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序章 1-1

日が登り、鳥達が朝の訪れに喜び歌う頃、この物語の主人公である空狐くうこそらも目覚めようとしていた。


朝が弱い彼女は、布団の中で伸びをし2・3度コロコロと寝返りをした後、何とか布団から脱出することに成功した。


「ふぁ、眠いですわ」


ノロノロと水瓶から水を掬い、木桶に水を注ぎ顔を洗った。


水が思いの外冷たく、尻尾の先まで震えてしまった。


「う〜、冷たい。⋯⋯いえ、これも修行ですわ!」


気合いを入れ直し、再度顔を冷たい水でジャブジャブ洗った。




彼女の住まう国は『くに』と言い、神に仕えるべく八百万やおよろずの者たちが住み、日々修行を重ねている。


その中で神通力じんつうりきに長けた狐を空狐と言う。


更に強力な神通力を持った狐を天狐てんこと呼んだ。


天狐は神と直接会うことが許された特別な狐。

世のため八百万のために力を尽くそうと思う狐にとって、天狐は憧れである。


憧れの天狐となるべく、宙も日夜努力していた。




「今日はいい天気ですし、絶好の滝行たきぎょう日和びよりですわね!」


窓から覗く空は、快晴だった。


予定を決めた宙は修行用の白装束に着替え、腰まであるサラサラ白金はっきんの髪を高い位置でひと括りした。


昨日作っておいた笹の葉で包んだオニギリと、竹でできて水筒を風呂敷に包み、身体に斜め掛けにし前で結くと準備ができた。


家を出ると、宙は軽く指を振るった。

瞬時に宙の身長ほどの、光沢のある黒字に山茶花さざんか銀粉ぎんぷんが絶妙に散りばめられた美しい銀のおうぎあらわれた。


これも修行の成果の一つで、たましいの美しさが扇の美しさに反映し、銀が空狐であるあかしである。


それを地上から30センチに水平に浮かせると、その扇に乗った。


扇は、ゆっくりと舞い上がる。

これも修行の成果である。


「何処の滝へ行こうかしら⋯⋯そうだわ!うぐいすおきな岩里いわさとたきが水圧があっていいって、仰っていたわ!そこにしましょ♪」


鳥族の飛行の妨げにならない位置まで上昇すると、宙の乗った扇は滑るように移動を開始した。



巨大な門を潜り、景色を楽しみながら移動していると、頭上に影ができた。


何事かと上を見ると幼馴染おさななじみ烏天狗からすてんぐあさひだった。


「よう、宙」


「あら、旭。ごきげんよう」


「お前、まだこの国にいたんだな」


久方ぶりの幼馴染との再会だった。

旭は宙と同時期に日の国へ修行にきた幼馴染の一人だ。口は悪いが皆の良い兄貴分あにきぶんで、今では日の国をまも門番もんばんとなっていた。


門番は、日の国を護る第一関門だいいちかんもんとして、並大抵なみたいていの者ではなれない職業の一つである。

宙は、そんな旭をほこりに思っていた。


今日はたまたま旭が門を護る交換の時間帯だったらしい。


固有こゆう身分証明みぶんしょうめいあかしたまが、門に鎮座ちんざする巨大な水晶が反応したことと、口では言わないが可愛い妹分いもうとぶんが朝早くから門を出たことを心配して旭は宙を追ってきたのだ。


「えぇ、憧れの天狐になって、世のため八百万のために力を尽くしたいんですの」


「それは良い心構えだけどよ、深緑しんりょくの国にいる両親はいいのかよ」


深緑の国とは、宙が生まれた狐の国のこと。

宙は深緑の国に貴族令嬢ではあったが、絵本にて天狐の物語を読んだ時から天狐に憧れ、貴族令嬢とは掛け慣れた生活をしだし、10歳になる頃には両親は涙を堪えながら、日の国へ向かう宙の門出を祝った経緯がある。


「お父様とお母様とお兄様へは、たまに手紙を送ってますわ。お兄様ったら、家へ帰って来いだの寂しいだの書いてきますのよ?」


「それは、お前を心配してるからだろ?文句を言うのは違うだろ」


「でも、それが毎日30枚は届きますのよ?裏紙をリサイクルへ出そうにも恥ずかしいことばかり書くんですもの。リサイクルへは出せませんわ。もしそれが幼子おさなごの手に渡ってしまったら⋯⋯教育上、よろしくありませんわ」


「そ、そうか」


(兄君は、何を妹に書かれているのか⋯⋯)


想像したら負けな気がした旭は、気持ちを切り替えた。


「んで、今日お前は何処に行くんだ?」


「鶯の翁から岩里の滝を勧められたので、そちらに向かおうと思いますの」


「あぁ、あそこの滝はいい修行場になるな」


「まぁ!今から楽しみですわ!⋯⋯あら、門から随分と離れてしまいましたわ。ごめんなさい」


「謝るこたねーよ。つか、俺の翼ならこの距離なんて、一瞬だっつーの」


「うふふ、そうですわね。旭、お仕事頑張ってくださいまし」


「あぁ、お前も気をつけて行けよ?近頃奇妙な大気の揺れを感じるからな」


「ご助言ありがとうございます。ではここで⋯⋯行って参りますわ!」


これが旭との最後の言葉になるとは、宙はよしもなかった。





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