どこか遠くに図書館が
昔、おばの書いた詩を読んだことがある。
たくさんの大学ノートに綴られた、恋の詩。
子供のわたしには恋の言葉はよくわからなくて、恋の熱量も物語でしか知らなくて、それきり開くこともなかったあのノート。
きっと世界にはたくさんのノートがあるのだろう。
綴られることなく消えていった言葉も。
どこか、世界の果てか、宇宙の果ての向こうか、もしかしたら次元の彼方に図書館があって。
そこでは次々と新しい本が生まれるたびに蔵書が増えて。
その中にはひょっとしたらおばのノートや誰かのノートや、わたしのノートがあって。
パソコンの中やネットの中で取り出せなくなって忘れられていったデータもあって。
そしてそれらは誰にも読まれることなくひっそりと図書館の棚にしまわれる。
でも、きっと。
その図書館を作った神様がいて、その神様はわたしやおばや誰かの書いた何かを、世間では価値がないと捨てられる何かをきっと大切に保管して、時々は手に取って、眺めて、読んで、味わって、そして満足の吐息とともにまた大事にしまう。
きっと、どこか遠く、誰もたどり着けない図書館で。
打ち捨てられる文字たちが。
あの日のおばのノートが。
わたしたちの言葉が。
たとえ綴られることがなくても。
たとえ誰にも読まれることがなくても。
たとえ価値がないと一顧だにされなくても。
きっと、どこか遠くの図書館で。