな、楽しみにしときなさい」
バイオ燃料……電気とは違う、燃料を入れて動かすんだ。あの古い動画みたいに轟くエンジン音、それとマフラーを震わせて走るんだろうか? なんだか胸を擽られる。
『私も見てみたいです。とても楽しみですね、真守さん』
スマホから聞こえた声に、ドクターFは柔らかく笑みを浮かべた。
「ま、その為に頑張るか」
『よろしくお願いします。私も、自分のことを知りたいと思います』
スマホは勝手にマップアプリを開ける。
行先はとりあえず次の町、俺が調べなくてもルートが示されていた。
「あんまり好き勝手にいじるなよ」
『探す手間が省けますよ。余分なことをしてもらっているのですから、できることは手伝います!』
やる気に溢れる声が、俺を呆れさせる。
「はぁ……」
バイクに跨って、スイッチを押せば静かに始動。
「それではよろしく、なにかあればいつでも連絡をくれい。フィールグリュック!」
何語だよ。
「ども」
『ドイツ語のようです』
また勝手に検索してるし、別にどうでもいい情報。
右ハンドルを捻れば、すぐに加速し、バイクは山なりの道へと飛び出した……――。