2 お見舞い少女
不定期すぎるけど書ける時に書きます(^_^;)
あれから、後輩の久遠さんはいつも見舞いに訪れるようになった。毎日のようにやって来ては楽しそうに今日の出来事を話す彼女に俺はいつも微笑ましく思いながら聞いていた。
いじめの方は学年主任の田中先生と友人の長谷川のお陰で落ち着いたそうだ。担任にはそれなりのペナルティが与えられて、外部機関には正式な抗議をしたそうだ。そしていじめの主犯の子はそれなりの罰を受けるところを久遠さんの言葉で反省文と親への報告で済んだそうだ。
いじめの主犯の子の親がかなり正義感の強い人のようで、かなり酷く叱られたそうで、復讐しそうなくらいまで追い詰められたそうだが、そこを我が親友の長谷川がフォローすることで事なきを得たそうだ。イケメンな友人の長谷川からの言葉で簡単に意思を変えるのはなんとも単純だが、これで久遠さんへの実質的な被害は消えたと言えるだろう。
まあ、実質俺は何もしてないことになる。仕方ない。こんな包帯男には何も出来ないからね。そんなことを冗談混じりに笑いながら話すと彼女はいつも首を横にふって言う。
「先輩がいたから、私は今こうして救われたんです。だから全部先輩のお陰です」
大袈裟なことだが、彼女は小中も似たようないじめにあっていたそうで、きっと本当に救われた気持ちになったのだろう。今では友達も出来たそうだ。
「俺も早く退院しないとね。流石に留年はしたくないしね」
「はい。でも、私としては先輩と一緒のクラスになれるなら、それもありです」
「それじゃあ、呼び方も変わるね。先輩じゃなくて、佐藤くんとか?名前でもいいね。溺くんとか」
そう笑って話すけど、最初の頃は自虐的なところが目立っていたからこれでもかなりマイルドになった方なのだ。やっぱり長年の習慣はなかなか抜けないものだ。実際自殺するまで9年近く耐えたことが俺としては奇跡に近いと思う。
「お?佐藤が女の子と二人きりとは珍しい」
そんな風にして彼女と話している時だった。爽やかな見覚えのあるイケメンは俺の親友の長谷川隼人だ。親友は久遠さんに視線を向けると微笑んで言った。
「誰かと思ったら久遠ちゃんか。おひさー」
「こ、こんにちは長谷川先輩」
「うんうん。元気そうで何より」
そう笑う長谷川に俺は苦笑して言った。
「そういうお前こそ、俺の見舞いとは珍しいな」
「たまには親友の顔でも見ようかと思ってさ。でも久遠ちゃんがいるなら梨香は連れて来なくて正解だったな」
「梨香って、久遠さんのクラスメイトの?」
「そうそう。佐藤が珍しく俺を頼るから会ってみたら面白い子でさ。だから彼女にしたんだ」
いじめの主犯の子を彼女にするとはなかなか凄いが、男でも女でも異性との付き合いさえあれば些末なことは気にならなくなるものだ。やはり会わせて正解だったと思っていると、長谷川がニヤニヤしながら言った。
「にしても、佐藤がここまで女の子に熱心になるのは初めてだよねー。久遠ちゃんとはもう付き合ってるの?」
「残念ながら、先輩後輩の清い関係だよ」
「おろ?そうなの?なんだか見た感じ普通にカップルにしか見えないけど」
「はは、俺は嬉しいけど久遠さんが照れるからあんまりからかうな」
隣で顔を赤くしている久遠さんを見てから納得したように果物を置いてから笑って言った。
「お邪魔虫はさっさと退散。早く完治させろよー」
「おう。見舞いサンキュー」
そうして長谷川が消えてから久遠さんは恥ずかしそうに聞いてきた。
「せ、先輩は良かったのですか?」
「何が?」
「その・・・私とカップルみたいって言われて迷惑じゃなかったですか?」
「いんや。むしろ嬉しいよ」
「そ、そうです・・・」
ホッとしたようにため息をつく久遠さんに俺は微笑ましいと思いながら見守るのだった。