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怪奇Drip  作者: 因島あおい
3/21

#02『自販機』











 「暑い……」


 大学の正門まで続く、長い長い坂道が今日は異常に長く感じる。


 まだ梅雨も明けたばかりだというのに、今日は気温が30℃近くなるとニュースで言っていた。


 その情報も相まって、更に暑い。


 暑い、暑い、暑い……


 Tシャツに(にじ)む汗が身体にまとわりつく。


 邪魔な上着はもう脱いでしまった。


 押している自転車がドンドン重さを増している気がする。


 足取りが重い。


 ジリジリと熱を放つ黒いコンクリートがぼんやりと波を打つ。


 こんな時期に陽炎(かげろう)??


 この坂を越えないと大学にたどり着かないのだが、坂の頂上が(ゆが)んで見えない。


 モヤモヤとゆっくり動く地面が、余計に体力を消耗させる。


 水を打てば蒸気をあげてすぐに蒸発しそうな、そんな熱気を感じる。


 なにか、飲みたいな。


 炭酸とかでスカッとしたい。


 でも、この道に自販機なんて……


 「あれ?」


 数メートル先の道路脇、白い箱型の影。


 それは不思議なものではなく、よく見知った、そしていま一番欲しかったもの。


 「こんなところに自販機あったかな?」


 メーカーのロゴが入っていない、真っ白で真新しい自動販売機。


 自転車をこけないように停め、そこの前に立つ。


 最近設置されたんだろうか?


 今まで気づかなかった。


 見てみると、お茶や水、オレンジジュースに珈琲にコーラと各種様々な見本が並んでいる。


 しかも、全て100円だった。


 「じゃあ、コーラを……」


 財布から100円玉を1枚取り出し、硬貨の投入口へいれる。


 ピッ、と音を立て青いランプが光る。


 流れる汗を拭いながら、迷いなくコーラのボタンを押す。すると、ゴトンッ、という落下音と共に当たり前のように商品が落ちてきた。


 早く飲みたい。


 はやる気を押さえながらコーラを取り出そうと取出口に手を入れた。


  ガシッ


 「痛っ!」


 右手に激痛が走る。


 見てみると……


 コーラを掴んだその手の手首を


 生気を感じられない真っ白な手ががしっと掴んでいた。


 「なっ!」


 なに、これ!


 なんで自販機の中から手が!


 「くそっ、離せ!」


 手を引っ張るがビクともしない。


 それどころか、中にどんどん引っ張られている。


 「くそ、くそ、くそ」


 左手で白い指を引き剥がそうとするがまったく剥がれない。


 爪は肌に喰い込み、手首からうっすらと血が滲みはじめた。


  グッ


 更に力が込められる。


 ズルズルと、腕が自動販売機の中に引っ張られている。


 無理な角度に力が入り、ミシリッと腕が軋む。


 「離せ! 離せ! 離せ!」


 必死に叫ぶが、辺りは静まり返り自分の声だけが空しく木霊する。


  ズルズル


 激痛と共に全身から嫌な汗が吹き出す。


 このままじゃ!


 くそ! くそ! くそ!


 容赦なく、引っ張られる腕。


 「離せぇ!」


 無我夢中で身体が捻り、そのまま思いっきり自動販売機へ体当たりをする。


  バンッ


 自動販売機が音を立てて揺れる。


 その反動で、腕を掴む手の力が少し弱まった。


 腕に渾身の力を込め、力いっぱい引き抜く。


 「うわっ!」


  ドンッ


 外れた勢いで大きく後ろに倒れる。


 すぐさま起き上がり、右腕を確かめる。


 手首にはくっきりと手の型が残っており、青紫色に変色している。


 手が動くので折れてはないみたいだが、ジンジンと痛む。


 自動販売機をみると、真っ白い腕がぬっとこちらの方へ伸びている。


 まるで獲物を求めるように、


 手を開いたり、閉じたり、


 早く来いと言わんばかりに手招きしていた。


 このままここにいちゃいけない!


 体中の全神経がここに居ることを拒絶した。


 すぐさま自転車に股がり、ペダルを漕ぐ。


 吹き抜ける風が全身の汗を飛ばす。


 私はそのまま振り返らず、まっすぐ坂を下っていった。











 どれぐらいたっただろう。


 私はまだ颯爽と坂を下っていた。


 おかしい。


 どれだけ下っても坂の下に着かない。


 流れる風景はおぼろげで変化せず、


 家はあるけれど塀だけで、どの家も入り口がないように見えた。


 おかしい。


 自転車を止め、辺りを見回す。


 変わらず太陽はジリジリと地面を焼き、辺りは陽炎に包まれている。


 止まると風がない分やはり暑い。


 ふと……


 反射的に、うしろが気になった。


 何故だか分からない。


 でも、何かに呼ばれた気がした。


 そんな曖昧な気持ちで、私はうしろを振り向いてしまった。


 「!」


 嘘……


 全身から力が抜ける。


 すぐ後ろの道路脇には


 白い自動販売機が立っていた。


 横から見えるその真っ白な姿は


 まるで、出来たばかりの墓石だった。

















 「自動販売機の珈琲って美味しくないですよね」


 彼女の右手には黒い缶、それを口についてると(よすが)あおいは苦い表情を浮かべていた。


 「自動販売機っていつの間にか設置されているけど、なんでヒトはそれを自動販売機だって認識できるんでしょうか?」


 そんなつぶやきに返答する人は今日は誰もいなかった。


 店内には早くもクーラーがかかっており、フューと静かに風を出す。なんたって今日は30℃を超えている。誰も好きこのんで外出なんてしないだろう。


 「商品が表示されてる? でもそれだけでは本当にそれが入っているかどうかは誰にも分かりません」


 淡々と続ける縁はまた缶の液体を飲もうとしたが、止めた。


 そのまま缶を逆さにして流しに注ぎ落とす。


 「なにが入っているか分からないものに手を突っ込むなんて、恐ろしいです」


 コレも、ね。そう付け加える。


 すぐに缶から流れる液体はなくなり、流しは黒く染まる。


 縁は蛇口を回し、その黒を流しはじめた。


 黒と透明が混ざり、黒くなって消えて無くなる。


 その情景を縁は静かに見守っていた。






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