↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪歯羽尾ッ駆とアリスの宇宙戦争  作者: ゼン。
プロローグ
PR
1/1

恥真離(ハジマリ)

 靴箱を開けると、そこには汚く濡れた上履きがあるものだと思っている。だから私は靴から靴下へ、何か水分が染み込んでくる感覚にいちいち驚いたりはしない。それでも今日、いつのまにか迷い込んだ森で同じ現象が起こったとき、驚きのあまり声も出せなかったのは、目の前にこの世のものとは思えないナニカが居たからだ。ナニカはゆっくりと振り返ると、すでに半開きの口を大きく開ける。


 「え?人間!?居るなら言ってくれれば口閉じて歩いたのに〜!!」


足の裏に感じる水分は、どうやらこのナニカの唾液らしい。



 なぜこんなことになったのか振り返ってみる。本日未明、いつも早起きな私はなんとなく学校に行く準備をしていた。つい最近までうるさくセミが鳴いていた気がするのに、スマホのロック画面には「11月」と表示されている。長い間引きこもっていれば時間の感覚がおかしくなるのも当然だ。鏡を見て、自分の顔を確認する。


 「夢の中では生えてたのになー」


鏡の中、口を動かした彼女には髪の毛というものがない。脱毛症だ。私の場合は特にひどく、完全にツルツルである。ウィッグを被り、朝ごはんでも作ろうかとキッチンに立ったとき、奥の部屋から乱暴な足音がこちらへ向かってきた。


 「今日は学校、行くのか?」


目の前が揺れる。できれば「学校」という言葉を口に出さないで欲しい。


 「うん、今日は調子良い気がするから」


特に反応もせず、足音は奥の部屋へ戻る。あれが私を作った2人のうちの1人らしい。朝ごはんを食べて30分くらいスマホをいじったら家を出る時間だ。なぜ、今日、学校に行く気になったのか。それを考えることもないくらい、なんだか気分が高揚していた。



 靴箱を開けると、今日の上履きは濡れていない。まぁ、そりゃ私が休んでる間はいじめもお休みですよね。ちょっと久しぶりに学校に来て、とても久しぶりに濡れてない上履きを履き、階段をのぼる。すでにほとんどのクラスメイトが揃っているらしく、廊下まで騒ぎ声が聞こえてくる。いつもは震えるはずの手が、今日はなぜか震えていない。今日はうまく行く気がする。そして、教室の引き戸を開ける。教室のざわめきが一瞬で消え去り、3秒後、


 「え?休んでる間に髪の毛生えてきたの!?」


爆笑の渦。呑み込まれる。


 「いやいやカツラだろ?」

 「本物かもしれないじゃん!」

 「じゃあ、試してみる?」


男子2人が私に近づいてくる。抵抗する気力もない。


 「せーのっ!」


ーーそこから先はあまり覚えてない。結局、今日も学校に行くことは出来なかった。なんで今日は行けるって思ったんだろう。少し軽い気がした体が、頭に血が上っているせいかもっと軽く、フワフワしている。別に悲しいわけじゃないさ、だって元から期待してなかったもん。涙に成ることができなかった感情が頭の中でグルグルしている。朝の高揚感もすっかり冷めきり、とぼとぼと家へ帰る。今現在の時刻は8時30分。今帰れば、仕事に行く準備をしている父親はきっと諦めたような目で私を見るだろう。


 「帰りたくないな……」


私は父親が家から出て行った後に家に着くように、少し遠回りをすることにした。いつもの通学路を外れ、道行く人に見られるのも嫌だったので、人気の無い、森の方へ進んでいった。雨は降っていないのに、ここら一帯だけ、大きな水たまりが一列に並んでいる。不思議に思った私はやたら粘度の高い水たまりの列を辿っていった。そして、今に至る。


 「え、もしかしてお靴濡れちゃった?すぐ変えを用意するからついてきて!!」


ナニカが近づいてきて動けない私を担ぎ込んだ。ついてきてと言っておきながら、お前が運ぶんかい。と言うつもりだったが、恐怖のあまり、


 「つ……ぉ……」


という呻き声にしかならなかった。もちろん失禁している。恐怖と、ナニカのロケットのようなスピードのせいで、私の意識は徐々に薄れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。